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観光DXってなに?

コロナ禍でデジタル化に拍車がかかっている。リモート会議は当たり前となり、フードデリバリーも普及している。この様なデジタル化の動きの中で、観光業にはとりわけ大きなポテンシャルがあるようだ。

外務省勤務時代に、100カ国以上もの国を訪れ、仕事をしてきた経験を持つ、ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタント 高橋政司が、今話題のインバウンド用語をピックアップし、世界目線で詳しく、やさしく解説する本連載。

第22回では『観光DX(Digital Transformation of Tourism)』について取りあげる。


ーー「観光DX」と聞くと、観光におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)(注1)であることはなんとなく想像がつくのですが、なぜ今、観光DXなのでしょうか

観光業にDXを適用することによって地域の経済を活性化させ、基盤を強化させることが狙いです。DXの本質は情報活用の妙です。なので観光DXではデータベースをどれだけシームレスに繋いでいけるのか、がカギとなります。

例えばインバウンドであれば、訪日外国人の国籍や職業、家族構成、滞在期間、目的といったさまざまな情報を官公庁や民間企業が収集し分析します。そこで得た知見を飲食店や博物館のような文化施設の活性化に役立てていくのです。それはつまり、データから社会のニーズを炙り出し、新たなサービスやビジネスモデルを生み出すことです」

(注1)
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること
「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」経済産業省

ーーどのような効果をもたらすのでしょうか

「これまで観光業の恩恵を受けていたのは旅行代理店や宿泊施設、飲食などもっぱら観光業に携わる人たちでした。しかし、観光DXの導入によって『社会的課題解決』という形で地域住民や行政に対しても恩恵がもたらされます

例えば、京都や白川郷といった観光地はオーバーツーリズムに悩まされてきました。DXが導入されれば、カメラやセンサー、またはGPSなどの位置情報などによって、観光地の混み具合をリアルタイムで計測することもできます。そうすれば観光客はより分散され、コロナ禍においても密を避けることができ、有効です。もちろん地域住民の生活も阻害されずに済みます」

ーー今年9月に発足が予定されているデジタル庁の動きとも関わって来るのでしょうか

「そうですね。これまでDXは各省庁がそれぞれ個別に進めていたのですが、そこに横串を刺し、政府一体となってDXを進めて行くために設立されるのがデジタル庁です」

ーー「DXの本質は情報の活用」とのことですが、情報の透明性が増す以上、国民と政府の間に信頼関係がないと成立しない気もします。個人情報を提供することに抵抗がある人も多いかと思いますし、税金の使い道といった政府側の情報の透明性についても気がかりです

「確かに、個人情報の流出や、運営における不透明性といった懸念は、日本に限らず世界でも大きな課題です。観光DXがいかに有益であるかの説明にばかり気を取られ、個人情報がどこまで保護されているかの説明がなおざりになってしまってはいけません。その説明戦略、広報戦略も観光DXにおいては重要なポイントになるはずです」

ーー世界ではどういった事例があるのでしょうか

シンガポールでは観光客にも人気のホーカーセンター(屋台街)のDXが、コロナ禍の影響で一気に進んだようです。シンガポールはテクノロジー分野において世界をリードすべく、『スマート国家』イニシアチブを掲げ、2014年から国を挙げてデジタル化を進めてきました。

ホーカーセンターは事業主が総じて高齢なため、DXの導入が遅れていた様です。そこでパンデミックが起こり、政府は飲食業に対してデジタル支払いやデリバリー、ECシステムの導入への支援を発表したんです。これで一気にDXが進み、ほとんどの屋台でデジタル支払いが可能となりました。

そして、ホーカーセンターは昨年12月、ユネスコ無形文化遺産にも登録されましたよね。これによって観光地として今後さらに賑わっていくことが期待されます。

EUでは2018年にEuropian Capital of Smart Tourismが発足しています。これは観光のスマート化を競うコンテストで、欧州委員会によって実施されています。部門は

●Accessibility(アクセスの良さ)
●Sustainability(サステナビリティ)
●Digitalization(デジタル化)
●Cultural Heritage and Creativity(文化遺産とクリエイティビティ)

の4つです。このDigitalizationはつまりDXでしょう。そして、このコンテストのより大きな目的は先進事例をピックアップし、他の国や地域とアイディアを共有するためのプラットフォームを作ることなんです。

昨年のDigitalization部門における勝者はスロベニアの首都、リュブリャナでした。URBANAという旅行カードさえあれば、観光客は即座にありとあらゆる交通機関へのアクセスが可能になります。バスやシェアサイクルのみならず、ケーブルカーでも使えます。街中でのWi-Fへのアクセスも簡単で、400近くあるポイントで1日1時間までの利用が可能です」

ーー日本もうかうかしていられませんね。日本が観光DXで世界をリードできる可能性もあるのでしょうか

「それはあります。そのためにはDXの技術を磨くのではなく、フィロソフィー(哲学)を変えていく必要があります。どの様な社会を作りたいのかビジョンがないと、DXをやってもうまくいきません。そこが日本は曖昧なんです。例えば、『日本では医療費がタダ』などの、思い切ったビジョンを国として打ち出す必要があります」 

ーー音楽を聞いていても思うのですが、SpotifyなどのストリーミングサービスはAIがユーザーの好みを判別して、聴くべき音楽がレコメンドされます。精度も高く、便利な反面、頭の中を見透かされているような怖さもあります。観光DXについても、全てがお膳立てされているような形になるよりは、逆説的な話ではありますが、デジタルの技術によって、セレンディピティがむしろ増えたり、人との触れ合いや、体を動かしたりといったフィジカルの要素が充実したりといった効果を期待してしまいます

「それはとても大切なポイントです。デジタルによって管理された『予測可能性』は人に安心を与えることができます。しかし、観光DXの本来の目的とはセレンディピティを促進したり、生身でしか感じ取れないアニミズムやスピリチュアルの世界へと人を誘ったり、人との触れ合いを生み出したりすることです。デジタルでは決して感じ取れない体験のきっかけを与えてくれたり、トランスフォーマティブな体験を増幅させてくれるものでなければなりません。

例えば、『次の電車が来るのはいつか』『どのくらい混んでいるのか』『言葉は通じるのか』『医療は受けられるのか』といった旅先での不要な心配事を解消し、より直感的で感情の赴くままに動けるようにしてくれるのが観光DXの理想形なんです」

高橋政司
ORIGINAL Inc. 執行役員 シニアコンサルタント1989年 外務省入省。日本大使館、総領事館において、主に日本を海外に紹介する文化・広報、日系企業支援などを担当。2009年以降、UNESCO業務を担当。「世界文化遺産」「世界自然遺産」「世界無形文化遺産」など様々な遺産の登録に携わる。2018年10月より現職。2019年、観光庁最先端観光コンテンツ インキュベーター事業専属有識者。2020年、宗像環境国際会議 実行委員会アドバイザー、伊勢TOKOWAKA協議会委員。


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