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能登半島地震で浮上した万博中止論|横田一の政界ウォッチ26

 能登半島地震で再び大阪・関西万博中止や延期、縮小の声が強まっている。1月5、6日に被災地入りしたれいわ新選組の山本太郎代表は翌7日のX(旧ツイッター)で、国と石川県への緊急提言を発信、次のような提案をした。

 「能登半島を含む石川県全域が豪雪地帯である。(中略)降雪、積雪の中、道路の修復や復旧作業は困難。加えて、通常時、除雪作業は地元建設業者なども請け負うという除雪作業と復旧作業の両輪を廻せると考えるのは現実を見ているとは言えない。(もちろん全国の建設業者を大々的に雇って行うならば可能だろう。その場合、当然万博は中止、徹底した積極財政で被災地も支える覚悟が必要だ。)」

 そして1月11、12日に二度目の被災地入りを終えた山本代表はその5日後の17日、共同代表の大石晃子衆院議員、櫛渕万里衆院議員と共に永田町で会見し、「能登半島地震の復興にかかるれいわビジョン」を発表。その中に「不要不急の事業(大阪万博、辺野古埋立工事)は中止し、被災地に社会的リソースを回す」という提案を盛り込んだのだ。

 建設業界のリソースは無限ではないことから万博開催と震災復興は両立困難と見て万博中止を政府に求めたのだが、1月12日の会見で自見英子万博大臣は「中止や延期については考えていない」と否定。維新共同代表の吉村洋文大阪府知事も1月4日、地震直後から万博中止を求める声が相次いだことに対して「万博と復興支援は二者択一の関係ではない。なぜ万博と復興支援が二者択一なのか」と囲み取材で反論した。二度目の建設費上振れをした昨年11月と同様、岸田文雄政権も維新もフルスペックの万博開催にこだわったのだ。

 そこで先の17日の会見で吉村知事発言を紹介すると、山本代表から怒りを込めたような回答が返ってきた。

 「盗人猛々しいと思う。いま多くの方(被災者)がさらに奪われようとしている中で、自分達のその金儲け、一部の人たちだけで金を分け合う行為を続けようとするのは、あまりにもひどい。それによって、この国のリソースは奪われるわけだから、いま何よりもこの能登半島の復興復旧に関して『国の総力をあげて全てを注いでも復活させるのだ』ということが必要です」

 続いて、かつて大阪府職員だった大石共同代表がこんな提案をした。

 「(府庁には)IR推進局と万博推進室と副首都推進局があって、残業も出来て潰しも効く屈強なエリート職員が百名単位で集められている。その人達を吉村知事の英断で、被災地に長期派遣できないのか」

 先の「れいわビジョン」には、「ノウハウのある国・自治体の職員の長期派遣、支援組織への公費投入も行う」という施策もあったが、その具体策を大石氏は示したのだ。

 同じく共同代表の櫛渕衆院議員もこう補足した。「今こそ安倍元総理が『アンダーコントロール』と言って東京五輪を誘致したことを思い出すべきだ。あの時に福島を含めた復興に関わる人材、リソースが五輪に取られてしまった」。

 たしかに東日本大震災の際、復興と五輪建設ラッシュが重なって工事費は高騰し、被災者を苦しめた。当時、宮城県庁で入手した「公共工事設計労務単価変動グラフ」によると、建設業界の人件費は1・5倍から2倍に上昇。民間の建築事業も直撃、見積もりが急増して仮設住宅や新店舗建設を諦めた人もいた。そんな苦境に能登半島の被災者が陥らないような提言内容になっていたのだ。

 岸田首相は「能登半島地震の復興復旧は再優先」と口先で言っても、万博や辺野古埋立工事など不要不急の事業中止に踏み込まない限り、リップサービスに過ぎないのだ。今後の対応が注目される。

よこた・はじめ フリージャーナリスト。1957年山口県生まれ。東工大卒。奄美の右翼襲撃事件を描いた『漂流者たちの楽園』で90年朝日ジャーナル大賞受賞。震災後は東電や復興関連記事を執筆。著作に『新潟県知事選では、どうして大逆転が起こったのか』『検証ー小池都政』など。

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