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取材で作る質問票は、時に「お守り」であり「台本」である

取材準備は安心・納得できるまでとことんやる。

当日の成り行きで話が盛り上がるのが一番ですが、それも準備があった上での展開だと思うんです。

だからこそ、質問票づくりの時間はなるべく多く確保しています。


■ インタビュイーのリサーチ
■ ピックアップする話題の選定
■質問(話を展開)する順番
■ 相手が答えやすい質問の仕方

上記は質問票づくりで行う主な作業で、スムーズな対話のためにも重要です。「聞き方」にこだわればこだわっただけ、本番で「今この場でしか聞けない話」を聞くことができる。入念な準備が実りある取材に、さらにオリジナリティーの高い記事につながりますので、この工程は疎かにできません。


準備に力を入れる理由や実際のやり方に関しては、十人十色だと思います。その人の性格やこれまでの経験、ものの見方などによって、重視するポイントは違ってくるはずですからね。

かく言う私にも、先ほどお話しした理由のほかに、ちょっと変わった理由が2つあります。



① 自身の心の平静を保つため

私は心配性で小さなことも気になる性格のため、「いかに躓かないか」も考えながら質問票を作成しています。

なんだか初心者っぽい理由ですが、取材では進行役である自分自身の調子を整える必要があるのです。

・初めに何を話すか?
・どんな順番で質問して話を広げるか?
・必ず聞く質問はどれにするか?その時間配分は?

このへんの準備とイメトレが不十分だと、進行がグダグタになり、常にその場その場での判断になり、やがて自分のペースを見失って…という悪循環に陥ってしまいます。
インタビュイーさんの中には緊張している方や取材に慣れていない方も多いので、こちら側がどこか自信なさげだと、相手はますます不安になってしまうでしょう。


また、取材以外のシーンでもいえますが、初対面での第一印象は場の雰囲気や会話の展開に影響します。ここで相手に失礼なことをして不快にさせたり、脈絡のない話で混乱させたりしないことが肝心。序盤のコミュニケーションがうまく図れないまま本題に入ってしまうと、そこから話を弾ませるのは一苦労です。

そのため、私は取材のルーティンとして
「取材に時間を割いていただいたことへのお礼」と
「取材の概要(どんなことを質問するか)」を
最初に必ず伝えるようにしています。インタビュイーさんに対する最低限のマナーでもありますからね。

インタビュイーさんは質問に答える心構えができて、私は幸先の良いスタートを切ることによって安心できる。質問票は、取材をトラブルなく行うための「お守り」にもなってくれるのです。



② 執筆段階になって困らないため

原則、取材は一発勝負です。

会話をうまくリードできなかった、執筆段階になって記事に書ける話が少ないことに気づいた―― それらの原因が段取り不足にあるケースも。しかし、こちら側の都合で取材のやり直しはできませんので、手元にある限られた情報でどうにか料理するしかないんですよね…。


だからこそ私は準備に力を入れ、取材が始まったら今度はインタビュイーさんの声や表情に意識を集中させます。

・一問一答で終わらせず、そこから広がった話もしっかり掘り下げる。
・その場で抱いた興味や疑問も、素直に聞いて教えてもらう。
・相手の言葉に力がこもる瞬間を見逃さない。

これらを念頭に置きながら、その方が考えていること、情熱を持っていること、そして伝えたいことに近づいていきます。


「取材の場で聞く話をベースに進行するなら、そこまで質問票を作り込む意味がないのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。

仰るとおりです。

質問票とは取材進行の骨子であり、そこに取材で得られた情報をつけ足して再構成することで、ようやく記事が完成します。

とはいえ質問票は「インタビュアーの最低限のセリフが書かれた台本」でもあり、取材の目的や記事の方向性を見失わないようにするための軸ともいえます。


こう考えるようになったのは、ある司会が得意な方のお話をたまたま耳にしたのがきっかけです。

自分は毎回ガッツリ台本を作るタイプで、進行や自分のセリフを完璧に頭に入れた状態で本番に臨む。
理由は「相手の発言を聞き逃さず、即座に反応できるようにするため」。
次はこうしなきゃ、ああしなきゃと自身の行動に気をとられてしまうと、相手に十分な意識を向けられなくなってしまう。
だから、自分の役割を最小限のコストでこなせるように、必要なことは事前に頭に入れておく。


これは取材にも生かせる話で、共感しかありませんでした。
そもそも台本がない=完全フリートークということですから、よほど場数を踏んでいて頭の回転が速い人でないと「難易度:ベリーハード」です。

記事を書くという前提のもと、初対面の方とノープランで1時間話すとなったらどうでしょうか?
……苦し紛れに絞り出した話題を必死に広げようともがく姿が容易に想像できてつらいです(笑)。視野も相当狭くなっています。そういうときは相手の話を聞いているようで聞いていないので、真の意味で対話をする余裕はなかなか持てないでしょう。


話の内容も、盛り上がれば何でもいいという訳ではありません。インタビュイーさんに取材を楽しく、気持ち良く受けてもらうことは大切です。それでも、記事として成り立たせると考えたとき、やはりブレない軸が1本必要なのかなと思います。



準備はしようと思えばどこまでもできてしまいます。なので場合によっては非効率だったり、取り越し苦労に終わったりすることも。

ただ、取材を重ねていると「ここまでやれば大丈夫!」というラインがだんだん見えてきます。インタビュイーさんのため、そして自分のために準備段階から頑張っておくと、取材後に反省する回数は減っていくでしょう。

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