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夜明け前・花ざかりの森

そういう訳で、私は生き延びた。そして、探しはじめた。情熱を傾ける対象を。だから、かつて情熱を傾けた対象を振り返る旅に出ることにした。

19歳の頃、死にたいと思っていた。若くして死ぬことに対する憧れがあったから。三島由紀夫の『豊饒の海』に出てくる主人公の魂に、すっかり心を奪われていたし、19歳の冬、来日していたMichael Jacksonがミニーマウスのぬいぐるみを私にプレゼントしてくれたことも自殺へむけて私の背中をおしていた。20歳になる前の今がこそが、人生の絶頂だと信じていた。

でも、心ある親友との対話により、自殺は人の道に反すると腑に落とすことができた。ジタバタせずに、『鍛えられなかった凡庸な能力を受け入れて』生きる覚悟を新たにしたのが20歳の誕生日だった。

40代半ばで癌になったのは、自分で引き寄せたという確信があった。それならば、なぜ早期に気づくことができたのか。

それは、ママからのサインとしか思えなかった。情熱を燃やして、もう一度自分らしく生きて欲しいというママからのサイン。

若かった私は能力がなくても野心的な人間だった。野心を燃料に、能力を高めようと思う道中で、恋をして、すっかり覇気のない女になってしまった。ママはそれを、端的に『あなた、馬鹿になったの?』と表現した。一緒に過ごした最後の夏に。

そんな馬鹿な私でも、今は、自分の人生の中で、あの時以来、19歳の冬以来の大事な季節だと分かる。

そして『老いていく凡庸な身体を受け入れて』生きる覚悟を新たにする。20歳になった後の人生が、案外エキサイティングで楽しかったように、老いてく身体との付き合いも、ある意味スリリングで味わい深いのかもしれない。

いつの間にか、自決した三島由紀夫よりも年を重ねてた自分に少し驚く。

今日は敬愛する作家・三島由紀夫、平岡公威氏の99回目の誕生日。朝から、16歳の処女作『花ざかりの森』を読んでいる。沢山の名作を遺して下さった、三島由紀夫さんに、感謝の念を新たにし、厳選された言葉の一つひとつを、大切に味わっている。


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