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その静寂だけが心を穏やかにしてくれる

先日、『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』という映画を見ました。

この映画の感想と、自分がとても気になった言葉があったのでそれについて書いていこうと思います。映画のネタバレも少し含みますので気になる方はお気をつけくださいまし。


映画の感想

この映画は表向きには「突発性難聴」に関する話です。

主人公ルーヴェンはメタル系のバンドのドラマーであり、20代後半くらいの男性です。常にライブ中に大音量に晒され続けたことで、ある日突然難聴になってしまいます。

ルーヴェンは彼女のルーとバンドを組み、二人で大型のバンの中で暮らしながらアメリカ中を旅をしてライブで生計を立てています。最初はこの生活に少し憧れを持ちそうになりました。とても素敵な生活だけど、お金がない事実が浮き彫りになってくると少し苦しくも感じてしまいました。

この映画では難聴の当事者と周りの人間関係にどう影響を及ぼすのかということも描かれています。また視覚的にだけでなく音響も使うことで、実際に難聴になるとどのような感覚になるかをイメージしやすいように描いています。

そういう意味でも工夫が凝らされている映画なので、見ていない方はぜひ見て欲しいです。

僕、個人としても音楽を作ったり普段から大音量で音楽を聴いたりするので、人ごとではないと感じました。聴力に関しては最近少し衰えを感じたりするので、耳を労っていきたいですね。

人生の残酷さ、過去への別れと新たな自分の発見

冒頭で表向きは「突発性難聴」をテーマにしている書きましたが、実際にこの映画のテーマは「人生の残酷さ、過去への別れと新たな自分の発見」だと思います。

今までバンで移動生活をしていたルーヴェン。しかし、彼が難聴によって荒れ始めると、彼女のルーは耳の聞こえない人たちが集団で暮らしているというコミュニティでの生活をルーヴェンに提案しました。

ルーヴェンは、昔、薬物依存に陥っていた為にそれに再度陥る事を恐れたルーはルーヴェンを守るためにその提案をしました。

難聴者の支援も行うそのコミュニティのリーダーのジョーは、ルーヴェンと面談をしルーヴェンにコミュニティでの暮らしをする代わりにルーと一度離れるか、元のまま生活するかを選択するように言います。

その提案に対して難色を示すルーヴェン。なぜなら、彼にとってバンとルーとの暮らしがすべてだったからです。しかし、彼女であるルーは「私のためだと思って」と、ルーヴェンがコミュニティに留まることを強く勧めます。

結局、ルーヴェンはルーのことを考え立ち直るために、コミュニティでの暮らしを選択します。そして、二人は一度離れることになり、また必ず一緒に暮らすことを約束します。

結論から言うと、それは叶いません。
ルーが離れている間に、音楽活動で成功し始めてしまうからです。

ルーヴェンはルーとまた生活するために持っていた音楽の機材もバンも全て売って手術をうけ、擬似的に音が聞こえるようになります。

この頃にはコミュニティに打ち解けて手話も使えるようになっていたルーヴェンですが、ジョーからコミュニティを去るように告げられます。コミュニティの、そしてジョーの「難聴は個性であって、乗り越えるものではない」という信念からでした。

個人的には医学を使って耳が聞こえない所から聞こえるようになればいいじゃん、と単純に考えていました。でも、それってただの選択の話ですよね。

だから最初は驚きましたが、次第に納得できました。腑に落ちた感覚というか、そりゃそうだよなと思いました。ハンディというふうに考えれば難聴は誰かにとって障害になりますが、個性と考えればそれは性格の違いとなんら変わらないのです。

ルーヴェンは「ルーとまた一緒にいたい」と考えて全てを捨てる覚悟で手術しますが、ルーもまたルーヴェンと離れている間に新たな自分を見つけていました。そして、二人が久々に再開するとルーは本当に見違えたように垢抜けていたのです。

ルーヴェンとルーは自分たちの生活が合わないことをその日のうちに、直感的に認識するのでした。

そして、二人に待つのは今までの自分とは違う生活だと思います。

「静寂こそが心を穏やかにする」

これはジョーが、コミュニティを離れるルーヴェンに送った言葉です。
この言葉すごく心の中に残りました。

コミュニティにいる間、ルーヴェンには課題が出されます。とりあえず何もしないこと、何かを達成しようとしないこと。そして、毎朝ある部屋でひたすら考えたことをノートに書き留めること。これを日課として行うように言われていました。

これは再びルーヴェンが薬物依存に陥らないようにするために、ジョーが提案したことです。ジョー自身も戦争によって難聴になり、そこからアルコール依存に陥った経験があるのです。

そしてまた難聴が生活を破壊するのではなく、難聴という事実によって精神のバランスを崩したことによってジョーも家族を失っていました。ジョーはルーヴェンにそのようになってほしくなかったのです。

ジョーはルーヴェンに対して、課題をしながら「静寂を感じなかったか」と問います。そしてその「静寂」こそ、自分の唯一の味方であることを教えてくれます。

間違いないなぁとこの言葉を聞いて思いました。
ルーヴェンは人生は残酷だと知っていて、だからこそ手術を結構してまで自分を守ろうとします。だけど、結局難聴になる前の生活には戻れないのです。

自分が意図しない「きっかけ」によって突然、人生が変わってしまうということはよくあることだと思います。それはいい方向にも、悪い方向にも。
だから、それに耐えきれなくて何か依存するようになってしまいます。

最近の僕もずっと誰かに依存してたなぁと考えていました。
ずっと一緒にいたいけど、その人が離れてほしくないあまりに自分が本当に何がしたいのかがわからなくなっていました。

どんなに努力してみても相手にとって間違った選択しかしてなくて、そして気づいた時にはもう手遅れということがあります。そこから関係性を修復しようとしても、もう元の関係には戻れないんだと思わされていたこの最近です。

だからこそ、この映画とそして、ジョーの言葉が身に染みたのかもしれません。

結局、世の中で起こることを自分は制御することができません。
どんなに親しいと思ってた人も、突然いなくなってしまうことだって大いにありえます。

僕はやりたいことも、誰かと一緒にいることも諦めたくありません。
でも、それを考えすぎて心のバランスを崩してしまっていました。
そのことから大きく学んだことがあります。

結局自分がやりたいことはやらないと気が済まないし、誰かといることを優先し過ぎることが今はできない。だから、一つ一つのタイミングは大事にしなきゃいけない。でも、どうしても諦めなきゃいけない時だってくるかもしれない。別に諦めなくたっていい。

ただ、自分の中で静寂を持つ。
そして本当の自分を見つめ続けることが一番大切なのではないかと思います。


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