ワタクシ流業界絵コンテ#16

 テンポのいいフィルムにするにはどうすればいいのか、というとまず第一にカット割り、台詞回し、音楽付けの的確さが挙げられます。作画スタッフが必ずしも万全ではないTVアニメの場合、殆どこれが全てではないでしょうか。極端な話、紙芝居でもスピーディーな展開のフィルムは作れます。コラージュの延長としてのエクスペリメンタルアニメーション…海外の短編アニメなどでは、シェークスピアを奇抜なイラストの羅列と早口な台詞の連発で表現してしまう豪快な作品もありますし、やってやれないことはない(注・ギャグアニメに限る)のです。しかし、TVアニメの場合、第一の視聴者はまず、子供であって、わかりやすさ、見やすさがフィルムには要求されます。今でこそアップテンポの早口台詞や互いの台詞が重なり合ったり邪魔し合ったり(台詞が〝カブる〟と俗に言います)というのは、技法として認められていますが、『チャチャ』放映より前の頃は、そんなことやる奴は馬鹿者扱いでした。
「台詞が聞きづらくなる」
「役者が演技しづらい」
というのが主な理由ですが、技術的にも当時はまだ、音響作業は磁気テープによって行われていたので、ノイズを除去したり、絵と台詞を合わせるための調整をするためには台詞が各キャラクターごとに別々に収録されている必要もありました。それにギャグアニメの場合、役者の声も時には、〝素材扱い〟になりますから、役者の演技プランと演出側の演技プランが真っ向対立する、なんてことも当然あります。新しいことをやるには対立や抵抗はつきものですが、〝専門家〟相手に「その方が面白いんだから」と子供のようなことを言うしかないのは、はなから負け戦に赴くようなものです。かくして僕は絵コンテや原画のチェックに奮闘して、できるだけ武装してアフレコに臨みました。色々ケチをつけられようものならば、ああ言ってこう言ってこう立ち回って、と音響監督やスポンサーに対してのシミュレーションも練りに練り…結構気張って行きました。
 当時、『チャチャ』のアフレコは原宿のスタジオにて行われていました。メインキャストの中にスマップの香取慎吾君がいたためか、朝からの収録なのに、出待ちの女子高生が大勢たむろしています。スタジオは専門学校の実習教室も兼ねていたので、音響ブースと収録ブース、聴講用の教室が並んだ変わったレイアウトが印象的でした。
「佐藤さんのコンテ、面白いですね。面白いからまんまやりましょう」
会うなり音響監督の田中一也さんはニッコリと笑ってこう言いました。
意外な言葉に嬉しくもあったのですが、〝まんま〟やることはかなり大変なのです。第一、時間がかかります。
「本当なのか、ホントにいいのか?」
かくして3話のアフレコは、朝の9時から開始して、終わったのが夜の7時頃でした。

NHK出版『放送文化』2001年7月号掲載


読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)