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わがままといじわる

もうむりだ、私がんばりたくない、そう思って泣きながら眠る夜がたくさんある。

遠距離恋愛をしながら生活するのにはあまりに苦しい日があり、なんでこんなにがんばってるのに、こんなに会いたいのに簡単に会えないの、なんでさびしいのを我慢しないといけないの、いつまでこれが続くの、と考えたら涙で枕がびしょ濡れになってしまうのだ。

できるだけ口にしないようにしているけど、ときどき唇からこぼれ落ちてしまう。もうむり、いやだよ、私がんばりたくない。

だって、再会してしまえばまた近いうちに必ず会えなくなるのだ。それを分かって受け入れたはずの恋愛のかたちなのに、私たちならうまくいくと疑いなくお互いの心を信じているのに、ときどき1人で泣きじゃくってしまう。

そして電話で彼にわがままを言ってしまう。会いたい。もっと話をしたい。顔を見たい。隣で眠りたい。

彼は私のその言葉を聞いて、ただ何度もごめんねと言う。会えなくてごめんね、さびしい思いばかりさせてごめんね、東京へ来てごめんね。

本当に申し訳なさそうに言葉を紡ぐのだ。

それを聞いて私はいつもとんでもない罪悪感に襲われる。こんなにやさしい恋人にわがままを言って謝らせて、私は何をしているのだろう。ちっともそんなことをさせたいわけじゃないのに。彼もきっと同じような思いでいるのに、なぜそんないじわるなことを言ってしまうのだろう。

もう出会ってから過ごしてきた月日の中で、遠距離恋愛の期間の方が長くなってしまいそうなところまできている。それは相手を好きでいる、その気持ちの証明でもあるし、日々の努力の賜物でもある。

私の夏休みは長く、彼の夏休みは短い。休みはできるだけ長い間一緒にいたいけれどそれも少し難しい。クリスマスだって本当は一緒に過ごしてみたい。そしてたくさんの特別な日を手に入れたそのあとで、いつかなんでもない日に散歩したり、ごはんを食べたりする日々を手に入れたいだけなのだ。

近くにいたらどんなふうだろう。同じ学校だったらどんな生活だっただろう。そういう気持ちがときどきひょっこり顔を覗かせて、私の心を不透明な藍色に染める。ただいつかその日が来るのをふたりで夢見ている。

でも夢見ているだけじゃあまりにさびしい日があって、信じる力は私が持って生まれたなによりも強い能力のはずなのに、ときどき心の中の火がふっと揺らいでしまうのだ。

あと何回こんな夜を越えていくんだろう。そのさびしさや悲しみさえ本気で愛せたらいいのにな。ときどき弱っちくなる私のわがままを彼はどう捉えているのだろう。いじわるだと思われていたらいやだな。

やさしいひとになりたい。

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