見出し画像

経済社会学研究_レポート

どうも!
セイタです!!
北京大学社修士課程で社会学を学んでいます。


この記事では2023年春学期に受講した《経済社会学研究(经济社会学研究)》という授業の期末レポートについて書いていきます!!。概略について興味のある方は以下の記事をご覧ください。


自分は期末レポートのテーマとして、『地縁と血縁の重要性:現代華人社会の関係ネットワーク』を選びました。その理由は、自分が将来的に華人や華僑の多い地域で暮らしていきたいと思っていたからです(笑)


対象としている読者は
・社会学に興味がある
・華僑・華人研究に興味がある
・ネットワーク研究に興味がある
方を想定しています。
もちろん当てはまらない方でも全く問題なく読める内容となっております。






期末レポート概略

期末レポートのルールは以下のものになります。

文字数に関しては、8,000-10,000字程度が基準であり、Maxでも15,000字とのことでした。日本語にするとだいたい1.3-1.4倍くらいになります。学部生の卒論並みです。ちなみに自分は9000字程度で書きました。


テーマの設定に関しては、以下のように比較的自由度が高くてやりやすいです。

関心のある経済現象を選び、経済社会学の適切な理論的観点から分析・説明する。
分析する現象ははミクロ、メゾ、マクロレベルのどれでもよい。 学術文献、自身の生活からの情報、メディアの報道など、使用する情報源に制限はない。
理論や視点は、授業で取り上げた既存の理論や研究から得たものでも、自身の考えに基づいているものでもかまわない。また、既存の理論を改良したり、自分の考えに基づいて新しい理論を構築してもよい。



ただ、レポートの構成や内容に関しては詳細に書き方が決められています。その一部として分析や解釈方法について書かれた箇所を紹介させていただきます。

1. 分析は、理論的及び論理的に明確で、合理的で、説得力を持たせる必要がある。

2. 理論的分析と説明を、実証研究で裏付けさせる必要がある。実証研究は、現象そのものから得られることもあれば、現象に関連する経験的事実から得られることもある。 状況に応じて、生活観察、メディア報道、文献、統計データなど、さまざまな情報源や形式から得られる。

3.その現象に関する代替可能な解釈を検討し、自信の解釈と比較する。そして、 自信の分析や解釈がより確からしいことを説得力をもって論証する。 例えば、あなたの理論的分析が、次のようなことが可能であることを示す。
例えば、あなたの理論的分析が、代替的分析では説明が困難な現象の経験的特徴や関連する経験的事実を説明できることを示す。

以上のような書き方のルールがあります。ちなみに、上記文章は全体の3分の1程度です。




レポートの内容

レポートのテーマは『地縁と血縁の重要性:現代華人社会の関係ネットワーク』です。ちなみに、キーワードは「郷土中国」「都市中国」「海外華人」「地縁・血縁」「関係ネットワーク」になります。


以下、レポートの概略を日本語に訳したものです。

本稿は、中国社会の関係ネットワークを研究内容とし、郷土中国、都市中国、華人社会を中心に論じられている。 論文の構成として初めに、関係ネットワークの主要な理論をまとめる。 次に、中国都市部の事例として北京の関係ネットワークを取り上げ、日本の研究者の先行研究を整理し、華人の関係ネットワークについて考察する。 本稿の結論として、郷土中国においては血縁関係が最も重視されるのに対し、都市部では地縁関係が重視され、華人は血縁関係や地縁関係といった伝統的な関係ネットワークだけでなく、あらゆる関係ネットワークを対等に扱うというものである。 最後に、考えられうる別の理論や解釈が持つ欠点について論ずる。


レポートの構成としては、
・イントロダクション
・先行研究:社会ネットワーク理論
・北京のネットワーク研究
・海外華人の研究
・郷土中国、都市中国、海外華人のネットワーク
となっています。



先行研究:社会ネットワーク理論

ここでは、欧米の研究をメインにネットワーク理論を紹介しています。例えば、この分野では最も有名なGranovetterの《The Strength of Weak Ties》や過去のネットワーク理論をまとめたBurtやKadushinを取り上げています。


Burtはネットワークを「橋渡し型社会資本」(Bridging Social Capital)と結合型社会資本(Bonding Social Capital)に大別しています。

Burt, Ronald S. 1992. Structural Holes, Harvard University Press.


Kadushinは自己中心型ネットワーク理論、社会中心型ネットワーク理論、開放型ネットワーク理論と分類しています。

Charles Kadushin. Understanding Social Networks: Theories, Concepts, and Findings [M]. Oxford University Press,2011.


欧米の理論を紹介した後に中国でのネットワークは比較的強いネットワークによって、成り立っているという主張を行います。例えばある中国の学者は以下のようにコメントしています。

中国では、農耕文明の下での数千年にわたる社会的交流が小農経済と直接関係しており、その結果、家族、親族、同郷の関係が重要視されるようになり、血縁と地縁が中国人の交流の基礎になっていると考えるのが妥当だろう。

翟学伟.是“关系",还是社会资本[J].社会,2009年,1卷(1号):112.


また、この分野では非常に有名な边燕杰も中国の強い靱帯の重要性を以下のように語っています。

政策上の優遇措置や市場機会にアクセスできる有力者を求める強い関係を通じて、便宜が図られる余地が大きくなる

Bian, Yanjie. Chinese Social Stratification and Social Mobility[J]. Annual Review of Sociology 2002, 28: 91-116.



北京のネットワーク研究

ここでは「中国浙江省温州出身者の社会的ネットワークに基づく産業集積の形成―北京大紅門アパレル地域を事例として」という論文と北京生まれの日本華人の女性へのインタビューをもとに北京でのネットワークの在り方について考察を行っています。


論文では、北京のアパレル地域の産業集積において、ネットワークが如何に機能しているかが研究されています。具体的には、北京に住む温州人が創業資金の確保が難しい中で、「標会」という自助組織を作り、資金の獲得を試みていることがテーマです。


以下、抜粋です。

金利という点では表面的な経済性は弱いが,人間関係や取引関係等を維持することや,会で親睦を深めることで情報の入手・ 交換を行うこと,将来,自身の事業が経営難に陥った場合に他の会員から支援を受けられる可能性があること等,より長期的な視点でみれば経済性があるといえる。

p44-45


また、日本華人へのインタビューでは、北京人が「如何に北京人であることを重視しているか」を述べています。


例えば、全然話したことのないおばさんが、国籍は日本だが北京生まれで親戚もみんな北京人であるということを知った瞬間に態度が急に変わり、知り合いの男の人を紹介してくれたそうです(笑)


また、彼氏を寝取られた北京の女の子の話も興味深かったです。その子は、彼氏を寝取ったことその後も関係を続けていたそうなのですが、縁を切らない理由を聞かれたときに「だって彼女(彼氏を寝取った女)は北京人だから」と答えたそうです。


ある意味でこの日本華人は非常に地縁の恩恵を受けているといえます。それだけでなく、血縁の恩恵も受けています。例えば、彼女が住んでいる家は市場価格1000万元(約2億円)なのですが、親戚のおばさんが所有しているため、無料で済んでいます。


このように北京人は地縁も血縁も非常に重視しているといえるでしょう





海外華人の研究

この章では、海外華人の研究を取り上げています。本当は英語や中国語でも研究を探した方が良かったのですが、しんどいのですべて日本語の研究を参照しました(笑)


以下の三本の論文をまとめました

・ 伊藤泰郎.関東圏における新華僑のエスニック・ビジネス[J].日本都市学会年報,1995年,13巻:5-21.
・ 郭文琪. 日本における中国系移住者の人的ネットワークの構築―大阪在住者の事例に基づいて―[J].アジア太平洋論業,2022年,(24号):265-274.
・ 河合洋尚. ベトナム北部華人の移住と社会的ネットワーク[J].アジア太平洋論議,2022年,24号:171-184.

詳しく書くと長くなってしまうので割愛します。興味のある人は下記の記事をご覧ください~
※上記3本と前の章で紹介した北京のアパレル産業の事例についての概略を書いています。


この章では上記の三つの事例より、海外華人は地縁や血縁にとどまらず様々な関係性(学縁、友人関係など)を重視するという結論を下しています。




郷土中国、都市中国、海外華人のネットワーク

最後の章では、「郷土中国」「都市中国」「海外華人」という三つの異なる属性を持つ広義の「中国系」の人々がどのようなネットワークを重視しているのかについて書いています。


関係を「地縁」「血縁」「その他の関係」と分けて、その重視の割合が社会の在り方に応じて異なるさまを下記図で表しています。


下記のようにまとめています。

変化のない「郷土中国」では血のつながりが最も重視されるが、華人にとって血のつながりはそれほど重要ではない。 商業関係が発達した「都市中国」は地縁をより重視する。 中国から離れた華人は、血縁や地縁といった伝統的なネットワークだけでなく、その他のさまざまなネットワークも重視する。



参考文献

この論文では以下のような参考文献を使用しました。日本語の参考文献は中国に訳しちゃってので、わかりにくいかもしれませんが、もし興味がある論文や本があればぜひご覧ください。また、引用スタイルは北京大学でよく使われている社会学部でよく使われている"China National Standard"を使用しています

《中国語》
[1] 边燕杰,缪晓雷.如何解释“关系”作用的上升趋势?[J].社会学评论,2020,8卷(1期):3-19.
[2] 陈云松、比蒂·沃克尔、亨克·弗莱普. “找关系”有用吗——非自有市场经济下的多模型复制与拓展研究[J].社会学研究,2013年,(3期)
[3] 费孝通.乡土中国[M].北京:北京大学出版社,2012年.
[4] 翟学伟.是“关系",还是社会资本[J].社会,2009年,1卷(1号):109-121.
[5] 张文宏. 社会资本:理论争辩与经验研究[J]. 社会学研究,2003年,18卷(4期):23-35.
[6] 周雪光. 关系产权:产权制度的一个社会学解释[J].社会学研究,2005年,(2期):1-31.

《英語》
[1] Bian, Yanjie. Chinese Social Stratification and Social Mobility[J]. Annual Review of Sociology 2002, 28: 91-116.
[2] Burt, Ronald S. 1992. Structural Holes, Harvard University Press.
[3] Charles Kadushin. Understanding Social Networks: Theories, Concepts, and Findings [M]. Oxford University Press,2011.
[4] Junfu Zhang and Zhong Zhao.Social-family network and self-employment: evidence from temporary rural–urban migrants in China[J]. Journal of Labor & Development,2015,4(4):1-21.
[5] Mark S. Granovetter.The Strength of Weak Ties[J]. American Journal of Sociology,1973,78(6):1360-1380.
[6] William G. Ouchi and Raymond L.Price.Hierarchies, Clans, and Theory Z: A New Perspective on Organizational Development[J].Organizational Dynamics,1978,21(4) :25-45.
[7] Walter W Powell. Powell;Neither market nor hierarchy network forms of organization [J].Reserch in Organizational Behavior,1990年,12卷:295-336.
[8] Zhang Chuanchuan.Clans, entrepreneurship, and development of the private sector in China[J]. Journal of Comparative Economics,2020,48:100-123.

《日本語》
[1] 陈天玺. 彩虹隐喻中的华商网络的本质[J]. 亚洲研究,2002年,第48期:37-59.
[2] 端木和经. 基于中国浙江温州人社会网络的产业聚焦的形成:北京大红门服装区的案例研究[J].经济地理学年报, 2017年, 63卷: 35-49.
[3] 河合洋尚. 北越华人的移民和社会网络[J]. 亚太论议,2022年,24期:171-184.
[4] 郭文琪. 构建中国移民在日本的人际网络:基于大阪居民的案例[J]. 亚太论业,2022年,(24号):265-274.
[5] 刘宏,廖赤阳. 网络、身份和华人研究[J]. 东南亚研究,2006年,43卷(4号):346-373.
[6] 桥本健二. 阶级社会:对当代日本不平等的质疑[M].2006年
[7] 若林直树. 社会网络理论在组织理论发展中的新视角[J]. 经济社会学会年度报告, 2015, 37: 38-45.
[8] 吴晓良. 在日中国留学生的社会网络及相关因素[R]. 九州大学学术信息资源库. 2017, 1-202.
[9] 伊藤泰朗.关东地区新华侨的民族事业[J]. 日本都市学会年报,1995年,13卷:5-21.



また、以下記事にて日本語論文の一部をまとめているので、興味がある人は合わせてご覧ください。



このレポートに使った時間

レポートの執筆にはトータルでは37時間弱かかっています。
内訳としては、
・参考文献:15時間前後
・プレゼン執筆:22時間前後

となっています。


自分が学びたい分野を期末レポートのテーマにしたので、論文をかなりの量読んだため、執筆にも時間を要しました



ということで、今回の記事は以上となります。
長い記事ですが最後まで読んでいただきありがとうございます。



経済社会学研究の授業中で課題として課されたプレゼンに関しても別途記事を書いているので、もしよければご覧ください!!



このマガジンでは引き続き、北京大学社会学修士の授業について執筆していきます。


もし気に入っていただけたならば、
スキとフォロー、マガジンの購読よろしくお願いします~


この記事が参加している募集

スキしてみて

学問への愛を語ろう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?