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【サッカー】【原発】Jヴィレッジに迫る2つの危機(第1弾)

2020年7月号より

無謀な宿泊棟増設にコロナが追い打ち


 サッカートレーニング施設・Jヴィレッジ(楢葉町・広野町)の運営会社の2020年3月期決算が7月にも発表される。当然コロナ禍の影響は大きいだろうが、もともと同社は前期決算において、純損益で1億円以上の赤字を出していた。決算発表に合わせて、〝復興のシンボル〟の実態をあらためて調べてみた。


 Jヴィレッジは1997(平成9)年に開設された国内初のサッカー向けナショナルトレーニングセンターで、楢葉町と広野町にまたがって立地している。49㌶の敷地の中に、天然芝ピッチ(=サッカー場)7面、人工芝ピッチ2面、観客席付きスタジアム、全天候型練習場、ホテル、フィットネスジムなどを備える。日本代表をはじめとしたサッカーチームの合宿、指導者の研修、海外チームのキャンプ地、各年代のサッカー大会、大規模イベントなどで利用され、年間約50万人が訪れる。

 福島第一原発と広野火発の増設を検討していた東電が、見返りの〝地域振興策〟として、約130億円を投じて建設。県に寄付され、県が設立した一般財団法人福島県電源地域振興財団が財産管理している。

 本誌では建設計画が浮上した当初、「見返りでこうした施設を作るなら、130億円を基金にして教育奨学財団を作り、浜通り一帯の高校生、大学生の奨学資金に充てるという提案なら、県民に受け入れられたのではないか」、「こうした提案をしなかった県にも責任がある」と批判的に報じた経緯がある。

 同財団から同施設を借り、実際の運営業務を行っているのが㈱Jヴィレッジ(社長=内堀雅雄知事)だ。県や東電、日本サッカー協会、公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)などが出資する民間会社で、資本金4億9000万円。

 2011(平成23)年の福島第一原発での事故発生時には国の管理下に置かれ、収束作業の〝最前線基地〟として利用されていたが、拠点が福島第一原発内に移ったことから、復興を本格的に議論。2018(平成30)年7月には新たに整備された新宿泊棟と全天候型練習場などの営業を再開し、2019(平成31)年4月に全面営業再開を果たした。

 もっとも、今後については懸念を示す人が少なくない。イベント開催時は混み合うものの、平日は閑散としているからだ。

 昨年7月に発表された2019年3月期決算(単体)は別表の通り。売上高は4億9970万円、純損益は同社にとって過去最大となる1億4845万円の赤字となった。

決算

 本業での儲けを示す営業損益は6億8247万円の赤字。4月の全面再開に伴う備品購入費、スタッフ増加による人件費などの大幅増加が響いた。東電からの賠償金3億3917万円、補助金などの営業外収益1億9860万円により何とか赤字幅を圧縮した格好だ。

 朝日新聞デジタル2018年12月7日配信記事によると、震災前も2007(平成19)年度から2009(平成21)年度は3年連続で赤字だった。原発事故以降は㈱Jヴィレッジが東電に同施設を転貸し、その使用料が入っており、加えて東電から営業損害賠償も受けていたため、黒字化していた。だが、本格営業再開とともに再び赤字に戻ってしまった。

決算2

 同施設内のピッチは有料で貸し出しているが、利用料は1面1時間当たり数千円から1万数千円程度。一方で、ピッチの芝の維持には「利用料収入をはるかに上回る費用がかかる」(Jヴィレッジの内情に詳しいジャーナリスト)。全国のサッカースタジアムの報告書などを見ると、天然芝の管理費は年間1億数千万円に上っている。複数のピッチを管理する同施設では当然、それ以上の費用がかかっているだろう。

 その分をカバーする〝収入の柱〟は宿泊事業だ。震災・原発事故前(2009年度)の年間宿泊者数は3万5657人(稼働率約41%)だった。一部営業再開した2018年7月から2019年3月までの宿泊者数は2万3000人に留まり、㈱Jヴィレッジの上田栄治副社長(日本サッカー協会理事)は「2020年3月期は宿泊者数5万人を確保したい」と意気込んでいた。実現できたかどうか現段階で分からないが、周辺の住民からは「JR常磐線沿線に競合ホテルが次々とオープンしているので、顧客確保に苦戦しているのではないか」と懸念する声が聞かれる。

 同施設の近くには常磐線のJヴィレッジ駅が建設され常設駅となったことで利便性は向上した。ただ、双葉郡内のある経営者は「電車で移動するビジネスマンやエンジニアはいわき駅や広野駅の近くのホテルを利用するし、発電所の作業員や工事関係者は(Jヴィレッジより北側に位置する)富岡町の宿舎やホテルなどに泊まる。そうした中で、利用者数を確保するのは難しいのではないか」と厳しく分析する。

裏目に出た大型設備投資

 2018年の一部営業再開の際には県や東電、日本サッカー協会、㈱Jヴィレッジ関係者などによるJヴィレッジ復興プロジェクト委員会が立ち上げられ、「『新生Jヴィレッジ』復興・再整備計画」が策定された。

 そこでは「宿泊施設は新生Jヴィレッジの収益の柱」、「ハイクラスの宿泊施設を整備する」、「今後見込まれるイノベーション・コースト構想や廃炉関連研究者等のビジネスニーズに対応したコンベンション機能を有する宿泊施設にする」といった方針が示された。

 新たに整備された宿泊棟は8階建てで、最大300人収容の会議場を備える。客室は117室(スイートルーム含む)で、全体では200室に増えた。従来の合宿需要以外にもビジネス需要を取り込む狙いが込められているが、「ハイクラスの宿泊施設」をうたっているだけあって、料金は素泊まり7500円と周辺のビジネスホテルより高め。肝心のイノベーション・コースト構想も今一つ推進力に欠ける中、狙い通りの集客は図れていないようだ。

 ちなみに新宿泊棟の建設費は約22億円で、県が負担した。周辺の宿泊施設にとっては民業圧迫も甚だしく、公金の費用対効果としても疑問だが、運営会社にとっては、固定費が上昇したにもかかわらずこのまま宿泊者が伸びなければ、経営にしわ寄せが行くのは必至だ。

 併せて整備された全天候型練習場の建設費は約22億円で、個人・団体からの寄付金約7億円とサッカーくじの助成金15億円が投じられた。昨年にはさらに、県が約1億6000万円の補正予算を組み、4000人規模のコンサートや展示会などに使えるように改修された。

 これにより大型イベント誘致とそれに伴う宿泊者増加が見込まれていたが、新型コロナウイルスの感染拡大で大きくつまずいた。

 同施設は東京五輪の聖火リレーの出発地点となっていたが、直前の3月24日に中止が決定。その後に行われた聖火の一般公開は約1カ月の予定だったが、たった6日で終了した。4月中旬にはアイドルグループ・ももいろクローバーZの大型ライブイベントも1年延期となった。

 ㈱Jヴィレッジ担当者によると、2月下旬以降の宿泊予約取り消しは数千人規模に膨らみ、聖火リレー中止などで見込んでいた利用者1万人超がゼロになったという(河北新報オンラインニュース5月2日配信)。

 今後もコロナの影響で合宿などを控える団体は多いだろうし、当面はビジネスマンの出張も慎重になるだろうから、今期2021年3月期の決算はより厳しいものになるだろう。

 前述した通り、原発事故による賠償金が出ているので、何とか赤字を圧縮しているがいつまでも続くものではない。原発事故の影響で売上高が落ち込んだ企業でも賠償金が打ち切られてきたのは本誌既報の通りだが、そもそもなぜ㈱Jヴィレッジにはいまもまとまった金額の賠償金が支払われ続けているのか。まさか東電が株主の会社だから特別扱いされているわけではないだろうが……。

課題が報道されないワケ

 仮に東電からの賠償金が打ち切られれば、経営危機が現実的になる。複数の関係者によると、同施設開設当初の取り決めで、県による公金投入は基本的に行わないことになっているという。賠償スキームの中で実質国有化されている東電、日本サッカー協会が多額の資金を拠出するのも難しいだろう。そうなったら誰が責任を取るのか。

 ここに来て放射線量の問題も浮上している。本誌1月号で、Jヴィレッジの駐車場において行われた国際環境NGOグリーンピース・ジャパンの空間放射線量調査で、高さ1㍍1・7マイクロシーベルト毎時、地表面接触71マイクロシーベルト毎時と高かったことを報じた。その結果、今年3月、東電が国の定めたルール通りの除染を行わないまま、持ち主である福島県電源地域振興財団に施設を返還していたことを認めた。

 さらに除染で出た土壌(1㌔当たり8000ベクレル以下)が別の場所の土地造成工事に再利用されていたことも明らかになった。聖火リレーの出発地点に設定された〝復興のシンボル〟だが、ずさんな除染で対応していたことがうかがえるし、「これでは安心して利用できない」という人もいるだろう。

 株主には地元紙や地元テレビ局などのマスコミ関係者も名を連ねている。そのためか同施設に関しては〝復興のシンボル〟としての前向きな報道ばかりが目立ち、こうした問題点が報じられることは少ない。

 経営課題やコロナ禍の影響、今後の展望について、㈱Jヴィレッジに取材を申し込んだが、締め切りを過ぎた6月23日現在も回答は寄せられていない。

 同施設の担当部署である県エネルギー課にも意見を求めたところ、担当者は「2019年3月期決算は一部営業再開直後であり、再開前の期間も含まれていることを考えると業績が落ち込むのは当たり前。これから発表される2020年3月期決算で評価してほしい」と話した。

 とは言え、休業期間中は黒字だったことを考えると、「営業期間が短いから業績が落ち込むのは当たり前」という説明には違和感を抱く。

 「全面営業開始から1年」というテーマで、この間テレビや地元紙などで同施設の現状が報じられているが、昨年度は震災・原発事故前の水準に近い約49万人が利用したという。この数字だけみると業績がかなり回復しているように感じるが、前述した通り、同施設の収入の柱は宿泊事業であり、どれだけ多くの人が訪れてもホテルに宿泊しなければ収益にはつながらない。

 果たして7月中にも発表される2020年3月期決算はどのような結果になるのか、注目される。

第2弾の記事 ↓



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