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【炎の刻印】第13~16話

ⅩⅢ「彷徨 -BURNING ASHES-」

 かつては夢見薬の力によって、鏡に映る己に人狼の幻を見たレオン。狼ではなくなった今、映るのはただの人間としての自分の顔か、それとも。


ⅩⅣ「武勲 -GESTE-」

 ヘルマン、出会い方が出会い方なだけに強気で出られないのかもしれぬ。なにせ真昼間なのに生まれたままの姿であったからなあ……。


ⅩⅤ「職人―PROJECT G―」

 サブタイトルがすべてを物語る回。「プロジェクトG」のGってGAROじゃなくてじいさまのG? いや、ばあさまもいるか……。
 久々登場の鍛冶屋の弟子・フリオ。「巨大な化け物」に蹂躙された城下の復興のため、化け物を打ち倒し人々に勇気を与えた「光の騎士」を作り上げん(事実であるがゆえに皮肉な認識……)と、職人仲間たちに声をかける。仲間と言ってもみなフリオよりはだいぶベテランだ。なんなら祖父母と孫くらいの年の差がある。それもあってか、フリオはみなにかわいがられている様子である。もちろん、彼自身のたゆまぬ努力や才能、満ち満ちたやる気も、その大きな要因であろう。事件の後も腐らず、地道に工房を受け継ぎ、腕を磨いてきた。フリオがたった一人で工房を切り盛りできるのは、親方の仕込みがよかったからだ。彼の生い立ちを思うと、親方に拾われたことはフリオにとって本当に幸運なことだったのだなあとしみじみする。
 様々な職種のマイスターたちの手により、ついに発動機付き大型鎧「光の騎士」は完成する。金属パイプの代わりに用いられた腸も絶好調であるが、見た目にちょっとギョッとしてしまうのと、ナマモノなので長持ちしなさそうなのが難点か。高熱の蒸気窯と直に接続しているため、おいしそうなにおいがしてしまう恐れもある。野生の熊でもおびき寄せられたらどうするんだろう(フラグ)
 時を同じくして、城で執務を取るアルフォンソのもとにふたつの知らせが届けられる。ひとつは侍従長から、城下に「黄金の騎士」が練り歩いているというもの。もうひとつはヘルマン伯父から、城外の小さな村に怪異の目撃情報があるというもの。五代雄介のごとく執務室の窓からするりと入り込むヘルマン、確かに血縁とはいえ城勤めでもない者がふらふらと正門から出入りするのはセキュリティ上なにかと問題がありそうだし、案外理にかなっているのかもしれない。ともかく二人は夜闇に紛れて件の村に向かう。そこで見たのは、堂々たる大熊が金色の大鎧と組み合っている姿であった。
 職人たちに寄せられた魔物退治の依頼。家畜を殺し畑を荒らし、ついには人命をも奪ったその正体は、一匹の巨大な熊であった。魔物であろうと熊であろうと、安寧を脅かすからには対峙せねばならない。黄金オオカミ、初出動である。運動神経がよくて小柄なブルーノ爺さんを装着者とし、鎧の無敵装甲が熊の剛腕をはっしと受け止める。襲い来る熊を投げ飛ばし、発射するは必殺の(設計図にない)ガロウパンチ! ……しかし勝手に機構を組み込んだのが悪かったのか、折角の飛び道具はほとんどダメージを与えらえない。片手を失った鎧は背中のタンクから漏れた油に引火し、半身を激しく燃え上がらせる。意図せずに元ネタに寄せてくるとはさすが(?)。
 最後の手段として職人たちが選んだのは、蒸気窯の出力を最大に上げて熊に組み付き、そのまま鎧を自爆させる道である。あんなに時間と手間をかけて作り上げた苦労の賜物、肉屋のパンチョに至っては愛する一人息子こと食用豚セバスチャンの腸まで提供した、誰にとっても思い入れはなはだしい制作物であるというのに、ブルーノへ自爆を指示する彼らの顔には一点の迷いもない。
 これこそが、ヘルマンとアルフォンソが称賛する彼ら一般市民の強さである。伝説の「光の騎士」任せではなく、自分たちの手で自分たちの暮らしを守ろうとする姿。知恵と工夫で渡り合い、得体のしれない脅威にもみなで力を合わせて立ち向かっていく。ひとりひとりの力は小さくても、その粋を集めれば黄金騎士にだって遜色ないのだ。
 ヘルマンの人命救助もあり、無事熊は倒された。おもむろに現れて労をねぎらうアルフォンソ王子の姿は、国の隅々まで目を行き届かせ、自ら駆けつける素晴らしい為政者として、職人たちに感動の涙を湧きあがらせるものである。王と民の関係が良好なのは何より。

 一方のレオンは未だにララの家に居候している。レオンの背中を流そうと無理やり風呂に乱入したララは、レオンの体中に刻まれた傷跡を見てしまう。レオンは傷を殊更に隠そうとはしないし、ララもそれについて深く尋ねることはない。ただ何事もなかったかのように、その背中をタオルでこすっている。やたらに怖がったりいぶかしんだりしない、本当によくできた子だ……。
「ずっといてもらいたい」と盛り上がる女性陣をよそに、ララの祖父だけはいずれ来るレオンの旅立ちを予見している。本人の望むと望まないとにかかわらず、運命はいつも突然にその選択肢を突き付けてくるものだ。その別れが悲しいものでないことを祈るばかり。


ⅩⅥ「医術―CURE―」

 とうとう主人公であるところのレオンが一度も出てこない回である。今回の主役はヘルマン、そしてヒロインはヒメナさん。
 そして裏の主役であるところの敵役は、ペストマスクに逆さ十字を背負った放浪医師・ファビアン。王都にやってきた彼の正体はミケルという若者である。とある村で生まれ育った彼は、はやり病で今にも死にそうなファビアンを目の前にし、発作的に縊り殺してしまう。ゲートである医学書に、「本物のファビアンになれる」と唆されて……。
 ミケルの生まれ育った村は有名な放浪医師であるファビアンを歓迎していた。おそらく村には気軽に診てくれるような医師はおらず、遠く都会の病院に行けるような金持ちも珍しいといったところか。ミケルが祈りをささげる父母の墓は荒れている。乱雑に建てられた墓石は無秩序だ。死者のことをかまう余裕など、この村の生者には無いのかもしれない。
 ミケルはこの暮らしから抜け出すため、ファビアンに弟子入りして医学を学ぼうとしていた。わざわざ読み書きも修め、故郷を捨てる覚悟も出来ている。闇に魅入られ、ホラーに身を落としこそしたが、彼の「医者になりたい」という芯だけは本物だったのかもしれないと思う。粗雑乱造の墓所は、例えば伝染病で次々に村人が死に、墓づくりが追い付かなかったことが理由かもしれない。悪い噂を立てずに人間を食い続けるためかもしれないが、ファビアンに扮したミケルは恐らく村々を回り、病人の治療に精力を傾けてきた。いみじくも彼自身が言い募ったように、食った人数よりも救った人数の方が多いのだ。そしてミケルはまた、戦いの最中に、自ら負わせたヘルマンの手傷を治療してやりさえする。
 ミケルがただ自然治癒力の高まった人間を食いたいだけなら、例えばその医学の知識をもって道々で病をばら撒いてもよいだろうし(自分で病ませ自分で治すマッチポンプ式の食糧工場だ)、あるいは貴族でも相手にどこかに診療所を作るというやり方もある。実際、実写『牙狼』にはそんな外科医のホラーも存在していた。
もちろん、病に苦しむ老ファビアンを自ら手にかけた時点で、ミケルが人の道を外れたことは明白である。だが、自分の手伝いをしてくれるヒメナに軟膏をプレゼントした行為は、食事の下ごしらえというよりは純粋な気遣いのようにも思えるのだ。
 ラスト、伝染病から回復したヒメナはヘルマンから「ファビアンは街を出た」と聞かされる。
「仕方ないわね。先生を待ってる人が、たくさんいるもの」
 ホラーにさえ魅入られず、真っ当に医学の道へ進んでいたら。あるいは老ファビアンがいますこし健康であれば。……たらればを考えても、詮無いことではあるが。

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