ワタクシ流業界絵コンテ#26

 ノンコさん、とは日髙のり子さん。『タッチ』の南ちゃんを演じた声優さん、といえばご存知の方も多いのではないでしょうか。『イサミ』では、雪見ソウシを演じてくれていました。小学生ながら女に目が無く、素敵な女性を見かける度に口説いてまわる、と文字で書けば節操が無さそうですが、美少年なキャラデザインと爽やかな日髙さんの声のおかげで、女性ファンが多かったキャラクターです。彼はイサミ、トシと共にしんせん組を結成し……というわけで非常に重要なレギュラーキャラなわけなのですが、そんなソウシが産休!(いや、実際には日髙さんが産休なのですが……)「いやー、スケジュール通りなら収録が全部終わって安心して産休な筈だっただろうけどねえ——」とは音響監督の藤山さん。
 いやまぁ確かにその通り。全てはスケジュールが遅れてしまったがゆえの事態なので、どちらかというと責められるのはこちらの方です。幸か不幸か、収録もあと数本でしたのでしのぐことは可能だったのですが、問題はシナリオがまだ上がっていないために先行して日髙さんの分だけ抜いて録る、ということが出来ない、ということでした。まさかラスト数話、いきなりソウシがいなくなるなんて展開は無茶すぎて出来るわけがありません。相談の結果——
「こうなったら竜っちゃん、(セリフを)でっち上げるしかないよ」
 という金プロデューサーの提案を受け、この先ソウシが言いそうなセリフを思いつくだけ挙げて、それをあらかじめ日髙さんに演じてもらうことになりました。大変は大変でしたが、シリーズを通して俺は何を描くのだ、ということをあらためて考えさせてくれる良いきっかけになりました。
 一話一話の完成度も重要ですが、シリーズを通して描くものがなければ視聴者の心に届く作品は作れない……『飛べ!イサミ』にはそれがあったと思います。それは少年少女の一瞬のきらめきであったり、ワクワクする気持ちであったり。放映時はあまり話題にならなかった『イサミ』ですが、むしろ最近「あれ見てました」とか「好きでした」という告白(笑)をよく聞きます。
 かくしてシリーズは無事大団円。そんなドタバタがあったとは思えない群衆劇で幕、となりました。ちなみに日髙さんですが、収録後まもなく元気な男の子を出産されました。
「佐藤さんの作品は安産アニメね」
 という言葉をいただきましたが、僕にとっては最高最上の褒め言葉です。

NHK出版『放送文化』2002年8月号掲載


読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)