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新興宗教の勧誘を受けた話

かれこれ20年が経つ話です。高校2年生の時に、新興宗教の勧誘を受けました。よくある話かと思いますが、20年の月日が経ってもたまに思い出すので書いてみます。

女子からの電話

期末テストの時期で、部活も休みの期間でした。ある土曜日に重い腰を上げ勉強していたら、電話がかかってきたのです。中学時代に同級生だった女子からでした。久々の同級生との積もる話。そして男子高校に通っていた私としては、久々の女子との会話。

そして彼女がこんな一言。「会って話をしたいな。」

冴えない高校男児の心は浮き足立ちました。「おいおい、告白されちゃったりして?!」なんて妄想を抱きつつ、翌日に会う約束を取り付けるのでした。それが悲劇の始まりとも知らずに……。

謎のメソッド

翌日の昼、最寄りのファストフード店に向かいました。2階の席で彼女は待っていました。電話でも伝えたような取り留めもない近況を話します。
「最近どんなことしてるの?」「部活が凄く楽しいよ。◯◯◯は?」

女子との久々の会話、満喫。

「ワタシはちょっと前まで上手くいってなくて……。でも×××っていうのに出会って、凄く良い感じになったんだ。」

おや?何やら聞き慣れない単語が出てきました。×××って、なにかのメソッド的なニュアンスで言ってたけど…。

「ワタシも部活やってるんだけど、周りの人たちと上手くいかないことがあって。でも×××を始めてからはチームのメンバーとの関係が良くなったんだ。本当にオススメだよ!」

嫌な予感を感じつつ相槌を打つと、彼女は更に畳み掛けました。

「ワタシに×××を紹介してくれた先輩が、これからここに来るんだ。ぜひ話を聞いてみて!」

(なんかやべぇ…。)
世間知らずの高校生でも、本能的に危険を察知しました。でも、久々に会う中学校時代の同級生、しかも普段接する機会の無い女子を無碍に扱うこともできず、先輩を待つことにしたのです。

先輩、現る

ものの数分後、「先輩」はやってきました。スタンバイしていたかの如く、テンポの良いタイミングでの登場です。高校生にとっての先輩と言えば、同じ学校に在籍していたことのある人、2つ年上くらいが関の山でしょうか。しかし、その先輩は明らかに二十代半ば程に見えるのです……。

(まずいことになった…。)

先輩は女性でした。目鼻立ちがキリッとした、美人と呼ばれるであろう顔立ちです。ですが、ただの美人ではない、気圧されそうな妙な威圧感を感じました。

自己紹介もほどほどに、猛禽のような眼差しを私に向けながら、センパイは×××の素晴らしさを説き始めます。
「◯◯◯ちゃんからも聞いたと思うけれど、×××は本当に素晴らしいの!」「試してみた人は、みんな良い効果を感じているよ!」「あなたも是非取り入れてみてほしい!」

(うわぁ、やはりこう来たか…。)
私が興味なさそうに聞いていると、センパイは次の一手を繰り出してきました。鞄からある紙面を取り出したのです。新聞に見えるそれは、彼女たちの所属団体の機関紙でした。機関紙には、大病を患った人が元気を取り戻した、瀕死の重症を負った人が驚きの回復を見せた等の奇跡がズラリと並んでいます。

「ほら!×××を実践することで、こんなに素晴らしいことが起こるの!やってみない手はないでしょう?みんな事実なんだから!」

あまりに出来すぎた奇跡のオンパレード。そして仮に事実だとしても、どうして×××のお陰だと言い切れるのだろう……。信じようとは全く思えなかった私には、「そうなんですかー。」「へえー。」「すごいですねー。」という空返事をするのがやっとでした。

脅し文句

私の興味無さそうな様子に、センパイは徐々に痺れを切らしてきました。語気が強まってくるのを感じます。そしてついに、こんな一言を彼女は発したのです。

「信じないとバチが当たるよ?!本当に当たるから。」

あ?!何言ってんだ?脅迫しようってのか?!すぐそこに交番があるから一緒に行くか?!…とは言えませんでしたが、「もう帰ります」と一言伝えて席を立ちました。

店を出たところで、同級生女子が血相を変えて追いかけてきました。「気をつけてね…。信じないと本当にバチが当たるから……。」
彼女は本当に信じきっている顔をしていました。

「バチ」のマッチポンプ

この日は家に帰った後、すっかり無気力になりました。テスト勉強も全くやる気が起きません。インチキ宗教の勧誘を受け、長い時間拘束され、挙げ句の果てに「信じないとバチが当たる」と言われると、人は気力を奪われるのです。

やる気の無さが振る舞いにも現れ始めてきました。私はイスに座りながら勉強机に脚を乗せ、だらしない格好でボーッとしていましました。すると、父が様子を見に来たのです。テスト期間にも関わらずだらけた私の姿を見て一言。「勉強する気が無いなら進学なんてしなくていいんだぞ!!」
雷が落ちました。

しょんぼりしてしまいましたが、ふと思いました。
「バチ、来たじゃん。」
「信じないとバチが当たるって言ってたけれど、あいつらがバチを作ってるじゃん。」

ある意味、彼女たちの言うことは真実だったのです。ただし、勧誘を受けた私からすれば、自作自演に感じられるマッチポンプ的なバチなのでした……。

翌日、学校で友人たちにコトの一部始終を話し、憂さ晴らしをすることにしました。友人たちは「そんな珍しいことあるんだ。しかもオチあるじゃん。すげえ面白い!笑」と話を楽しんでくれました。「俺も勧誘受けてぇなー!絶対看破してやる!」等の酔狂なコメントをくれた友人もいたほどです。

数ヶ月後、幾人かの中学校時代の同級生と会う機会がありました。そこで私以外にも、例の同級生女子から勧誘を受けた人がたくさんいたことを知りました。女子に対しては男前な「先輩」男子で対応する、私のように途中で帰らないと車に乗せられ彼らの拠点に連れて行かれる等の事例もあったそう。さらには勧誘に押し切られ入信した人も出たとか。例の同級生女子は一躍話題の人となりました。ですが、それ以来彼女たちの動向については音沙汰無く、同級生たちとの話に挙がることも無くなりました。

彼女たちが何処で何をしているか、今となっては知る由もありません。

あの時のふたりへ

今、私は元気です。あの時あなたたちの勧誘を退け「バチ」を受けた結果、反骨心を携え奮起しました。そして、希望の進路に進むことができ、新たな仲間もできました。ついでに「すべらない話」的な鉄板ネタも得られました。あなたたちを信じなかったことで今があるのです。きっかけを下さり、本当にありがとうございました。

#新興宗教 #カルト

駄文ですが何卒よろしくお願いします