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細菌は本当に悪者なのか? ~冤罪だったらタダでは済まんぞ~

先日の腸内フローラ移植臨床研究会のセミナーで、とても興味深いトピックがあがった。
それは歯周病(と大腸癌)のフソバクテリウムや、胃潰瘍のピロリ菌は本当に原因菌なのかという議題。
《歯周病菌》や《ピロリ菌除菌》といった用語は十二分に世間一般に浸透していて、もはや常識の域に達している時代に、医者や研究者が改めて議題に上げる温故知新は本当にワクワクします。


原因菌とその特定法

原因菌とは『食中毒や感染症などを引き起こす元となる細菌』のことを指します。
ある細菌が病気の発症に関わっているかを確定するためには、様々な手法がありますが、少なくとも
特異性:病気がある際にその細菌が検出されること。
除去による改善:抗生物質などでその細菌が除去されると、病状が改善すること。
再感染による再発:一度除去された後に再び感染が起こると、同様の症状が再発すること。
があり、これらは『コッホの原則』を基に応用されています。

「コッホの原則」の原義は、
1.ある一定の病気には一定の微生物が見出されること
2.その微生物を分離できること
3.分離した微生物を感受性のある動物に感染させて同じ病気を起こせること
4.そしてその病巣部から同じ微生物が分離されること
の4点からなり、「コッホの4原則」とも呼ばれている。
ただし、コッホの原則は、その解釈の違いや後述するヘンレの原則との混同から、いくつかのバリエーションも広まっている。その多くは「コッホの3原則」として記載される。

Wikipedia:コッホの原則

除菌で治るから原因ですか?

では上記のフソバクテリウムやピロリ菌はどうでしょうか?
確かに病巣から検出されるし、除菌で改善するし、再増殖で再燃しますね。

じゃぁやっぱり原因菌なんじゃない?

となりそうなんですが、それで仕舞いとしないのが研究会の素敵なところ。
新たな仮説は、『病巣が先にあって、それに適応した菌が病状を悪化させているのではないか?』ということです。

つまり、フソバクテリウムやピロリ菌は"二次感染"ということです。

菌がいても発症しない人(動物)がいる。

歯周病じゃない人にはフソバクテリウムはいないのでしょうか?
ピロリ菌がいる人はもれなく胃潰瘍や胃癌になるのでしょうか?

いずれも答えは"NO"です。

フソバクテリウムは口腔内常在菌だし、ピロリ菌は日本人の約半数が保菌しているけど胃がんの発症率は十数パーセントで、『菌がいる=病気になる』ではないことは明白です。

コッホの原則の、『分離した微生物を感受性のある動物に感染させて同じ病気を起こせる』も成立しているとは言えませんね。

もちろん粘膜内に注入したら成立するでしょうが、それは《粘膜外では病原性をもたない》ことの裏返しでもあります。

フソバクテリウムやピロリ菌が二次感染と考える理由が見えてきましたでしょうか?
そう、それは《粘膜バリアの破綻が先にあって、そこに菌が侵入できた》ということです。

入れるやん🐱

病巣の菌は《容疑者》だが《犯人》ではない

殺人事件現場にいれば、警察はまずは全員を「犯人かもしれない」と疑うでしょう。ただしその時点ではまだ殺人の容疑がある、というだけです。
容疑者が複数名いれば、順番に取り調べされてシロかクロか判断されますね。

では現場に一人だけだとどうでしょう?かなりの確率で犯人とみなされるのではないでしょうか?
それが密室で他に誰も出入りできない状況なら猶更です。

同じ状況がフソバクテリウムやピロリ菌にも起こっているかもしれません。
「この病巣にいた菌はお前しかいない!アリバイがないお前が犯人だ!」

実際、歯周病巣にフソバクテリウムは高率に出現しますし、胃酸のpHで生きられる菌はピロリ菌くらいしかいない。
そしてその菌がいなくなって病状が改善すれば、犯人検挙で事件解決!
もはや奴らが犯人で疑いがなさそうです。。

でもこのまま終わらせてはいない。この事件にはトリックが隠されているはず!
彼らが現場にいた理由、、それは。
歯周病の炎症巣や胃酸の低pHに、これらの菌が"適応できた"だけかもしれない。ということ。
『事件現場に居合わせただけの可能性』はまだ否定されていないのです。
ここでも《粘膜バリアの破綻が先にあって、そこに菌が侵入できた》可能性が成立します。

とはいえ彼らは無罪ではない

フソバクテリウムやピロリ菌は、歯周病(大腸癌)や胃潰瘍の【原因菌】ではないかもしれない。だが【二次感染菌】として病状の悪化を引き起こしていることは否めません。
除菌で改善するのこともそれを示唆しています。

例えるなら火事場泥棒か。
放火まではしないけど、焼けた家屋をさらに荒らすくらいは厭わない。

とはいえそれはどんな菌でも起こし得ます。
死して免疫力を失った動物が腐敗して土に返るのは、特定の菌だけが働くのではなく、全ての菌の共同作業です。

如いてはそれは、粘膜バリアが弱っていればどんな菌でも増悪因子になりうるということで、フソバクテリウムやピロリ菌だけが素行不良とするには証拠不十分なのです。

破れる方が悪いのよ🐈

除菌は諸刃の剣か

ここまでの話をまとめると、
感染→発病と思われていた病気に、発病→易感染→増悪の可能性も考えられる。ということです。

アスファルトの亀裂に生える雑草は確かに破壊を広げますが、亀裂の原因は雑草ではないでしょう。

そう、原因は別にあるのかもしれない。

例えば慢性腸炎で、巷でよく聞く被疑者には、
小麦、牛乳、トランス脂肪酸、カンジダ菌、食品添加物などがあります。

あるいは、ビタミン・ミネラル不足、食物繊維不足、ディスバイオーシスといった【新型栄養失調】の類も様々な不調に関与しているとの報告がありますね。

歯周病や胃潰瘍にこれらがどの程度関わっているかはまだ不明ですが、よく考えないといけないことは、
病気は多要因によって引き起こされる複雑系であるかもしれないことと、
除菌はディスバイオーシスを引き起こすかもしれない
ということです。

歯周病治療、胃潰瘍治療で除菌をしても他の要因は残っているかもしれないし、また除菌したことが別の病気のリスクを高めるかもしれない。

実際、ピロリ菌除菌で胃癌は減る一方、食道癌が増えるようです。

ピロリ菌をガンガン叩くことで、別なところに火花が飛び散り、傷つけられているとしたら、何のための除菌なのか首を傾げたくなるというもの。

ちなみに、ピロリ菌には胃液の逆流を防ぐ働きがあり、食道がんや食道炎を抑制する作用も報告されています。
除菌したことで、食道がんになるリスクを高めているかもしれないのです。だとしたら、なんとも皮肉な話ですよね。

『薬を使わない薬剤師の健康自立ブログ』より抜粋

常識を疑えば見える世界が変わる

腸内フローラ移植(糞便微生物移植:FMT)は、《患者にいない菌を他者からもらう》ことで病気の緩和や治癒を促す治療法です。

それは、菌は有害で排除すべきものという、世間一般の常識とは真逆のコンセプトのため、医療者の中でもまだ少数にしか受け入れられていません。

それでも本稿を読んで、一理あるなと感じてもらえた方には「現代医療が大正解ではないかもしれない」と気づくきっかけになるかもしれませんし、そういう方が少しでも増える事で常識が変わってくれたら嬉しい事です。

除菌が正解じゃないかもしれない。
気づけば世界の見え方が変わります。ワクワクしてきませんか?

一度"そう見えたもの"を変えられるかどうか。


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