ウルトラマリン

レイモンド・カーヴァーの詩集。好きなやつを2つほど転載します。


今朝

今朝はまったく見事な朝だった。地面には少し
雪が残っていた。クリアな青い空に太陽が
浮かんで、海はどこまでもブルー、そしてまた
ブルー・グリーン。
さざ波ひとつなく、穏やか。服を着替えて
散歩に出た-自然のさしだすものを
しっかりと受け取らずにおくものかと。
身をかがめるように曲がった、古木のそばを通った。
あちこちの岩陰に雪が吹き溜まった
野原を横切った。断崖まで
歩いていった。
そこで僕は海を、空を、はるか眼下の白い砂浜の上に
輪を描いているかもめたちを、じっと
見つめた。すべてがすばらしい。すべてが、混じりけのない
ひやりとした光を浴びている。でもいつものように、僕のあたまは
ふらふらどこかにさまよっていこうとした。僕は
今、目の前にあるものだけを見るように、
それ以外のものを見ないように、気を引き締めなくては
ならなかった。自分にこう言い聞かせた。
大事なのはこれなんだ、ほかのことは忘れろと(そして事実
ひとしきりそれを見ていたのだ!)そのひとしきりのあいだ、
日常のあまたの雑念は、僕のあたまから放逐された。何が
正しくて何が間違っているのか-責務、
美しい追憶、死についての思い、別れた妻を
どうしよう。そんなものみんなどこかに
消えてしまえばいいのにと、今朝願っていたことすべて。
毎日まいにち、僕が抱え込んできたあれこれ。生きていく
ために、踏みつけにしてきたあれこれ。
でもそのひとしきりのあいだ、僕は自分のことも、ほかの
いろんなことも、きれいさっぱり忘れた。完全に。
その証拠に、ふり返ったとき、自分がどこに
いるのか、わからなかった。何羽かの鳥たちが、
こぶだらけの木からさっと飛びたち、僕が行かなくては
ならない方向にむかって行く、そのときまで。


一日でいちばん素晴らしい時間

涼しい夏の宵。
開いた窓。
燃える灯火。
ボウルの中の果物。
僕の肩に置かれた君の頭。
それが、一日のうちでいちばん幸福な瞬間。

それにも勝るのが、言うまでもなく、
早朝の時間。それから昼ごはんの前の
ちょっとしたひととき。
それから午後だって、
それから夕暮れの時間だってある。
けれども、僕はこういった
夏の宵が大好きだ。
あるいは、考えてみたら、どんな
時間よりも、好きかもしれないな。
一日の仕事は終わった。
もう誰も、僕らに連絡を取ることはできない。
あるいは、これからもずっと。

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