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「見えないものが見えない人」には「見えないものを見える人が大事にしてるもの」がどのように見えるのだろうか。

第 17 回「shiseido art egg」第 2 期展 野村 在展 「君の存在は消えない、だから大丈夫」のイベント、野村さんのアーティストトークが4月10日の夜に開催されました。


今日このトーク聞いた方がいいって気がしたんですよ。なので午前中母親の家に行って訪問介護をして帰宅したのですが、やはり行くべきって思って再び出かけました。


私の読みってマジ当たる。結果としては本当に行ってよかったです。


野村 在さんは申し訳ありませんが全く存じ上げませんでした。


興味を感じたのは「水に写真を印刷する」というワード。どんな技術なんだろう?というのが正直なところでした。


でも実際のトークで私がガクブルしたのは最新技術ではありませんでした。なので、まず全体像から。

トークでは全部の作品についての興味深いトークがありました。今回は私が印象に残った作品とトークについて触れたいと思います。

今回の展覧会のテーマは「3つの時間が交錯する」だそうです。過去、現在、未来を100年ごとに考える。100年って考えてみると案外短い。

トークは「100年ほど前の古い写真を集めてそれを焼いたものをシャッターをずっと開けて撮った作品」。つまり「100年前の話」からスタートしました。

古い写真は水分を含むので炎の色が変化するそうです。この作品は着色してるものではないと聞いて驚きました。そしてタイトルもとても独特。その写真の情報をとにかくメモったそうです。


スキャンじゃなく。メモってのが重要。だって100年程前にスキャンはありませんからね。そのほか、現在から未来に向けてのポラロイドの作品、未来に向けてのDNAを印刷し続ける作品など「100年」という単位がとても美しく表現されていました。


ただ、私は心揺さぶられたのは違う作品でした。

3つのガラスケースの作品。とても、美しい。ガラスに打ち付けられたドット。これは。。。点字?

野村さんはプライベートなお話を始められました。それは障害をお持ちで既に他界されたお姉様の話。この手紙はお姉様の手紙を展示にしたものだそうです。

もちろん、読めない。点字だから触らないと読めない。ガラスケースだから触れないので点字を読める人も読めない。

野村さんはお姉様がとても好きだったようでした。お姉様はとても尊いと何度も話されていて途中で声が涙で止まってしまっていました😭。お姉様が通っていた学校の関係で点字の読み書きが出来るようになった野村さん。

「点字というのは文字を打ち込むから楽しいんです😃」
「点字は親は読めないけど僕と○○姉ちゃん(ここでは名前を伏せます)だけがわかる言葉だったんです😄」


と話す野村さんの顔はアーティストの顔じゃなく「大好きなお姉様のことを話す弟さん」の顔になっていました。お姉様の存在、お姉様と過ごした時間。お姉様の弟になったことで得た作る喜び。私は野村さんはお姉様からたくさんの素敵なものを頂いたように見えました。


トークではお姉さまの名前は出ていましたが、ここでは名前やお姉さまの詳細は伏せたいと思います。なぜなら私は「お姉様は野村さんにとってとても大事な存在」だと感じたから。

今日、私は「アーティスト野村 在」を先ほど知ったのに「素敵なものをお姉様からたくさん頂いた」という事柄の存在が見えました。「とても美しいお姉様」の存在がアーティスト野村 在を通じて見えました。この

「もう存在しないけど確かに存在していた素晴らしいもの」」

の存在の尊さがこの「野村在」展で確かに伝わっていた感じがしました。同時に私個人が自分の中に「自分が素晴らしいと思っていた現在存在しないもの」を再認識していました(お話を伺った人はそれぞれの大事なものを再認識したんじゃないかしら)。そして同時にその「現存しない素晴らしいもの」を絶対に守る、それを汚そうとする者は絶対に許さないと気持ちが新たに燃え上がりました。

昨今、各個人の「現存しない素晴らしいもの」に対して敬意を払わない人が多いような気がするんです。同時に「人が大事にしてるもの」に対して基本的敬意を払わない人が増えた。それってとても無礼なこと、なんだなと改めて認識しました。


もっと自分が大事にしたい存在を大事にしたほうがいい。自分が大事にしたい存在を揶揄されそうになったり、搾取されそうになったら怒っていい。
自分が大事にしたい存在を自分が大事にしないでどーすんの!


そしてもう1つ「水に写真を印刷する」作品。タイトルは「ファントーム」。



こちらが話題の水に印刷する装置、なのですがお話を聞いて心揺さぶられたのは技術ではなかった。こちらは「亡くなった方々の写真を水に印刷する装置」だそうです。印刷された写真は横から見ると正直判別は難しいです。インクが流れていく様は荼毘にふされた際の煙のような印象も受けます。
存在って消えてしまうんだな。ということを美しく視覚化していると同時に「現存しなくてもあなたとの存在やあなたとの時間はずっと私の中に残る」という強い宣言のような気もしてきます。

この表現はとても鑑賞者を選ぶのではと感じました。「見えないものが見えない人」には「見えないものを見える人が大事にしてるもの」って見えるのでしょうか。そもそもそこに存在を感じることが出来るのでしょうか。

そういう人に「実際には見えない大事なものの存在」を証明する意味ってあるのかな。と思うことが多い昨今。私のモヤモヤをこの「ファントーム」は救ってくれるように感じました。

ちなみに質疑応答で「印刷された水はどうなるのか」には「できれば残したいけど、でも最初は単なる水道水なので流すことで「循環になる」という前向きな解釈もできます。なのでまだ決めてません」とのこと。どのような形になっても前向きな解釈を持てば「現存しない大切なものに尊厳を持つことが大事」なのだな。そういえばタイトルは「君の存在は消えない、だから大丈夫」。


そう、大丈夫。
とても素敵な時間を過ごさせて頂きました。ありがとうございました。


野村在さん。活動拠点は東京とニューヨークだそうです。9月にニューヨークに行くときに何か拝見できたら嬉しい。ああ、本当に行ってよかった。

この展示は4月14日迄です。お見逃しなく。