ワタクシ流業界絵コンテ#22

 テンポのいい作品とはどういう作品でしょうか? 軽妙な役者の芝居が楽しめる、小気味のいいカット割り、音楽と映像とがマッチした時間が楽しめる……。いろいろ言い方はありますが、突き詰めれば〝段取り〟を気にせずにその作品を楽しめるのがテンポの良さだと思います。
 とはいえ、所詮映像は作り物ですから、ストーリーを組み立て、一定の約束事で短い(或いは長い)ショットを繋げていかないと成立しません。
 僕の作っているものは〝アニメ〟ですから尚更に約束事が増えていきます。役者は自分で動いてくれますが、アニメキャラは演出家が演技プランを考えた上でアニメーターが作画をし、それを仕上げ作業でセルに起こすと、ようやく撮影用の絵素材が出来上がるという寸法です。それと同時に背景も描かれますし、撮影編集の後はアフレコやダビングという音響作業が待っています。流れ作業が毎日毎週繰り返されてオンエアされて……。
 以前にも書きましたが、日々の綱渡りの中でより合理的な方法が採用されていけば、水準以下の技術しか持たない者でもなんとかフィルムの体裁はつけられるようになります。TVアニメは、未熟熟練が入り混じった大勢の人々によって作られるがゆえに、沢山の〝段取り〟が必要不可欠なのです。
「オヤオヤ、作業上の段取りと表現上の段取りを取り違えているのではナイデスカ?」
 いえいえ。演じることまで技術の一環としているアニメーションにおいては作業と表現は大いに重なります。フィルムのテンポは、その辺りを演出家がどれくらい自覚しているかで決まってくるのです。
「どうしてちゃんとやっているのにトロいフィルムしか出来ないのだろう?」
「やっぱりアニメーターが上手くないからダメなのかな?」
 何せ演出家はやることは多い。脚本読んでコンテを描いて、作画打合わせに原画のチェック、美術打ち合わせに撮影打ち合わせ、編集立ち会いにアフレコダビングに立ち会って、と大活躍です。ましてや最近は無理で遅れがちなスケジュールでの進行なので、演出家はその処理にてんてこ舞い。そのうちに俺がこんなにやっているのにフィルムが悪いのは他の奴が悪いからだと逆恨みを抱くのです。でも、それは違います。
 ちょいと『イサミ』ばなしから離れてしまいましたが、次回はその辺も絡めていってみたいと思います。では——。

NHK出版『放送文化』2002年3月号掲載


読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)