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就職活動のオワハラ

「オワハラ」とは

 2024年3月に大学または大学院を卒業する学生の就職活動が現在行われています。本記事は2023年4月に執筆しました。したがって、現在は、広報期間(事実上の選考開始)の3月を過ぎた時期。現在は幾分スケジュールに余裕が出始める時期だと思います。

 さて、就職活動もまだまだ前半戦、という中で興味深い記事がありました。就職活動で聞く「オワハラ」に関する記事です。

 オワハラとは、「企業が採用したい学生に対して、就職活動を終わらせるように迫る行為」です。上記に挙げた記事では、オワハラに該当する行為を3つ例示しています。

  1. 他企業の選考や内定の辞退を強いる

  2. 労働契約を結ぶ「内定」前に書面で入社意思を確認する「内定承諾書」を書かせる

  3. 内定者研修や懇親会を開いて学生を事実上拘束する

 (1)の場合は特に、目に見える「強制」を感じます。私は就職活動中に噂で、内々定を出した企業が学生に「今この場(内々定を出した企業)で他社の選考を辞退する電話をかけろ」と迫ったという話を聞いたことがありました。長らく本当の話かと疑問視していましたが、上記の記事を読んで本当にある話だったのかと大変驚きました。

 また、学生にあえて内定と言わず「合格」という企業もあります。入社の意思を誓わせた上で内定を出す手法を取っているようです。うーん、、、

 (2)の例も知人の話で聞きたことがあります。内定承諾書をよくよく読むと、「貴社への内定を承諾します」という文言があり、労働法上おおよそ感心できない文書をよくもまあ学生に提示するものだと思ったとか。

 ちなみに、労働法上は、内定(内々定)承諾書に判を押した後であっても内定を辞退することは問題ありません。内定(内々定)は、労働契約の成立と同義であるため、期間の定めのない雇用の解約の申入れ(民法627条1項)を用いることができるためです。

 ただし、内定(内々定)辞退は企業の採用計画に多大な影響を及ぼします。もし、採用活動を終了した後に内定を辞退したことで、必要な採用数を下回った場合、企業は採用を再開しなければいけません。この場合、企業が求める人材を採用できない恐れもあります。従って、内定を辞退する必要がある場合には、信義に従い誠実に内定を辞退しなければならないことも付記しておきます。

 (3)の場合は、一見すると(1)や(2)ほどの強制力はないように見えますが、就職活動を終わらせるように強制していることに変わりありません。頻繁に「社員座談会」と謳う懇親会を開催して、学生が選考に比重を置けなくするという事例が考えられるでしょう。

 今回は、なぜ企業は学生にオワハラをするのかについて考えたいと思います。

オワハラが起こる原因

 なぜオワハラが起こってしまうのか。私は以下の理由があるとみています。

1. 売り手市場

 学生にとっては有利な状況ではありますが、企業にとっては売り手市場は大変です。内定を出したい学生が他社に取られてしまう可能性が高いわけですから。

 他社に取られないようにすべく、オワハラが生まれる温床になってしまうのかもしれません。

 そんな焦りが、学生に他社の内定の辞退を強いたり、内定者研修の乱発で学生の動きを封じるような対応になるのでしょう。

 このような拘束は現代に限った話ではありません。例えば、バブル期には内定を出した就活生を「拘束」することがあったようです。半沢直樹シリーズの第1作『オレたちバブル入行組』の中では内定を出すや否や学生を銀行の外に出さない、予算を使い切るまでディズニーランドで遊ばせるといった描写がありました。

 しかし、新卒で入社する企業は今後の社会人人生に多大な影響を及ぼします。学生が冷静に考え、心の底から納得してもらった上で内定承諾書を提出させるような企業が本来あるべき姿なのではないでしょうか。

2.採用活動に多額の費用がかかること

 この点は決して軽視できない点だと思います。

 「就職白書2020」では、新卒採用にかかる費用は1人あたり93.6万円とされています。100人採用すれば1億円近くになりますから、決して安い金額ではありません。

 個別具体的に見ても、就職活動には多額の費用がかかります。

 マイナビやリクナビなどのサイトに採用情報を掲載すると最高で300万円かかります(ここでは、みんなの採用部の情報に依拠しました)。

 また、適性検査(SPIや玉手箱が有名)を実施する場合にも費用が発生します。受験者の数に応じて料金が変わってくるため、数万人が応募するような人気企業では適性検査に費やす費用も侮れません。

 もちろん、エントリーシートの選別も人力ですから採用に関わる社員の人件費も必要です。

 とすると、内定を辞退されてしまうとそれまで費やしてきた費用をドブに捨てることになってしまいます。経済的見地から見ても、やはり辞退をしてほしくないもの。企業が内定辞退を忌避したくなる気持ちはひとまず理解できます。

 しかし、私が内定をいただいた企業はオワハラをしませんでした。むしろ、入社の意思が固まるまで温かく待ってくれる企業でした。新卒採用チーム内では、学生が内定(内々定)を受諾するかどうか焦りはあったかもしれませんが、その焦りを学生に見せずに待ってくれたことには大変感謝しています。

 とすると、オワハラの原因は先に挙げた原因ではなくそれ以前の問題、社風という可能性も浮上します。しかし、買い手市場の時代には学生が内定先に傾れ込みますので、オワハラは起こりづらい状況でしょう。とすると、やはり(1)売り手市場はオワハラの原因の一翼を担っていると言って良いと考えます。 

オワハラは企業自身の首を絞めている

 何度考えても、私はオワハラには反対です。最終的には、企業に優秀な人材が集まらなくなったり、ビジネスがうまくいかなくなるのではないかと考えているからです。

 オワハラは就職活動中で精神的に不安定になっている学生にますます不安を抱かせる、忌々しい行為です。

 確かに企業にとって採用活動は、人材の獲得競争であることは言うまでもありません。焦燥感に駆られることもあるでしょう。しかし、就活生の不安に付け込み選択権を奪っていることに変わりはありません。

 また、就活生が社会人になった後にビジネス上付き合う機会も発生するかもしれません。「元就活生」が主催するコンペに参加する機会があるかもしれません。その時に、「元就活生」が自社に悪印象を持っていたらどうでしょう?就職活動時の対応が裏目に出ていると言っても良いのではないでしょうか。

 就活生に無下な対応をすることで自社の首を絞める可能性があり得ることを、企業はどうか肝に銘じていただきたいと思います。


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