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「わが心のジョージア」で黒人初の上院議員が誕生したが、ワシントンは大混乱/『歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター』

――今朝、ニュースを見てびっくり。アメリカの首都、ワシントンDCが大変なことになっていますね……。

藤田正さん(以下、藤田) 残念なことなんだけど、予想が的中してしまった。『歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター』で色々と書いた白人層の「恨み」や「妬み」が、ドナルド・トランプという男を得て、どう悪魔的に広がっていくのか。その大きな示威行動の一つがこの事件です。ぼくらのこのインタビューは日本時間で2020年1月7日の昼に行っているんだけど、(アメリカでは6日に)武装したトランプ支持者が連邦議会議事堂へ大挙して集まった……だけじゃなくて、中枢部である議場を占拠し、各議員のオフィスにまで入り込んだ。議事堂ではトランプ支持者?の女性ほか計4人が亡くなったとも現時点では報道されている。冷静に考えれば、これは現職の米国大統領によるクーデター未遂事件でしょ。東ヨーロッパやラテン・アメリカなどで時に起こる暴力的な政変と、大局的には同じことが、かの「民主主義の大帝国」で発生したのです。

――次期大統領選挙の結果を決める、連邦議会上下両院の合同会議が行われていたさなかの出来事でしたね。

藤田 ぼくは合同会議もライブで観ていたけど、議員たちの政治的言い回しが難しくて「うんざり~」なんて思っていたところに、トランプ支持者がぞろぞろと議事堂の中へ入ってきた。ガラスを割って入る奴ら。議事堂の壁をよじ登る奴ら。トランプ支持の旗を振り回す奴ら。ほとんどが白人の男性です。こいつらの威勢に押されて警備員が後ずさりしていく様子もカメラに映し出されていた。

――夜6時になって外出禁止令が出されました。

藤田 もうそれくらいにしときな、の「上」からの指令でしょ。ブラック・ライヴズ・マター運動を理解している方には奇妙な光景だったと思うんですよ。だってセキュリティが全世界で最高位のはずの米国・連邦議会議事堂に、たくさんの銃を持った者たちがどんどん入って行けたんだもの。これが仮に民主的なBLM運動の人たちの行動だったら、議事堂へ入ろうとしただけで警備員、警察官によって片っ端から撃たれていたはずです。ぼくはこのあり様にも、異様なほどの人種問題の根深さを見ている。まるでニュースになっていないけど、騒ぎがあった議事堂から少し離れた所では、赤ちゃんを連れた黒人の若いお母さん(Miriam Careyさん)が車でUターンしたというだけで、いとも簡単に警察官に撃ち殺されてる。これがアメリカの現実です。

――トランプ大統領が、この日に首都へ結集しろとけしかけました。

藤田 大統領選の負けがトランプは認められない。ウソであろうと妄想あろうと自分だけが正しいと思い大衆を扇動する男を、すげ~!と感激し気に入らない人たちには銃を向ける(一部の)白人層が存在する。その数が膨大であることは選挙の開票総数を見ればわかります。で、6日は、ご存知のようにジョージア州選出の上院議員2名を決める決選投票の日だった。票差ギリギリとはいえ2議席とも民主党のものになったけど、追い詰められたトランプは自分の威勢を保つために、ワシントンDCに集まれ!と呼び掛けた。公的に負けようと勝とうとも、オレが世界の支配者であることを宣言し続けることが、アメリカの(一部の)白人層の思い・願いと合致している。『歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター』はそんな彼らの心の歴史を、ちゃんと指摘しています。

――となると1月20日も重要ですね。

藤田 ジョー・バイデンの大統領就任式! マジに注目です。ぜんぜんハッピーじゃないけどね。書籍のコピーに記した「アメリカ崩壊の兆しか?」ですよ。

――アメリカの調査会社「ユーラシア・グループ」は、2021年の世界の最大のリスクはアメリカ次期大統領だ、なんて発表していますが。

藤田 そんな言説があるんだ。

――NHKのニュースを見ていたのですが、「国際情勢を分析するアメリカの調査会社『ユーラシア・グループ』は、世界にとって今年最大のリスクに『アメリカの次期大統領』をあげ、今月20日に就任するバイデン次期大統領がトランプ大統領や支持者らから選挙は不当だと攻撃され続けることで弱い政権基盤となるなどと指摘しています」と、つい先日報じていました。これって、印象操作ではないんでしょうか? 

藤田 森さんが教えてくれたNHKの報道記事を読んだけど、そりゃリスクはあるでしょ。バイデンが無敵の存在であるわけがない。そんなことはバカでもわかるはずなのに、こういう何だかヤバそうな文面・言説を作って公表してしまうところに、常に米国政府の意向を気にしている日本政府の、その広報であるNHKの、大メディアとは考えにくい及び腰の姿勢が見えるよね。それこそがぼくら日本国民のリスクだよ。悲しいことです。

ブラック・ミュージックの宝庫で大躍進した黒人牧師

――連邦議会へのトランプ支持者の示威行動は、今も話にあったジョージア州の上院議員を選出する決選投票と直接的に結びついています。

藤田 この2議席を民主党がゲットできるかどうかで、バイデン政権の命運がかかっていると言ってもいい。現時点で、なんとか「大統領・上院・下院」の3大権力を民主党が得たわけだけど、だからこそ実質的に大統領選に負けたトランプは、将来のためにも、ジョージア州の決選投票は必死だった。ジョージア州って南部保守派の牙城でもあるし、負けたら彼にとってはスーパーに恥だった。ジョージア州の激烈な差別構造についても『歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター』は触れています。

――南部における一つの州の、たったの2議席なんて、と思ってはいけないんですね。

藤田 そうです。アメリカの選挙は登録制です。でもその登録は、特にカラード~黒人にとっては歴史的に色んな「壁」が立ちはだかってきた。ジョージア州はその典型です。今もね。そこで非白人の方たちが、コロナ禍にもかかわらず、色々な嫌がらせをも超えて、投票所に向かったんです。これは単に投票数としての「僅差で勝利!」じゃないんだよね。

――ラファエル・ワーノック師がジョージア州で初、ひいては南部16州で初の民主党、黒人の上院議員になりました。

藤田 感動的です。ワーノックさんは当選確実の報に接して、綿花摘みで働いてきた自分のお母さんのために選挙をたたかったんだ、と語っていた。「黒人、ジョージア、コットン・ピッキング」って、BLM運動の原点でしょ。

――ジョージアはジョン・ルイス氏の地盤でした。

藤田 彼は、2020年7月17日に80歳で亡くなった公民権運動の大きな象徴の一人です。ルイスさんはマーティン・ルーサー・キング牧師と活動し、その後、長く下院議員も務めた人だけど、彼の支持層が新人のワーノック師に移行したと言われていますね。

――ジョージアといえば、盲目のソウル・シンガー、レイ・チャールズ「ジョージア・オン・マイ・マインド」ですね。

藤田 みんな一度は聞いたことがあるはずのスタンダードの一つ。本を読んでもらえればわかりますが、歌にある「心のジョージア」って、ただただ懐かしいとかじゃないんですよ。差別を受け続けたレイ・チャールズほか黒人にとっての歴史的な「心の大地」。この大地に、ようやく、綿花摘みだったお母さんを持つ黒人上院議員が生まれたわけです。

――ジョージアの出身では他にジェイムズ・ブラウンも。 
そうです。ジョージア州はブラック・ミュージックの宝庫です。ま、このあたりのことは次にしましょう! お楽しみに。

Ray Charles「Georgia On My Mind」

補足: 混乱ののち、連邦議会は選挙人投票の集計を終え、ジョー・バイデンの勝利を認定。その直後の7日未明、トランプ大統領は声明を発表、自身の大統領の任期が終了することを認め、秩序ある政権移譲を約束した。


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