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裏磐梯を愛した女【木嶋佳苗】|【高橋ユキ】のこちら傍聴席➄

 2007年から2009年にかけて発生した首都圏連続不審死事件。一連の事件が明るみになるきっかけは、2009年8月、埼玉県富士見市の駐車場に停まっていた車から男性の遺体が発見されたことだった。車内には練炭が敷き詰められていたが、車の鍵が見つからないなど不審な点があった。捜査が進むうち、ひとりの女の存在が浮かび上がる。

 その木嶋佳苗は、男性と交際関係にあり、男性が死亡する直前にも会う約束をしていた。加えて、過去に交際していた他の男性らも不審な死を遂げていたことが明らかになってゆく。出会いは、婚活サイトだった。そのうえ同サイトで出会った他の男性たちからも、多額の金銭を得ていたことが発覚する。

 最終的に逮捕された木嶋は、3名の男性に対する殺人罪、婚活サイトで出会った複数の男性たちに対する詐欺や詐欺未遂罪、窃盗罪で起訴された。2012年にさいたま地裁で死刑が言い渡されたが控訴、上告し、2017年に死刑が確定している。

 現在も確定死刑囚として東京・小菅の拘置所に収容されている木嶋死刑囚は、一連の事件が明るみになる前、セレブな生活をブログに綴っていた。バーキンをはじめとする高級ブランドアイテムの写真や、六本木の高級ホテルでの食事、頂き物の高級スイーツ、購入したベンツなど、華やかな暮らしぶりを公開し続けていた。令和の世であれば、ブロガーではなく、インスタグラマーとして注目を浴びていたかもしれない。だがその暮らしは、複数の男性を騙して得た金で維持されていた。

 実は、そんな彼女のブログに頻繁に登場した首都圏以外のスポットがあった。福島の裏磐梯だ。木嶋死刑囚はここを頻繁に訪れ、温泉や釣りを楽しみ、食事に舌鼓を打っていた。

 ある記事では喜多方ラーメンの写真をアップし、こんな文章を綴っている。

 〈私は、ごく普通のあっさり醤油ラーメンが一番好き。昔から喜多方ラーメンが好きだったけれど、まさかこんなに頻繁に本場喜多方でラーメンを食べることになるなんて~。(中略)明日は朝5時からバス釣り。11時半にランチ。食事後にボートを片付け、猫魔温泉に入って、喜多方でラーメンを食べて東京へ戻る予定。(中略)田舎での休日は、東京での疲れを癒してくれます〉

 とにかく満喫している。文章から福島の魅力も伝わってくる。

 ブログだけでなく裁判でも、裏磐梯という地名は頻発した。彼女は当時、複数の男性から金銭を詐取していた一方、交際相手がおり、彼に対しては金を要求することはなかったという。裏磐梯にはこの交際相手とよく出向き、釣りを楽しんでいたようだ。「年間50〜60日は裏磐梯に行く」と被告人質問でも述べており、また詐欺未遂被害者のひとりに対しては、こう発言していた。

 「福島出身で、当時、お母様も福島在住だと聞いていました。私は裏磐梯に長く通っていて、気に入っていたので、福島に縁のある方とは気が合うのでは……と思いました」

 埼玉の駐車場で男性が亡くなった直後も、交際相手と裏磐梯を訪れていた。猪苗代湖に足を延ばしてプロのガイドを受けながら、バス釣りを楽しみ、馴染みのレストランで食事。これが福島での最後の晩餐となった。


たかはし・ゆき 1974年生まれ。福岡県出身。2005年、女性4人で裁判傍聴グループ「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。以後、刑事事件を中心にウェブや雑誌に執筆。近著に『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』。

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