わたしの夏休み

わたしは高鳴る胸に両手を添えつつ、列車の椅子に深く腰を埋めていた。
どうしてだろう、身体はしっとりと穏やかなのに頭は冴える。
昨日までの徹夜づけの試験勉強疲れは、一晩の睡眠で吹っ飛んでしまったようだ。

さあ、列車は走る。
梅雨明けの真っ青な海と、それに応える紺碧の海縁を。

わたしは、ひたすら車窓を眺めながら、妙に冴える頭を意識的に空っぽにしていた。
何ヶ月ぶりだろう、故郷に帰るのは。
学生生活にどっぷりと浸かっている時とは異なる感覚が呼び覚まされる。

時々止まっては、また走り出す。
のんびりしていると思ったら、ゴォーっという音とともに軽快に走り出す。

あの故郷の街並みと、あの匂いが近づいてくる。
あの子と話している、わたしの姿が見えていた。
冴えた頭に相応しくないであろう、スローモーションな空気の中にいるようだ。

気が付くと列車はトンネルを潜って山林を疾走し、海はもはや見えなくなっていた。


Hiromasa Sudo's photography

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