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【キュウレンジャー】第45~46話

Space.45「ツルギの命とチキュウの危機」

 ドン・アルマゲとの最終決戦場は地球である。プラネジュームを大量に有し、ひとたび爆弾となれば宇宙全てを吹き飛ばすような、小太郎とツルギの故郷だ。
 自分の命の限界を悟ったツルギは、刺し違えてでもクエルボ=ドン・アルマゲを倒すと決意を固めていた。ドラマティックなスポットライトの中で、ツルギはまっすぐにラッキーを見つめ、「時間が無いんだ」と鋭く告げる。ホウオウキュータマの力で生命を分け与えられたラッキーは、不吉な予感を隠しきれない。実際にブリッジの照明が落ちているわけではなく、演出のためのスポットライトなのだが、光の当たった二人だけに共有された緊迫感のようなものがすっと立ち上がってくる。次のカットで写るラプターが通常の明るい照明の中にいるので、なおさらスポットライトの異質感が際立つ。

 チキュウに待ち構えていたのは小太郎の懐かしき弟・次郎、異形と化したクエルボ、そして因縁のアントン博士である。
 キュウレンジャーはいつも通り、二手に分かれる。というか、クエルボの姿を見た瞬間、目にもとまらぬ速さでスターチェンジしたツルギが飛び出していったのだ。その場を仲間に任せ、ラッキーはツルギの背を追う。
 やっと追いついたラッキーが見たのは、ぼろぼろになって蹲るツルギの姿であった。かつては戦いに向いていなかったはずのクエルボが、体調の悪さもあるとはいえ、今やツルギを圧倒している。
 この力こそ、クエルボとドン・アルマゲを繋ぐ鎹であった。かつてツルギがドン・アルマゲを倒し損ねた時、瀕死のクエルボにドン・アルマゲは囁いた。
「力が欲しいか……?」
 クエルボはずっとツルギに憧れ、ツルギのような男になりたいと願っていた。ドン・アルマゲのその誘いは、彼にとっては渡りに船だったわけだ。朦朧とした意識の中だったとはいえ、ジャークマターに与したことをクエルボは全く悔やんでいない。それどころか、ドン・アルマゲの力を手に入れた瞬間、彼は喜びに打ち震え、その力を試そうと自らの分身をツルギのもとへ送り込みさえしている。二度も倒したはずのドン・アルマゲが現代に生き続けている理由が、ここでやっとはっきりした。ラッキーとオライオンが死ぬ気で倒したあのドン・アルマゲは、ただの分身にすぎなかったのだ。
 さて、「ツルギのようになりたい」「ツルギを越えたい」だけを理由に力を手に入れたクエルボが次に望んだのは、宇宙自体を消すことであった。彼の説明によると、宇宙を消すことでクエルボ=ドン・アルマゲは宇宙自体に憑依することが出来、つまり宇宙そのものになれるのだという。瀕死のクエルボに憑依したように、徹底的に傷めつけた相手には乗り移ることができる、ということなのだろうか。さらにクエルボは、自分こそが救星主であるとまで主張する。宇宙を消すことにより、「宇宙を苦しみから解放してあげる」のが彼の願いである。「宇宙を滅ぼしたいだけだ」とすぐさま反論するラッキーに、クエルボは「君たちにぼくの気持ちは分からない」と冷たく言い放つ。かたや強運を持つしし座の王と伝説の宇宙大統領、かたや憧れをこじらせた元落ちこぼれ戦士。確かに認知の回路が違いすぎて、本当の意味で気持ちを理解するのは困難かもしれない。
 ラッキーを守って傷だらけのツルギをあざ笑いながら、クエルボは飛び去って行く。「盾は俺の仕事じゃなかったのか」となじるラッキーに、ツルギは初めてはっきりと自らの死を予告する。ツルギの命はホウオウキュータマによって与えられたものだ。自分に力を分け与えたことが寿命を縮めることになったのかとラッキーに問われ、ツルギは否定しない。ごまかしたところで、下手な嘘ではすぐに見抜かれてしまうだろう。それに、命を削ってでもラッキーを助けようと思ったのは紛れもなくツルギ自身の意思であり、その決断は否定されるべきものではない。
 二人の帰還したブリッジは、重たい空気に包まれている。自らの命と引き換えにしてもクエルボを倒す、とツルギは改めて宣言する。そんな中、ラッキーは突然「平和になったらやりたいこと」を語りだす。……ドン・アルマゲを倒し、物語にエンドマークが付いたとしても、彼らの日々の暮らしは変わらずに続いていくのだ。「宇宙を救っても終わりじゃない」「12人で平和になった宇宙を生きたいんだ」。諦めるなと叱咤するラッキーや、楽しげに夢を語る仲間たちの姿を見て、ツルギの瞳に再び火が灯る。
「あがいてやる。……あがいて、みんなで伝説を作る!」

 さて、ツルギとラッキーがドン・アルマゲを追っていった後。現場にはアントン博士と小太郎たちが残されている。
「わしは宇宙を消した博士として、永遠に語り継がれるのじゃ~!」
「誰もいなくなったら語れないじゃん! ……バカなの?」
 小太郎の何気ない一言がアントン博士をきずつけた。
 なんてふざけている場合ではなく、怒れるアントン博士は自ら脳の保管ボックスを突き破り、移動の足に使っていたゼロ号に寄生。このゼロ号、アントン博士の言葉に合わせてちょろちょろジェスチャーしたり動いたり、だいぶ意思疎通が図れているように思っていたのだが、やはり憎い相手は自ら身体を動かして打ち倒したいのが人情か。
 ゼロ号の誇るべき身体能力で小太郎たちを圧倒するアントン博士。集まってきたチキュウ人のギャラリーたちに「キュウレンジャーにとどめを刺せばお前たちだけは助けてやる」と甘言をちらつかせるほどの余裕っぷりである。どうやらキュウレンジャーがさきにチキュウを訪問した際、チキュウ人から手痛い歓迎を受けたことを知っているらしい。案外情報共有が出来ているジャークマター。そういうちょっとした小ネタみたいなものをちゃんとチェック・記憶しておいて、ここぞというときに持ち出してくるアントン博士はやはり頭の使い方がお上手である。
 だが、博士の目論見は外れる。手に手に武器を持ったギャラリーたちは、次郎の「がんばれ、キュウレンジャー」という声を皮切りにして次々とアントン博士へ攻撃を始めたのだ。ホシ★ミナトの呼びかけのおかげか、いつの間にかチキュウ人は親キュウレンジャー派になっていたらしい。もちろん、小太郎やツルギのキュウレンジャーとしての活躍も、その宗旨替えには一役買ったであろう。かつては口さがない罵声を浴びながら「同じチキュウ人として恥ずかしい」とうつむいていた小太郎。いま故郷の人々から、そして大切な弟から応援と勇気をもらって、どんなにか嬉しいことだろう。
 捨て台詞を吐いて一時退却したアントン博士が次に打ち出したのは、命名「バカの大作戦」。自身から発する特殊なビームでチキュウ人をインダベーに変え、同士討ちさせようという合理的な一手である。駆け付けた小太郎たちの前で、博士は次郎を人質に取り、彼までもインダベーに変えてしまおうとする。
 そこに一閃するはオレンジ色の鋭い鞭。自らの尾を使い、スティンガーが次郎を取り戻したのである。地面に下ろした次郎の頭を撫で、微笑みながら言うことには、「小太郎は俺の弟みたいなもんだ。だから、お前もアニキって呼んでいいぞ」。……その呼ばれ方、さては結構気に入っているな?
 スパーダたちにインダベーと化した市民の対応を任せ、小太郎たちはキュウレンジャーにチェンジする。背中合わせで丸く並び、一人ずつ名乗りを上げながらスーツを身にまとっていく。素面名乗りなんて最終回でやる事じゃないですか! 好きです! 変身した瞬間シュッとスリムになるオウシブラックがちょっと面白い。
 そこからはもう、一気である。長柄の武器を軽々と扱い、確実にダメージを入れていくコグマスカイブルー。ブラックが斧で隙を作り、そこにサソリオレンジの尾がしなる。さらにオレンジが突き込んだスピアの石突を、ブラックのロケットパンチが真っすぐに押し飛ばす! その威力ときたら、構造物を突き抜けて奥の柱に激突し、クレーターを残すほどだ。ぜひ定番コンボにしましょう。
 とどめのオールスタークラッシュののち、巨大化して分離・離脱しようとしたアントン博士の脳をオリオンバトラーがゼロ号のボディにホームランして見事グッドラック。お見事。あの棍棒、すっかりバットだと思われている節があるな。

 いよいよ、最後の出撃である。これが最後のキューレットから、転がり出たのはキュウレンジャーキュータマ。全員出撃の合図だ。
 ラッキーはいつものジャケットを脱ぎ、白い長コートを身にまとっている。しし座系の王に即位した際、ツルギとスティンガーから贈られたものだ。
「すなわち、12人の究極の救世主。キュウレンジャーだ!」
 ツルギのお株を奪うラッキーの台詞に、ツルギ自身は「大げさだなあ」とまんざらでもなさそうな表情である。
 オライオンから引き継がれた血筋。散っていった父の思い。仲間たちと積み重ねてきた時間。ツルギから与えられた命。すべてを背負って、ラッキーはこのコートに袖を通している。
 地球の影から登ってきた太陽が、居並ぶ面々の顔を明るく照らしていく。まるでオープニングの一番最初のカットのようだ。戦いが、これから始まる。


Space.46「希望と絶望のはざまで」

 諦めるな、さすれば道は開かれん回。

 のっけから、絶望的な状況下でのスタートである。聳え立つ超弩級のビッグモライマーズはクエルボの堅い守りに固められている。地面を埋め尽くすようにゆっくりとこちらへ向かってくるのは、インダベーとツヨインダベーの隊列だ。対するこちらはたったの12人。常識的に考えたらあまりにも不利な状況なのだが、ただ一つ違うのは、彼らが究極の救星主であるということだ。
 究極の救星主とは、いったい何なのだろう。クエルボも自らを救星主だと名乗っている。莫大な力を持ち、宇宙を良くする(少なくとも、行為者の主観から見て良い状態にする)ためにはたらく者が救星主なのだろうか。
 ラッキーたちは、最初からこんなに強かったわけではない。最初はメンバーもほとんどおらず、ダイカーンやインダベーにすら苦戦していた。それでも旅を続け、様々な星を開放していく中で、次第に強さとメンタルを身につけてきた。
 すなわち、究極の救星主とは、何があっても諦めない心の持ち主なのだ――諦めず戦い続ければ、いつかは勝利に手が届く。心折れずに何度でも挑み続ければ、必ず勝機が見えてくる。
 それを象徴するかのような出来事が、ラッキーの身に起きる。クエルボによってカラスキュータマの牢獄に転送されたラッキーは、そこで未来の一つの可能性を目にする。ツルギがクエルボに敗れ、みなはブリッジに撤退して健闘をたたえ合い、静かに地球の爆発を待っている。ここまでよく頑張った、これ以上何をやっても無駄だ、と現実から目をそらすハミィたち。だが、仲間たちが止めるのを振り切って(ナーガが手のひらではなく上腕でラッキーの肩を押しとどめていた、マジで体重をかけて止めるやつだ)、ラッキーは操縦席に飛び込む。
「苦しくても、つらくても、歯を食いしばって支え合って戦ってきた。その戦いが無駄なわけがない!」
 トリガーに両手をかけ、ラッキーは後ろを振り返らない。カラスの黒い羽根が舞い散る中、まっすぐに今にも爆発しそうなチキュウだけを見据えている。
「俺は最後まで信じる、信じぬいて見せる。絶対に宇宙を救えるって!」
 引き金を引く。バトルオリオンシップの砲撃がチキュウに向かって真っすぐに打ち出される。
 今にも爆発しそうな惑星に砲撃したところで呼び水にしかならない気もするが、ともかくラッキーは行動した。諦めずにあがき続け、牢獄の与える緩慢な死を全力で否定する。それこそが、脱出の鍵であった。見事カラスキュータマから脱出したラッキーは、現実世界でツルギの窮地をも救うことに成功する。まさに「ヨッシャラッキー!」である。
 合流したナーガ・スティンガーとともに、彼らはクエルボを建物の外へ弾き飛ばす。ビッグモライマーズを覆っていたバリアは消え、すかさず司令たちのオリオンビッグバンキャノンが炸裂。すんでのところで、チキュウ爆弾化計画は無事に阻止される。

 クエルボはずっと、ツルギだけを見続けていた。
 最初にラッキーとツルギがビッグモライマーズにたどり着いた時、彼は「欲を言えば君(ツルギ)二人きりがよかった」と不敵に告げる。ツルギとラッキーが互いの盾となって庇いあうのを見れば、「そうか、君は明るい人が好きなんだ。なんかムカつくな……!」とラッキーをカラスキュータマの空間に飛ばしてしまう。
 長年にわたるドン・アルマゲとの一体化が、彼の精神にどれだけ影響を与えているかは定かではない。もしかすると、アルゴ船とともにツルギが復活したことで、ドン・アルマゲの中に眠っていたクエルボの意思が再び顔を出したのかも。かつて持っていた正義の心、優しい心は枯れはてて、ただツルギへの執着だけが残っている。ドン・アルマゲ自身もツルギの肉体を狙っていたために、より強くその執着が燃え上がっているのかもしれない。
 自分がツルギの盾になって死んだ理由について、クエルボは「戦う力のない自分が宇宙に名を残すため」と嘯く。「ツルギを仲間と思ったことは一度もない」「仲間などと聞くと虫唾が走る」とも。そう言いながらも、ツルギに対等な仲間として認められているラッキーにはしっかり嫉妬しているので、これは彼の本意ではない。クエルボが名を残したかったのは多分、宇宙なんかじゃない。ツルギの心にだ。仲間と思えなかったのは、ツルギが嫌いだからじゃない。ツルギに憧れすぎて、戦う力のない自分が憎かったからだ。ホウオウの発するまばゆい光は、カラスの身には眩しすぎた。
 最後にドン・アルマゲの呪縛から解放され、クエルボは元のカラスの姿に戻る。「気持ちに気づいてやれなかった、すまなかった」と謝罪するツルギを、クエルボは真っ向から拒絶する。おもちゃのような剣を振り上げ、ツルギに襲い掛かろうとするクエルボ。先ほどまでとは全く違い、まるで初心者のような構えだ。クエルボが振り下ろす剣先を易々と避け、ツルギは一閃。クエルボの胸に刻まれるひとすじの傷。そして、彼の身体は灰となり、見る見るうちに崩れ去っていく。
「それでもお前は、俺様の大事な仲間だ」
 ツルギの言葉を、クエルボが耳にすることはない。

 クエルボの死により、ついにドン・アルマゲを倒した一行。だが例によって例のごとく、そうは問屋が卸さない。滅びた肉体を捨て去ったドン・アルマゲが次の寄生先として選んだのは、豈図らんや、ツルギの身体であった。
 不死身の男であるツルギの肉体を、きっと前々から狙っていたのだろう。抵抗を受けながらもその身を支配し、チキュウから吸い取ったプラネジュームでホウオウの力を復活せんとするドン・アルマゲ。赤と黒に彩られた禍々しい翼はたくましく、そこにいつものジャケットがついた姿で「すなわち」などと話す姿は完全に乗っ取りが完了したことを思わせる。
 だが、それすらツルギにとっては想定内の出来事であった。彼はもとよりドン・アルマゲを自分に寄生させ、自分ごと倒されるつもりであったのだ。それはおそらく、クエルボを救い出すための作戦の一環だ。悲しいことにクエルボの命を助けることは能わなかったが、フェーズだけは滞りなく進行している。
 生き残る方法を探し、最後まであがくとラッキーに約束していたツルギ。だが、「これが俺様の生き方だ」。苦しそうに告げる声には微塵の揺らぎもない。
 出撃の前夜、ツルギはラッキーに「戦いが終わってもいつまでも仲間でいてほしい」と頼む。さきの戦いではオライオン以外の仲間をすべて失ってしまったからこその言葉だろう。その時は当然、すぐにその願いを受け入れたラッキーであるが、いま再び同じセリフを突き付けられて、今度は「断る」と断固拒否の姿勢だ。ツルギが自分の生き方を貫くのならば、ラッキーも自分の生き方を貫くだけだ。すなわち、「仲間は絶対に見捨てない」。
 そしてショウ司令も、ラッキーと同じ思いを抱いている。ツルギ=ドン・アルマゲが放った特大のエネルギー弾を、司令は自ら盾となって受け止める。ラッキーたちを激励する言葉を残し、彼はキュータマごと、ドン・アルマゲの肉体に取り込まれてしまうのであった。

 余談。司令の「死ぬな」という命令や、スティンガーの「俺の毒の餌食になりたい奴はどいつだ!」という台詞。最後の戦いだからって、みんな今まで我慢してたけど言ってみたかったことを全部言ってない? などと思う。前回のドン・アルマゲの「力が欲しいか……?」もそう。やっぱり悪の親玉としては一度くらい問うておかないとなあ。悔いなく生きるのはいい事ですね。

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