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高市早苗氏のスタンドプレー|横田一の政界ウォッチ27

 高市早苗・経済安保担当大臣が1月27日、一気に時の人となった。この日の長野講演や自身のネット番組で、1月16日に岸田文雄首相と面談して大阪・関西万博縮小や延期を提言したことを公表。「資材不足や人手不足も起きている中で能登半島地震からの復旧復興と万博が両立できるのかどうか」「延期や縮小は総理決断でしかできない」と訴えたのだ。

 しかし、万博を所管する齋藤健・経産大臣は「万博関連の資材調達などによって能登の復興に具体的な支障が生じるという情報に接していない」と延期の必要性を否定。すると、高市大臣は1月30日の会見で豹変。「私自身は『万博と能登の復旧復興の両方を完璧にやりきるということが日本の名誉になる。大事だ』と思っている」「総理からは『被災地復旧には支障が出ないように配慮する』と仰っていただいている。私からも『総理の決定には従います』という旨を伝えている」と矛を収めてしまったのだ。

 ただし会見では、首相提言の根拠となった業界の声も紹介していた。

 「既に万博の仕事を受注しているゼネコンで『新たに被災地の復旧復興の仕事を頼まれた』という社からは、『社内を万博班と能登班に分けて対応しているのだが、配電盤をはじめ資材・人手不足もあって、大変な状況なので、万博は少し延期した方がいいのではないか』という声を伺った。ハウスメーカーからも被災地の住宅などに対応する上で、資材調達への不安の声を伺っていた」

 そこで私は「高市大臣がした(ゼネコンなどへの)聞き取り調査などを『政権をあげて行うべきだ』と考えていないのか」と聞いたが、否定的な回答しか返って来なかった。

 「総理が齋藤大臣に指示をして『資材などについてもしっかりとチェックをしていく態勢になっている』と伺ったので、心配していない」

 東日本大震災では復旧復興と五輪建設ラッシュが重なって資材費が高騰する事態を招いた。今回も同じことが起きる恐れは十分にある。そこで「いま必要なのは能登半島の復旧復興の工事が増えた分をどこかで減らす、そのために万博の縮小・延期は有力だと思う」と再質問したが、高市大臣は「所管外」を理由に経産省任せの回答に終始した。

 しかし問題は、資材・人手不足が解消するのか否かだ。そこで2月9日の大臣会見では、齋藤大臣への指示の実効性について質問をしたが、前回と同じ回答を繰り返すだけ。そこで「打ち上げ花火のように提案して後は知らんぷりなのか。(話を聞いた)ゼネコンに確認すらしないのか」と迫ると、高市大臣から驚くべき発言が飛び出した。

 「その後も様々な声はいただいている。経産省も必要な資材が不足していないかなどを調査している段階なので、それ以上のこと、不正確な情報であったら、それを伝えるわけにいかない」

 何と「不正確な情報」の恐れがあるので最新の業界情報は話せないというのだ。そこで13日の会見で改めて「不正確な情報を元に万博延期論を進言したのか」と確認すると、“情報隠蔽”の理由を変えてきた。

 「不正確とは思っていない。ただ私は所管外なので、各所管外の省庁に指示をする権限も、情報を収集する権限も持っていない。だから情報を伝えることはもうしない」

 急に高市大臣が口をつぐんだのは閣内の認識不一致を恐れたためではないか。ゼネコンから「資材不足の状況は続いている」とは聞いているが、経産省が「情報に接していない」と言うので、業界情報隠蔽への舵を切ったと疑わざるを得ない。しかし今後、さらに資材不足が深刻化、万博開催と能登の復旧復興の両立が困難になることは十分に考えられる。その時、高市大臣が“不都合な真実”を再び語るのか注目される。


よこた・はじめ フリージャーナリスト。1957年山口県生まれ。東工大卒。奄美の右翼襲撃事件を描いた『漂流者たちの楽園』で90年朝日ジャーナル大賞受賞。震災後は東電や復興関連記事を執筆。著作に『新潟県知事選では、どうして大逆転が起こったのか』『検証ー小池都政』など。

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