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30代になると、人生は楽しくなる?

20代のある日、私は美容院でファッション誌を読んでいた。

芸能人へのインタビューページを見ていた時、ある言葉に目を奪われる。

「30代になって、人生がどんどん楽しくなってきたんです」


巻頭特集として組まれたインタビューページを彩るのは、TVに引っ張りだこの女優さんや、誰もが知るような大物アーティストの方などだ。彼女たちの表情はキラキラと輝いて見え、仕事に対する熱い姿勢から強いパワーが伝わってきたことを覚えている。そして、私はこの言葉を口にする人たちに共感と憧れを抱いた。何故なら彼女たちが語る若き日の苦労や葛藤は、まさに当時の私と重なる部分があったから。

芝居を面白いと感じない。笑顔の写真は撮りたくない。強いこだわりがあって、他人の意見を受け入れられない___数ページの情報から当人の真意を100%理解することは難しいものの、それはきっと若さゆえの意地やプライドだったり、単なる食わず嫌いだったりするのだろう。もちろん、自分の「好き」や「得意」を見つけて極めることは良いことだと思うけれど。


その頃の私は、アパレル販売員としてつまらない日々を送っていた。希望とは正反対のブランドに配属されたことに絶望し、着たくない服や履きたくない靴を身につけ、社交的な性格でもないのに毎日笑顔をつくって接客につく。「どうすれば自分が望むものを手に入れられるか」なんて考えもせず、心の中で膨らんでいく不満から目を逸らすように、休日はプライベート用の服に散財。体力や行動力を良い方向に使えずどこか諦めたような雰囲気が漂っていて、慢性的なストレスに苛まれていたのが20代前半の私だ。そんな調子だったから、「30代になると人生が好転するなんて、本当?」と懐疑的だった。「自分も彼女たちのような人生を送るにはどうすれば良いか」をここでも考えずに。

20代半ばになって、一つの変化が起こる。つまらない見栄を張らず、表面だけ取り繕うことをやめ、自分らしい生き方を追求するようになったのだ。何が自分を苦しめるのかを嫌というほど理解した人間の末路というべきか、自分の感情にとことん素直になることにした。すると次第に心の中の整理整頓ができて、本当に大切なもの、譲れないものが見えてきた。

自分らしい選択ができるようになると、随分と心が穏やかになる。気持ちが前向きになり、辛いときや忙しいときも踏ん張りがきき、失敗しても他人に責任を押しつけることはない。自身の軸を曲げられるようなことがない限り、たいていのことは柔軟に受け止められる。現状を楽しむ余裕さえ出てくるのだから不思議なものだ。そして長年の経験を「実力」という名の武器に変え、ワンランク上のパフォーマンスをめざすという好循環が生まれる。


話を本題に戻すが、彼女たちにもまた、何らかの思考の変化があったという。きっかけはお世話になった人、達成感がひときわ大きかった仕事など十人十色。その中でみんなが口を揃えて言うのは、昔よりも自分らしく自然体で過ごすようになってから、仕事が楽しいと思えるようになったということだった。あくまで軸はぶらさず、基礎を固めた後は新たな領域に挑む。すると「あれ、やってみると意外といいじゃん!」という発見もあったりする。ありのまま生きていると、その人の本来の個性や魅力が前面に出てくるので生きやすくもなるのかな、なんて思う。

たくさん悩み、試行錯誤を繰り返しながら前に進み続けた人には、数々の経験と確かな自信、精神的な余裕がある。そして今、彼女たちはなお進化し続けている。

「30代になると、人生は楽しくなる」

20代の私にかけられた言葉の魔法は、多分一生解けない。

30代は始まったばかり。40代も、50代も楽しいものにしてやろう。

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