ワタクシ流業界絵コンテ#17

 通常、アニメのアフレコは30分番組の場合、2時間位かかります。フィルムが未完成で原画や動画を撮影した「線撮り」素材を使用した場合でも4時間程度でしょうか。それに対して、『赤ずきんチャチャ』のアフレコは当初、8時間以上かかりました。芝居は生ものなので、時間をかければ良くなるのかというと、一概には言えません。テスト一回で即本番がベスト、と言う音響監督の方もいるくらいです。役者が考えすぎて、変な方向へ芝居が行ってしまったり、粘ったあげくに声がつぶれてしまって台無しになってしまったりということもままあるので、それはその通りだと思います。但しそれは通常の作品の場合であって、チャチャはちょっと事情が違いました。まず第一に、台詞の量が尋常でありません。画面外でも誰かが延々と会話を続けていたり、果ては歌を歌い出したりと、アフレコ台本の厚さも通常の倍はあった筈です。おまけに、その台詞の演技プランも色々な種類を駆使していたために役者の負担も大きなものでした。いわゆる型にはまったアニメ芝居ではなく、例えば収まらない筈の台詞間に無理矢理にしゃべらせて独特の会話のリズムを出してみたり…通常のアニメに慣れている中堅以上の役者さんにとってはかなり酷な現場だったと思います。事実、ゲストで出演した方の中には、「自分に芝居をさせてもらえない」と不満たらたらの方もいたようです。しかし、『チャチャ』のキャストの大半は、養成所から出たばかりの新人君(鈴木真仁さん、並木のり子さん)とか、アニメは殆ど初めての顔出しの方(赤土`眞弓さん、桜井智さん、香取慎吾君)とか、みんな〝声優〟の仕事に染まっていません。彼らにとっては『チャチャ』が初めての(アニメの)現場です。ですから、多少のためらいはあるにしろ、何の疑いもなく、こちらの無茶な要求に立ち向かってくれました。
『チャチャ』は役者にシロウトを使って安く上げている、と言い掛かりをつける人もいましたが、僕は「まぁ、フィルムを見てみてよ」と答えていました。予算枠や各社の関係など、僕ら現場には伺いしれない何かがあってのキャスティング、現場の体勢であったとは思うのですが、むしろそれをプラスに転化していったスタッフは、この作品を誇りにして良いと思います。事実、『チャチャ』はアニメファンのみならず、子供たちにも評判が良く、視聴率も15パーセントを越えました。
 放映も半年を過ぎ、いろいろとノウハウらしきものも出来てきます。音響スタッフも作画スタッフも手応えを感じているのがわかります。「さあ、これからはもっとギャグを突き詰めて行こう!」と盛り上がっていた矢先、亜細亜堂のプロデューサー氏にある時呼び出されました。
「何でしょうか?」
「あのさぁ、監督やらない?」
 正に唐突な展開でした。

NHK出版『放送文化』2001年8月号掲載


読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)