ワタクシ流業界絵コンテ#21

『元気』を形にする——それは主人公の花丘イサミのスパッツと3人組(イサミ、トシ、ソウシ)が乗り回すMTB(マウンテンバイク)が象徴しています。イサミは空手もやるし、活発な女の子です。パターンでいうとここは男勝りのボーイッシュなキャラを配置するところですが、当初の構成では戦うのがイサミのみで、男の子2人はサポートのみの役どころでした。ややもすると彼らは戦闘シーンでは完全な〝見物人〟になってしまいます。ここで思い出されるのが前にやっていた『赤ずきんチャチャ』です。
 チャチャが魔法で変身して敵と戦うとき、BFのリーヤとしいねは完全に背景と化していて、時折インサートカットで「いいぞチャチャ!」「がんばって、チャチャさん!」と声援を送るのみという情けなさでした。その辺りをギャグにしてお茶を濁したりもしていましたが、大好きな女の子が必死に戦っているのにボーッと突っ立っていることしかさせてもらえないなんて、僕はリーヤ達が気の毒でなりませんでした。まして戦闘シーンが終わったと見るや「よくやったぞ、チャチャ」と、とりあえず笑顔で駆け寄る男2人……よくも3人は仲良しだ、なんて言えたもんだよと脚本に毒づいたりしたものです。
 まぁ、TVアニメの戦闘シーンなんてそんなものだと言ってしまうと身も蓋もないのですが、お約束にもせめて、見守る側の辛さ歯がゆさがチラリとでも描けていれば、その思いに応えようと頑張るヒロインや勝利に至るところで得られるカタルシスは大きなものになる筈です。とはいえ、その辺りにこだわりすぎではストーリーが妙に重くなってしまいます。実際、見る側も毎週そう気張ってテレビの前に座っているわけではないので、ある程度のお約束を入れないと安心して見れない、という意見もよく聞きます。所詮は子供向けと言ってしまえばそれまでですが、『飛べ!イサミ』は寧ろその〝お約束〟を逆手にとって進めていきました。僕は、東映の沢島忠監督の一連の明朗時代劇が非常に好きなのですが、イサミ達がドタバタと走り、奮闘する様は、かの群衆時代劇を思い浮かべながら描いていきました。お約束なお話し、お約束な人物配置でありながらスクリーンの中の登場人物達は〝生きて〟いました。躍動感を出すためのカッティングのリズム、会話の繋ぎがそのままシーンの繋ぎへとひた走るように描き上げて……1話のアフレコを終えて杉井総監督は言いました。「早すぎる」と。

NHK出版『放送文化』2002年2月号掲載


読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)