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【福島県】【畠山理仁】改選後も期待できない県議会

畠山理仁氏(選挙ライター)に聞く

 任期満了に伴う福島県議選が10月31日告示、11月10日投開票の日程で行われた。本誌では、以前から県議会の体たらくを指摘してきた経緯があるが、改選後もその傾向に大きな変化はないだろう。

 今回の県議選は19選挙区のうち9選挙区が無投票で、選挙になった10選挙区でも、全体の投票率は41・68%と過去最低を更新した。

 本誌は9月号に「県議会をダメにする専業議員」という記事を掲載した。同記事では、県議会は市町村議会などと違い住民に身近でないこと、いまの県議会は著しく存在感に欠けること、その割に報酬が高額でそのほかに〝余禄〟もあること――等々を解説。そのうえで「専業議員だと落選したら収入がなくなるため、何よりも再選を優先させる。その結果、執行部に物言わぬ議会になり、活力が失われる。仕事を持ちながら議員を務めるのが本来あるべき姿で、実働日数を加味してもそれができないはずがない」と指摘した。

 改選後も「専業議員」が多くを占める傾向は変わらず、変革が起こることはないだろう。なぜ、こんな状況が生まれてしまったのか。フリーライターで、選挙を中心に取材・執筆をしている畠山理仁氏に意見を聞いた。

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 ――県議選の投票率は過去最低の41・68%だった。投票率50%以下の選挙で選ばれた議員が「住民の代表」と言えるか、といった疑問がある。

 畠山 福島県に限らず、投票率の低下は全国的な傾向です。つまり、日本には「お金は出すが意見を言わない人」「物言わぬ納税者」が半数以上いるということです。日本人は今、収入の4割以上を税金や社会保障費として払っています(今年度の国民負担率は42・8%)。そもそも、この事実を意識している人も少ない。

 単純な話ですが、納税者としての意識があれば、現状に満足している人も不満がある人も投票に行くはずです。行かないのは、納税者意識が薄いということだと思います。

 有権者のレベルが低ければ、その代表である政治家のレベルは当然下がります。その意味で、「有権者のレベル以上の政治家は出てこない」という言葉は真実です。

 選挙で選ばれる政治家は「税金の使い方を決める人」です。しかし、「誰に任せるか」に興味のない人が多くいます。自分が払った税金の行方に無頓着な人が半分以上います。

 そもそも「選挙に行かない人のための政治が行われる可能性は低い」という基本的な知識が欠如しています。年齢や性別、学歴、収入、思想信条に関係なく、誰もが同じ重さの「一票」を持っていることの意味を知らない。非常にもったいない話です。

 このような状況では、政治家は「必ず選挙に行く人」の方だけを向いていればいいことになります。選挙に行かない人を相手にしなくてもいい「ぬるま湯」状態が続きます。選挙に行かない人は「黙って税金を納めてくれて何も要求しない人」だからです。

 日本の選挙で基準になるのは「有効投票総数」です。これは実際に投じられた票のうち「有効」と認められた票の総数で、当選に必要な「法定得票数」の算定基準になっています。投票率がどんなに低くても、法定得票数を満たせば「投票に行った人の意思」で当選人が決まる仕組みです。

 「投票率が50%以下の選挙において選ばれた議員を住民の代表として認めるべきなのか」ということは、もっと議論になってもいいと思います。しかし、そもそも、法律を変えることのできる立場である政治家を選ぶ選挙に行かないのですから、変わるはずがありません。「最大の権利である選挙権を行使せずに何を言っているんだ」という話です。

 もうひとつ、大切なことがあります。選挙に当選できるのは「立候補した人」だけです。

 今回の福島県議選では、19選挙区(定数58)に計75人が立候補しましたが、9選挙区では無投票でした。つまり、「有権者は投票(選択)すらできなかった」ということです。海外では定数1の選挙に300人以上が立候補することもあるのに、日本では立候補が「特殊なこと」だと思われているため、立候補する人が少ないままです。

 当選者は、立候補者の中からしか出ません。有権者は「立候補者の中」から選ぶしかありません。有権者は自分が立候補しない限り「よりマシな地獄の選択」をすることになります。自分と同じ考えの人はめったにいないからです。

 その選択すら放棄するということは、「もっとひどい地獄」がやってくるのを、ただ受け入れるということです。

 社会はさまざまな立場の人で構成されています。しかし、現在、選挙に立候補している候補者の属性は限られています。企業の経営者や定年後の高齢者、自営業者、弁護士など、特定の分野に偏っています。「有権者の代表」と考えれば、会社員や非正規雇用の人、無職の人、若い人など、いろいろな立場の人が立候補してもいいはずです。

 これは立候補を特殊なことと考え、政治を人任せにして候補者を大切に育ててこなかった有権者にも責任があると思います。「誰かが立候補してくれる」「誰かが候補者を準備してくれる」という意識のままでは、なかなか「投票したい」と思える人は現れないでしょう。

コスパが悪い県議

 ――県議は1000万円以上の報酬をもらっているが、働きぶりを見ているとそれだけの役割を果たしているようには思えない。全国的に見て、議員報酬に頼らない議員はどのくらいいるのか。

 畠山 国政選挙は全国的に注目が集まるため「大切な選挙」という意識が他の選挙よりは強くなります。また、市町村レベルの地方議会選挙の場合、自分の生活に近い政策課題を取り扱うこともあり関心は高くなります。身近な知っている人が立候補することもその理由としてあるでしょう。

 しかし、都道府県議会レベルの議員というのは、実際に何をやっているかが見えにくい立場の議員です。地方議会から国会議員になった政治家も、「都道府県議会議員は『中二階』のような立場。有権者の監視の目もゆるくなる。その割に報酬が高い『おいしい仕事』です」と認めていました。選挙区も広くなるので、動きも見えにくくなる。その割に人数も多い。裏を返せば、サボっていてもバレにくい。国会議員への足がかりだと考えている人もいます。

 国政でも地方選挙でもそうですが、やはり政治に関心を持つ人が少ないことが「コスパの悪さ」を感じさせているのだと思います。有権者が「何をやっているんですか」ともっと聞いていけばいいだけのことです。そうすれば議員も説明しますし、もっと働きます。

 有権者が「働かなければ私たちの一票で落選させることができるんだ」という力を自覚しなければ、いつまでもコスパの悪い議員に税金を払い続けることになります。選挙のときだけの付き合いではなく、有権者が県議会議員を使いこなせばいいだけのことです。

 議員報酬に頼らない議員は、都道府県議会議員レベルになると全国的にも少ないと思います。議会の出席日数はそれほど多くないのですが、報酬が高いためです。市町村議会の場合は報酬が10万円台の自治体もあるので、兼業議員も多くいます。ただ、やはり職場の理解も得られないので、社員の人が在職したまま議員になることは難しいようです。

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 畠山氏には、いずれ本誌誌面で、報酬などを含めた議会・議員のあり方、選挙のあり方などについて検証してもらうことにしたい。

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はたけやま・みちよし 1973年、愛知県生まれ。早稲田大学在学中の1993年から取材・執筆活動開始。『黙殺 報じられない〝無頼系独立候補〟たちの戦い』(2017年、集英社、今年11月に文庫化)で第15回開高健ノンフィクション賞受賞。


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