マガジンのカバー画像

"歴史" 系 note まとめ

1,166
運営しているクリエイター

#教育

【ニッポンの世界史】#35 進む「世界史離れ」:文化圏学習・ナチカル・共通一次

 これからいよいよ「ニッポンの世界史」にとってきわめて重要な1980年代に足を踏み入れます。  この10年を通して、世界史にいかなる意味がつけ加わり「世界史必修化」に至るのか。  ”公式” 世界史と ”非公式”世界史の輻輳を追うことで、経緯を浮かび上がらせていきます。 「文化圏」学習の徹底:1978年度指導要領改訂  そのためにまずは "公式" 世界史の動向から確認していきましょう。  1970年度の学習指導要領改訂で導入された「文化圏学習」は、古代文化につづく時代を、

【ニッポンの世界史】#33 地政学化する世界史:キッシンジャー・『悪の論理』・高坂正堯

2010年代の世界史ブーム  連載の第1回で、2010年代以降の世界史の一般書のトレンドに、(1)データベースとしての世界史、(2)文理融合的な世界史、そして(3)世界史のなかの日本史があると書きましたね。  この連載をお読みの方ならば、「おすすめの世界史の本」ということで手にしたことがある人も少なくないのではないかと思いますが、ここでのわたしたちの目的は、これらの書籍の内容をレビューすることにあるのではありません。  2010年代以降の一般向け「世界史ブーム」という状況が

世界史授業の教材研究:手元にあると便利なもの

"まじめ" に教材研究をするにあたって、「こんなものが手元にあると便利」というリストです。 もちろん、一見授業の組み立てとは関係のなさそうな "ふまじめ" なものも含めて、関心を広く払っておくことが大事であるというのが、正直なところではあります(往々にして"ふまじめ" と "まじめ" は、それぞれの極北でピタッとくっつくものです)。歴史を学ぶ「意味」や「たのしさ」は、なるべく多面的にとらえたほうがよいですから。 ともかくこのリストは "まじめ"に、かつ、あんまり格好つけずに

【2024年版】世界史教科書 消えた用語、増えた用語:山川出版社・東京書籍の比較編

これまで山川出版社の『詳説世界史:世界史探究』(ややこしいタイトルだ…)の索引をベースにして、ほかの教科書の索引の比較を試みてきた。 帝国書院の索引と比べる https://note.com/sekaishi/n/neeb8e1b5eae4 山川出版社『新世界史』の索引と比べる https://note.com/sekaishi/n/nf81a976401fb 実教出版の索引と比べる https://note.com/sekaishi/n/ned12e0c4dfbf

【ニッポンの世界史】#32 少女漫画がひろげた世界史の担い手:『ベルサイユのばら』を中心に

 はじめに結論から。  少女漫画『ベルサイユのばら』が、世界史をコンテンツとして楽しむことのできる広汎な読み手を育て、歴史の関わり手を男性だけでなく女性にひろげる役割を果たした。  今回ここで述べるのは、たったそれだけです。 *** 歴史を物語として楽しむカルチャー  歴史を物語として楽しむ行為自体には、口伝えの伝承や軍記物語など、それこそ長い長い歴史があるわけですが、日本ではとりわけ近世以降、商業的な出版や演劇、講談を主要なメディアとして、たとえば『三国志演義』の二

【2024年版】世界史教科書 消えた用語、増えた用語:山川出版社・実教出版の比較編

今回比較するのは、山川出版社『詳説世界史:世界史探究』と、実教出版『世界史探究』の索引です。 実教出版の用語の選び方をみるため、山川にはないが実教の索引にはある用語のうち、気になるものをピックアップしていきます。 実教出版の特徴はウェブサイトによると以下の通り。 あ 愛国啓蒙運動 愛国派  アメリカ独立戦争における愛国派(パトリオット)  アウグスライヒアウスグライヒ(訂正:2024/03/19) アタワルパ  ローラン・ビネ『HHhH』に出てきますね。  実

【世界史教科書比較】山川詳説vs新世界史

ながらく"定番"と目されていた山川出版社の詳説世界史と、のびのびとした ”攻める” 記述で知られる新世界史(採択数は少ない)の記述を、今回は索引の異同に注目して比較します。 参考にしたのは新世界史は見本(2022年検定済)と詳説世界史は2023年刊(2022年検定済)の索引。 「王の道」のように、索引にはないが本文には掲載されているものもあるが、すべてに目を通しているわけではないので、おおよその傾向として参考にしてください。 新世界史の特徴 初めに特徴を箇条書きにしておく

【ニッポンの世界史】#31 学習参考書と世界史:なぜ世界史は「暗記地獄」化したのか?

 これまで私たちは、「ニッポンの世界史」は、アカデミズムや学習指導要領のような“公式”世界史と、それらと対抗関係にある“非公式” 世界史の綱引きによって形成されてきた経緯をみてきました。  “公式”の語りを、“非公式”の語りが突き崩すといっても、両者の間に厚い壁があったわけではありません。  ときに、ひとりの書き手が、両者を行ったり来たりすることもみられました。  歴史学者の土井正興(1924〜1993)がそれにあたります。 土井正興: スパルタクスの研究者から教科書執

【ニッポンの世界史】#30 文化圏の罠:世界史に「アフリカ」は入っているか?

周縁の不在  1970年代の社会科教育に関する雑誌をみてみると、「好きな国」を聞くアンケートをとってみたり、何も見ずに地図を書かせてみたりして、「生徒たちの関心がヨーロッパにばかり向いている」という嘆き節が、よく掲載されています。  この地図くらい描ければ十分とも思えるのですが、たとえば職業系の高校において同じようなことをやらせてみても、全然描けない。  世界史の授業中に顔をあげさせるだけでも難しい。  そういった嘆きも聞かれるようになります。  国外に眼を向ければ、世界

【ニッポンの世界史】#28 それぞれの「近代」批判:吉本隆明・阿部謹也・謝世輝

謝世輝のヨーロッパ中心主義批判  さて、今回は謝の世界史構想の全容に迫っていきます。  謝の構想を一言でいえば、「これまでの世界史はヨーロッパ中心主義的で、まちがっている」ということに尽きます。  たとえば、1974年の時点では次のように主張しています(謝世輝「世界史の構築のために」『歴史教育研究』57、1974、70-71頁)。  箇条書きににしながら、その特徴をあぶりだしてゆくことにします。 1.世界史にとって重要なのはアジア(東洋)だ  文明圏(文化圏)にわけて

【ニッポンの世界史】#26 テクノロジーと精神文化:マクニールの世界史は、何が新しかったのか?

世界は3つの文化圏でできている?  さて、ここで視点をいったん”公式”世界史の動向に戻しましょう。  1970年度の学習指導要領改訂では、前近代には三大文化圏(ヨーロッパ、イスラム、中国)に分けて学習していく文化圏学習が導入されたのでしたね。  しかしこの分け方に対しては当時から批判もありました。 ・ヨーロッパは多数派を占めた宗教の名前から「キリスト教文化圏」といわないのに、なぜイスラム文化圏と呼ぶのか? ・「イスラム文化圏」はアフリカ、中東だけでなく中央アジアやイン

【ニッポンの世界史】#24 世界史にとって、1970年代の「大衆歴史ブーム」とは何か?

1970年代の大衆歴史ブームの担い手は誰か?  まずは前回のふりかえりから。  1970年に高校の学習指導要領が改訂され、世界史A・Bが世界史に一本化されるとともに、「文化圏」学習がはじまったのでした。  改訂された新学習指導要領が実施されたのは1973年からのこと。  これに基づくカリキュラムと教科書により教育を受けることになったのは、1957年より後に生まれた高校生たちです。  1957年生まれは「ポスト団塊世代」ともいわれ、ギリギリ東京五輪の記憶があって、多感な時代

【ニッポンの世界史】#23 「国益」のための世界史へ:なぜイスラム世界は「文化圏」に格上げされたのか?

格上げされた「イスラム世界」  1970年度学習指導要領では「イスラム世界」が、ヨーロッパ文化圏、中国の文化圏とともに、単独で世界の「三大文化圏」のひとつに数えられるようになりました。  この「格上げ」の背景にあるのは、やはり戦後の研究の進展により参照できる情報が増えたということが大きいでしょう。  もともと西洋生まれの「世界史」において、イスラムの扱いは貧弱で、その傾向は、西洋的世界史の影響を強く受けた発足当初の世界史も同様でした。  そこでは、西洋文明が まるで”主

【ニッポンの世界史】#22 「文化圏」学習の導入:1970年度学習指導要領の思惑

1970年代の世界史へ   学生運動の激化と挫折で幕を閉じた1960年代。ここからはさらに歩みを1970年代にすすめ、"公式" 世界史たる学習指導要領の改訂と、それに対する多様な "非公式" 世界史の動きをおさえながら、「ニッポンの世界史」がどのように再定義されていくかを追っていきましょう。 貧困の時代から選抜の時代へ  高度成長は、日本社会を大きく変えました。  1960年に6割を切っていた高校進学率が1970年代に9割を達成。  熾烈をきわめる「受験戦争」勝ち抜き少