ワタクシ流業界絵コンテ#19

 見せられた企画書は、『しんせん組参上!』という題名でした。新撰組の子孫が悪と戦う、という内容はともかく、一緒に添えられた美少女と美少年がセーラームーンのような格好で決めポーズを取っているイラストに大きなショックを受けました。
「…ひょっとして耽美系の作品なのか?」
「これはちょっと、違うかも…」
 愕然としている僕に、金さんと対木さんは、これはあくまでも当初の企画であり、現在は杉井ギサブロー監督が整理中である。取りあえず、新撰組の子孫が活躍するという設定だけは生かすものの、全く違う内容の作品にあるであろう、と説明してくれました。更には、局側や文芸の押さえは杉井さんが総監督として立つので、佐藤君は監督としてどんどん暴れてほしい、と。現場に専念できる、というところもさることながら、『ご近所探偵もの』にしたい、という杉井さんの構想を知らされて、ホッとすると同時に、かなりやる気になりました。
 しかし、『しんせん組参上!』は僕がスタッフとして入ってくる段階(94年9月)でもまだ、作品としての枠組みが出来ていませんでした。『新撰組の子孫』、『ご近所探偵もの』、『主人公は女の子』などと、断片的なかけ声はかかるものの、一本筋の通った“お話”を考える人が誰もいなかったのです。原作が無い、オリジナルである、しかし制作者には原作権がない…こうした状況でぐいぐい引っ張っていくのは余程の物好きでないと務まりません。
「正義のために戦うんだったら、取りあえず悪の組織を作っとこうよ。名前は新撰組に対して、黒天狗党!」
「アーメンホップみたいな謎の男が欲しいよね。よし、ヒロインの親父が行方不明で謎の男になってることにしよう!」
「親父は秘密の新発見をした科学者だな」
杉井さんのアイディアで何となく序盤の構成は出来上がりましたが、黒天狗党がどうやって主人公達と絡んで、そして戦うのかが全く決まっていません。当然、キャラクターだって決定稿には至らず…放送は95年の4月だというのに!
 杉井さんはこうした文芸の遅れを現場の“ノリ”で乗り切る腹づもりでした。
「今回はシナリオを多少変えてもいいからフィルムとしての勢いを大事にしようよ。話は後から付いてくる感じになるけど、その辺は僕が何とかするから」
この杉井さんの言葉を頼りに、僕は第一話の絵コンテに取りかかりました。(つづく)

NHK出版『放送文化』2001年12月号掲載


読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)