見出し画像

めざめ

【作品形式】朗読・1人読み
【男性:女性:不問】0:0:1
【登場人物】
 ・私(不問)
【文字数】857字
【目安時間】5分未満


どれだけの時間が経っていたのか
どれだけの涙が落ちていたのか
どれだけの歓喜が叫ばれていたのか

私が深い眠りから覚めた時
まだ寝ているんだな
まだ夢の中にいるんだな
と思った


静けさ 美しさ 善(ぜん) 優しさ 和やかさ 喜び 愛
これらの要素が感じられる
穏やかさに満ちた世界だった
真っ白というより透明

雨や雪が降った後に
汚れが落ちて綺麗になっている
たとえるならそんな空気感

爽やかな陽光が満ち
明るい緑が元気よく茂っている中で
頬を優しくなでる風が吹いていた

何かに導かれるかのように
私は歩を進める
ゆっくりと一歩ずつ

その先に
貴方がいた

樹にもたれて座り
立てた右膝の上に右腕を
左の掌は地面にそれぞれ置いている

枝葉が伝える風の音に浸りつつ
気持ちよさそうに微笑みながら
目をつむっている

近づいてきた私に気付き
貴方はゆっくりと目蓋を開いた

深く静かな喜びを瞳にたたえながら
まっすぐ優しく私を見て
こう言った

「やっと会えたね」

陽だまりの中
笑顔でいる貴方の頬を伝う雫が
私たちのこの出会いの特異さ・価値・意味を物語っていた

しばらく互いに見つめ合った後
私は心に湧き上がる想いを抑えることができず
顔を覆った両手の指の隙間から大粒の涙が零れ落ちていた
ついに私はその場に留まっていられず
樹の下に駆け寄って貴方の胸に飛び込んだ

私を優しく抱き留めながら
草むらに仰向けになる貴方
木の葉の隙間からやわらかな光が差し込んでいる

繊細なガラス細工を扱うように
しっかりと大切に
でも強く,かつ優しく包むかのように抱きしめてくれた

多幸感に満たされていた

ただただ
この瞬間が
続いてほしい

この世界が
もうめざめなくてもいい

この世界で
私は貴方と共に
幸せを噛みしめながら
生きていきたい

これは
夢なのだろうか
現実なのだろうか

この夢のような
美しい世界で
感謝の気持ちを抱きながら

時と想い出を
じっくりゆっくり
一つひとつ重ね
歩んでいく

もう何にも分かたれることなく
永遠に...…


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?