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息子のカメラ

新宿で息子が使うカメラを探していた。

「テストで100点取れたら買ってあげるよ」
安請け合いしたことは間違いないが、息子が勉強を頑張るモチベーションになるなら良しとしなければならない。
息子へのご褒美を口実に僕がカメラを買おうという魂胆ではない。多分。

最近はフィルムカメラがブームだけど、やはりデジタルが便利で最強。
コスパの面でもデジタル、特にミラーレス一眼を全力で勧めたい。
流行りに乗りたいならαシリーズでもいいし、在庫があればZfだっていいじゃない。MFTならG9ⅡもあるしOM-1なんて何処に持って行ったって安心安全だ。レフ機が良ければPENTAXもある。

それでも息子が欲しがったのはフィルムカメラだった。
最初に持たせたカメラがフィルムカメラだったのが影響したのかもしれない。
息子が使った最初のカメラはバルナックだった。
フィルム一本を撮り終わった後の巻き取りが特に好きみたいで、ローレットが施されたノブをクルクルと巻いて最後に一瞬トルクが掛かって軽くなる瞬間が心地良いという。
分かる。
僕もその瞬間が好きだから(ちゃんと撮れていたんだと安心できる瞬間)。

ファーストカメラがLeica Ⅲaというのもなかなかひねくれていると思うけど、次に使ったカメラが「爆弾おにぎり」ことLeica R8だ。
シャッターが下りる瞬間のミラーアップの感覚が好きなんだとか。子どもの手にはボディが大きすぎるけれど、エルゴ形状のR8は意外と持ちやすいらしい。
着けているレンズが重量級のVARIO ELMAR 28-70mmなのでとにかく重いとは言っている。

親(僕)の影響とはいえ息子のカメラ遍歴の最初のページに変な癖を付けてしまったことに罪悪感がないわけではない。

そこでいよいよ息子所有のカメラを買ってあげたいという親心の登場となる。
フィルムカメラをリクエストされた時はランニングコストを考えて「うーん」と唸った。
でもフィルムから入ってデジタルに移る(そしてフィルムに戻る)というのはカメラ界隈ではよくある話なので、最初の1台にフィルムカメラを選択することは分からないでもない。

フィルムカメラを買うことは了承した。
問題は何を選ぶかだ。
ハーフカメラとか良いよ?倍撮れるからね。
と、コストの面から勧めてみるも「普通のやつが良い」とのこと。
普通のやつかぁ。
Rollei35は?コンパクトでレンズの性能も良いし。Tesser凄いよ。
と、自分の物欲丸出しで勧めてみるも「レンズが交換できるやつが良い」とのこと。
選択肢は無限だなぁ。

インタビューを繰り返す内に辿り着いた息子の理想のカメラは「Leica M6 TTL」という結論に至った。完全に予算オーバーだ。
残念だ。僕もM6は良いカメラだと思う。でももう少し手の届きやすいカメラにしてもらいたい。たまにM3使っていいからさ。

そこで一眼レフ機を勧めてみると「悪くないね」とおっしゃる。
君はブレッソンの生まれ変わりか何かなのかな?

さて、一眼レフと言っても選択肢は多い。
こうなると見た目や手に持った感じのフィーリングが大切になる。それに機械式シャッター機となるとビンテージカメラになるから整備もしっかりされているものが良い。

候補は沢山あったけれど、店頭在庫や予算の関係など諸々の選考を経て第1回息子のカメラ杯の決勝進出を果たしたのが
ASAHI PENTAX SP
Nikon FM
この2機種だった。

SPのポイント
なんと言ってもPENTAX。M42マウントは沼れる。Super Takumar使える。絞り込み測光は面倒かな。

FMのポイント
とにかくNikonである。不動のFマウント。小さくて軽くて使いやすい。一周回って最近流行りのデザイン。でもNikon。

息子の決断は早かった。
Nikon FM

何で?
黒くてかっこいいから。
ですよね。

カメラは持っていて気分が上がらなければならない。父親のDNAはしっかりと受け継がれているようだ。

レンズは何でも良いと言うのでAi NIKKOR 28mm f2.8を買った。
28mmを使えるようになれば何でも撮れる(と僕は信じている)。寄れるレンズは便利。開放f2.8なので晴れた日中でもシャッタースピードは1/1000あれば何とかなる。そして何より安かった。

FMとの組み合わせも良い

このFMは初期型でシャッターボタンの肩にローレットが施されている。
ブラックペイントの塗装は重厚で質感がかなり良い。一部地金が見えている部分もビンテージ感があって悪くない。モルトも綺麗で(貼替え済み)ファインダーにチリもなく視界良好。露出計も正確なようだ。販売店による一年間の保証付き。

名機として名高いのはFM2かもしれないけれど、プロダクトのフィロソフィーは初代に最も強く表れるものだ。実際に比べてみると質感はFMの方が良い気がする。
FM2の1/4000のシャッタースピードは、あればあるで便利かもしれない。でも露出オーバーするなら絞れば良い。M3にSUMMILUXの組み合わせでも開放で撮れるしそんなにシビアに考えなくても大丈夫。

52mm経のレンズフィルターも買って一緒に受け取る。カメラが入った紙袋を持つ息子はどこか誇らしげだ。
帰りのエレベーターで老兄が「僕も写真撮るのかい?」と息子に声を掛けた。
「まあね。フィルムカメラだけどね」と素っ気なく返事をする息子。
「お父さん楽しみですね」とM10を提げた僕を見て笑う。
「将来不安でなりません」と僕。

帰宅するとすぐにフィルムを詰めた。
バルナックに飼い慣らされているのでFMのフィルム装填がとても簡単に感じる。実際簡単なんだけど。
露出計の見方と露出合わせの方法を簡単に教えるとそのまま外に出かけてしまった。新しいカメラやレンズを買うと直ぐに撮りたくなるよね。

試写から帰ってくるとフィルムのカウンターは18を回っていた。思い切りが良いな。カメラなんてシャッターを切ってこそなわけだから正しい姿勢ではある。フィルム代と現像代を勘定しながらレリーズボタンを押す僕の何と浅はかなことか。

ともあれ、無事に手に入れた息子のカメラ、Nikon FMとNikon Ai NIKKOR 28mm f2.8は取り敢えず僕の部屋の防湿庫に保管することになった。
なるほど、まだカメラ1台分なら空きスペースがあるんだな。新しい発見(購入フラグ)は思わぬところにあるものだ。

今はPeakDesignのストラップを貸しているけど、専用のストラップも用意してあげる必要がありそうだ。レザーストラップが良いとか言い出すんだろうな。将来が不安で仕方がない。


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