【テキスト版】巻2(12)山門滅亡(13)善光寺炎上

前回のあらすじ
平家が大切にしている厳島神社に昇進祈願をすることで清盛の気に入られた徳大寺実定は、念願の左大将に昇進した。謀反を企てた藤原成親とは天と地の差であった。

後白河法皇は、三井寺で真言密教の秘法を伝授されていたので、三井寺でその継承者として認めてもらう儀式を執り行うことになった。ところが、延暦寺の大衆たちがそれに対して「昔から、そういう儀式は比叡山で行ってきた。もし三井寺で行うというのなら、三井寺を焼いてしまおう」と言うのだった。

後白河法皇は、それを無益な争いだとして、三井寺での儀式は取りやめ、仏法最初の霊地・四天王寺で行うのだった。それで延暦寺の騒動は収まるかと思ったが、堂衆と呼ばれる荒法師たちと、留学などして本格的に仏道を学んでいる学問僧たちが衝突し、たびたび戦のようになっていた。学問僧たちがいつも荒法師たちにひどい目に遭わされるのだった。由緒正しい延暦寺において、本格的に仏道を極めようとしている学問僧たちが貶められるということは、朝廷にとっても一大事であった。

堂衆というのは、学問僧の雑用をするための童子や下級の法師たちのことを言う。延暦寺の大衆たちや学問僧たちは、堂衆のことを相手にもしていなかったのだが、この頃は増長していって、小競り合いにも何度も勝つようになっていた。


それで比叡山の僧たちは「堂衆たちが師の命令に背いて合戦を企てているので、すみやかに追討すべきです」と朝廷に申し述べたり、武士に訴えたりした。このことで清盛が後白河法皇からの指示を受け、二千人余りの兵を集め、堂衆を攻めることになった。堂衆たちはその動きを聞いて、近江の国に一度くだり、大軍を率いて比叡山に戻り、早尾坂に城郭を構えて立てこもった。

比叡山の大衆三千人、清盛の兵二千人、合計五千人余りが早尾坂に押し寄せて鬨の声をあげる。城内からは石弓で大きな石が落とされる。大衆や兵たちは押しつぶされて死んでしまうのだった。大衆たちは兵を先に行かせようとし、兵たちは大衆を先に行かせようとするので、結局五千人がまとまることなく戦うことも出来なくなってしまった。堂衆たちに加勢しているのは、諸国の強盗や山賊たちで、命知らずの人間ばかりなので、延暦寺側はまたしても負けてしまうのだった。

その後、延暦寺はますます荒れ果てて、仏道を極めようとする僧侶はほとんどいなくなってしまった。三百年以上続いた天台仏教の法灯も途絶えてしまったかもしれない。今や、仏の供養も峰を吹き渡る嵐に任せ、黄金の仏像は滴る雨露に濡れ、夜の月が灯火がわりとなって軒の隙間から漏れ、夜露は玉のように仏の坐る蓮の花を濡らしているという。

末法の世には、天竺・震旦・本朝と広まった仏法も次第に衰えていく。昔仏が法を説かれた竹林精舎や祇園精舎も、近頃では狐や狼などの住処となり果てているという。白鷺池には水がなくなり、草ばかりが深く茂っている。唐土でも、天台山、五台山など荒れ果てて、大乗・小乗の経文も箱の中で朽ちているという。わが国でも、奈良の七大寺が荒れ果て、愛宕山・高雄山も今は天狗の住処となってしまった。なので、あれほどありがたかった天台の仏法も、この時代になって滅び果ててしまうのだろうか。

その頃、信濃国善光寺が炎上したという話もある。これほどありがたい霊寺や霊山の多くが滅んだのは、平家が滅亡する兆しではないかと人々は噂しあったのだった。


【次回予告】
鬼界が島に流された3人は、どうにかして京に戻れないかと考えています。どんな手に出るのでしょうか。



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