伯井誠司

著作:http://www.shichosha.co.jp/newrelease/it…

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  • ルイ・ジャンモ『魂の歌』

    ルイ・ジャンモの叙事詩画集Le Poème de l'âmeの翻訳。 不定期更新

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新刊予告

 今年、思潮社から叙事詩『国始事』を刊行します。天地開闢から神武天皇即位までの日本の建国神話を描く五部構成の長編詩で、一応、日本文学史上初の叙事詩です。神名を引くことのできる索引も付いているので、気になる神の名前を探れば、その神が出てくる部分を簡単に見つけることができます。日本の神話に興味のある方はぜひ読んでみてください。  刊行の日付などはまだ未定なので、とりあえず今は予告として以下に目次のみ掲載します。 刊行が近づきましたら、また改めて詳細をお知らせします。 国始事目次

    • 枕草子と日本のインターネット

       日本のインターネットを見ると、人々の言葉遣いがあまりにも汚さすぎて絶望感に襲われることがある。しかもその言葉の汚さはインターネットの片隅だけに留まらず、いつしか他のメディアの中にも侵入して、今や日本文化の隅々にまで浸透してしまっているようにさえ感じられるのだ。この間など、そんな腐り切った日本文化の現状を忘れようと思って古い日本美術を見に美術館へ行ったら、森狙仙の描いた猿の絵の解説に「もふもふとした毛の描き方が見事である」などと書いてあり、もうどこにも逃げ場など無いのだと改め

      • ルイ・ジャンモ『魂の歌』4.春

        概略  春の太陽が、雪の下で眠っていた花々を目覚めさせる。花が咲くと、太陽は今度は人間の子供(主人公)に、美しい世界を楽しむように促す。さらに主人公と同じ年頃の小さな女の子が現れ、一緒に丘の上まで行こうと誘う。最終連は再び太陽の台詞となり、短い春を生き急がないように警告して終わる。   韻律の構成 5-7-5 7-5 5-7-5 7-5 5-7-5 5-7-5 7-5 5-7-5 5-7-5 7-5 四、春 生命のあるじたる陽はうらゝかに、 いとうらゝかに押し

        • POST INTERRETE

          Solebam vesperi videre lumina urbis meæ et cogitare de vita sub quoque lumine longinquo et surdo nente historiam suam in secreto. Solans sententia erat: erant ibi tot herœs audaces sed incogniti, tot amantes dulces, grassatores leves, sanc

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        • ルイ・ジャンモ『魂の歌』
          5本

        記事

          革命神話について

           日本は保守的な国であるというステレオタイプがある。住んでいる身としてはそれほどには感じられず、どこの国にも右翼はいるものだとも思うが、それでも「日本では極右的な言説が根強くメインストリームに残り続けている」と指摘されれば否定しきれない気もする。これは一体なぜなのだろう。  この疑問に辻褄の合う回答を与えるためには、現代の日本が誕生した歴史的な経緯を振り返ってみればよいのではないかと思う。  われわれは現代に生きている。現代という言葉を狭義に捉えればまさにこの今年が現代であ

          革命神話について

          ルイ・ジャンモ『魂の歌』3.天使と母

          概略  全編守護天使の台詞。前半はおもに天を忘れて地上で幻を追い続ける人間の生をはかなみ、後半ではそんな中でも神を信じて強く生きてゆけるように祈る。  原文だと前半はバラッド調、後半はアレクサンドランで書かれているので、訳文でもその構成を反映させて前半は5-7-5, 7-5、後半は7-5で訳した。 三、天使と母 願はくは主の平安がこの母と その子宝にあるやうに! 目を閉ぢて眠るこの子のまなぶたに 黄金の夢を注ぐべし! 子よ、眠れ、汝がために我は斯く 祈り、愛しみ、見守れり

          ルイ・ジャンモ『魂の歌』3.天使と母

          ルイ・ジャンモ『魂の歌』2.魂の通り道

          概略  新しく生まれた魂を守護天使が地上へ運んで行く。天使は星々が過ぎ去るのを見て、星々が定められた道から決して外れないことを思う。道すがらその星々を護る天使たちに挨拶し、また自分と同じように魂を地上へ運んで行く仲間の天使たちにも挨拶をするが、天使たちに逆らう不吉な勢力も見かける。その一方では、地上へ向かう一群とすれ違いに、死者の魂が行列をなして天の法廷に導かれてゆく。やがてあたりは冬景色となり、火を盗んだ罰で永遠にハゲワシに心臓を啄まれ続けるプロメテウスと、その周りに寄りつ

          ルイ・ジャンモ『魂の歌』2.魂の通り道

          ルイ・ジャンモ『魂の歌』目次・解説

          目次第一部 一、神の創造 二、魂の通り道 三、天使と母 四、春 五、天国の記憶 六、父の家 七、悪の小径 八、悪夢 九、麦の粒 十、初聖体 十一、貞潔 十二、金のきざはし 十三、陽光 十四、山頂へ 十五、夕べ 十六、魂の飛翔 十七、理想 十八、現実 第二部 一、孤独 二、無限 三、情火の夢 四、愛 五、別れ 六、疑念 七、悪霊 八、乱痴気騒ぎ 九、神を失って 十、亡霊 十一、定められた失墜 十二、メゼンティウスの刑 十三、末世 十四、母のとりなし 十五、未来の幻影 十六

          ルイ・ジャンモ『魂の歌』目次・解説

          ルイ・ジャンモ『魂の歌』1.神の創造

          概略  舞台は天上。神が人の魂を創造し、優しく抱き寄せる。魂は善と美と真実のみなもとを垣間見るが、それはすぐに霞んでしまい、やがて地上へと去らなければならなくなる。地上では厳しい試練が待ち構えていることが示唆され、第一編は終わる。 一、神の創造 ある限りなき英知なむ定めたるその一瞬に 敗れし虚無は退きて、命に道を譲りたり。 暗く静まり返りたる深淵の隙からひとつ 人の魂なむ天の光の中に昇り来る。 されば造化の神は今、或るえも言はぬ酔ひが共、 戦慄きたまひ、父として、御胸にお

          ルイ・ジャンモ『魂の歌』1.神の創造

          江戸時代の女流歌人

           日本の古典文学の面白いところは、女性の作家が占める割合が大きいことです。紫式部や清少納言は言わずもがな、和歌の世界でも平安の式子内親王や鎌倉の永福門院などはその道の頂点を極めた大歌人であり、日本文学の正典からかの女たちの名が拭い去られることは永遠に無いでしょう。  私も古典を愛する者のひとりとして、そうした偉大な女性作家たちの作品を楽しく読んできたのですが、そこでいつも気になっていたのは、江戸時代になると女性作家の影が薄くなってしまうということでした。松尾芭蕉、近松門左衛門

          江戸時代の女流歌人

          一方井亜稀さんへの返答

           2022年に『ソネット集 附 訳詩集』という本を思潮社から出した時、詩手帖年鑑の新鋭展望のところに一方井亜稀さんが短評を書いてくださいました。『ソネット集』は古典主義的な文語定型詩を集めた本なのですが、一方井さんはそれを「ソネットが途切れた時代からの現代への接続」の試みと解釈されたようで、「ひとつ気になるのは、断絶された間にある戦争という大きな分岐点をどう捉えるかということである。あくまでも戦前から戦後への接続という視点で見る場合のことだが、この前後で何が断絶されなかったの

          一方井亜稀さんへの返答

          詩とは何か(単純で確実な答え)

          「詩とは何か」という問いが、あたかも永遠に答えの出ない神秘であるかのように扱われているのは全く馬鹿馬鹿しいことです。なぜなら、それには完全に正しく、単純で確実な回答があるからです。それは「詩とは韻文の芸術である」という回答です。  では韻文とは何でしょうか。光を定義するのに影と対比させるとわかりやすいように、韻文という言葉を定義する際にもその対義語を出すとわかりやすいかもしれません。「韻文」の対義語は「散文」です。  では韻文と散文を分けるものは一体何でしょうか。それは韻律で

          詩とは何か(単純で確実な答え)

          墨子讚

          最虔誠的務實者,頑固儒者之鐵鎚, 英勇的思想烈士,我向您奉獻拙詩。 請復活,把我指教孔某打倒的方法, 因為他的大邪教不僅今天繼續活, 還擴張有害影响迄世界,覆地像葛。 願那個思想罪犯業火中燃燒永劫! 有時我想像何事就會日本裡發展, 如果博士們輸入不是無用的儒典 而是十大論的話。啊,遠見者,今之時 大國攻小國,大家亂小家,富貴敖賤, 正如您曾指摘過! 衆猶偏護其親眷, 愛内恨外盲目地,依然慾征服九夷! 然而富貴衆強勇力強武堅甲利兵 不可防鬼神之罰。鬼神之眼光盈盈 看透人心最

          待雪

          冬半夜,亂雜房内,無照明除了淡薄 光透過窗簾隙間漏來,和手機螢幕 發光沙發上。一箇青年披著毛毯子 玩益智遊戯。女聲說,”聽了明天會是 大雪。” 年輕的女人在看起來不活潑 裹在厚的被子内躺在床上,長黑髮 在散亂。他問向她,”你不該睡著了嗎?” 她答,”不是,我下午過於睡眠了並且 想保持醒到下雪。會是久違的雪景。” 遊戲結束了,他棄智能手機。房内冷 越來越。他說,”我要躺進床,否則會死。” ”不,”她說,”如果你來,感冒會傳染給你。” ”我仍然會著感冒如果睡覺沙發上。” 她不理他

          日記の一頁から

          (二〇二二年九月三十日) 地下鉄駅を出でしかば外は涼しき夕べにて、  紫色に染まりたる空には細き三日月が いときはやかに掛かれりし。夕陽のすでに地の下へ  沈みにしかば、その影のうすくれなゐの色のみが 高く聳ゆる建物の窓にほのかに残れりし。  いつもの町のざわめきも今は不思議に遠のきて、 おぼろに動く人々の影もいみじく映ろひき──  すべて過ぎゆきしかど、たゞ変はりなき日のことゝして。

          日記の一頁から

          TOITS DE LA NUIT

          Alléluia, alléluia, toits de la nuit ! Le clair de la lune est le vôtre tout ! Vous veillez comme désert la nuit de bout en bout Avec de hauts nuages qui s'envolent sans bruit ! Quel enfant heureux sur ce plateau pacifique Retrouvera un ci

          TOITS DE LA NUIT