ワタクシ流業界絵コンテ#20

 さて、『飛べ!イサミ』第1話。絵コンテに入ったのはいいのですが、これがなかなか進みません。主人公たちの周辺が舞台、といういわゆる「ご近所もの」であるのにもかかわらず、世界規模の悪の組織というものが蠢いていて、と冒険活劇あり、学園生活ありのバラエティ豊かなイメージなのですが、それをどうやって進めていくかに関してはお手上げ状態でした。実際進めている5話あたりまでの展開はほとんどお茶を濁しているといっていいような状態で、イサミ達しんせん組と黒天狗党との接点をどこに持つかは未だ決まっていませんでした。
「それじゃ黒天狗党はナシにしよう」
「いや、それじゃ1年50本もホンが書けないと思いますが」
 最初から悪の組織と戦闘力のない少年少女が対決するのはおかしい、それは確かなのですが、近所の泥棒や痴漢を相手にするのはややもすると生々しくてイヤだという意見もあり、黒天狗党の目的を決めるために特別合宿も組まれたほどです。結論はというと「目的は世界を征服すること」(笑)。
 総監督の杉井さんからは〝勢い〟のあるフィルムにしよう!とは言われましたが、キャラがとにかく早口でまくし立てるやり方や細かいカット割りでテンポアップを図るやり方は、今回は使わないように考えていたのでいきなり煮詰まりました。ギャグもの、と割り切ってしまえば良かったのかもしれませんが、「スタンド・バイ・ミーにしたい」という杉井さんの方向性も生かしたかったので、どうしたものかと思い悩みました。僕のコンテが遅いので、杉井さんは「あいつ、使えないかも」と思っていたようです。結局、僕は開き直って次のように考えました。

 あるべき描写は絶対省かない。いらない段取りはとことん省く——

 文字にすると簡単なことですが、実際やるのは難儀なものです。演出家の中には、「脚本がタルいから、内容を変えて絵コンテを描いてやったよ」と自慢げに語る人がいますが、実際は重要なエピソードを無神経に改ざんしていたり、キャラクターの心理描写を省略してストーリーそのものをつまらなくしてしまう場合がよくあるのです。絶対描かなければならないその作品のポリシーとも言うべきもの——今回、それはイサミを始めとした子供達の「元気」でした。

NHK出版『放送文化』2002年1月号掲載


読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)