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渡辺剛の現在地 日本代表への可能性

2021年12月にベルギー1部・KVコルトレイクへ旅立った男がいる。
渡辺剛だ。

2019年から2021年までの3シーズンをFC東京で過ごし、森重真人の相棒として最終ラインを支え続けた選手である。
特に、長谷川健太氏に率いられ優勝争いを演じた2019シーズンにおいて、それまで先発出場を重ねていたCBのチャン・ヒョンスがアル・ヒラルに移籍した7月以降、大卒1年目にしてその穴を完璧に埋める活躍を見せた。

その後は、2020シーズンはACLに7試合出場し、ルヴァン杯では決勝で柏のオルンガを封じるなど優勝にも大きく貢献。
在籍したシーズンを通して安定したパフォーマンスを披露し続けてくれた選手だった。

そんなディフェンスラインの頼れるファイターとなった渡辺剛は、2021シーズン終了後の12月に移籍を決意する。
その移籍先はベルギー1部(ジュピラー・プロ・リーグ)のKVコルトレイクであった。

ベルギーリーグと日本

ベルギー1部への日本人の流入は今やポピュラーなものとなっているが、その発端はGK川島永嗣、MF森岡亮太、FW久保裕也の成功にあった。

そして、2017年に日本のDMMがシント・トロイデンの経営権を買い取り、CB冨安健洋、MF遠藤航、FW鎌田大地などを獲得し、それぞれを欧州5大リーグに移籍させていった(※鎌田はレンタルバック)ことと、MF伊東純也の目覚ましい活躍もあり、ベルギーにおける日本人選手の価値・評価・地位が確立された。

「移籍金の安価な日本人を獲得すれば高く売れるかもしれない」というベルギークラブの思惑と、「外国人枠が実質なく、英語が通用して、5大リーグへのアクセスが良い」という選手の狙いが一致したことも大きな要因だろう。
日本国内では欧州のマーケットで注目されない選手も、ベルギーで一定の出場経験を積んで結果を残せば各クラブのスカウトに見てもらえるようになる。

また、現在プレミアリーグで充実の時を過ごす三笘薫は別ルートと言える。
移籍したブライトンではイギリス国内での就労ビザ獲得のハードルが高かったこともあり、提携クラブであるベルギー1部のロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズへ1年間レンタルすることになった。
ここで海外の生活や、リーグの雰囲気・選手のレベルに順応できたことも現在の活躍に大きく寄与していることだろう。

そういった様々な要因が整っていることから、『Jリーグ→ベルギー』の流れは現在まで続いている。
2022シーズン終了後は、共に浦和レッズのMF松尾佑介とSB宮本優太がそれぞれ1部・2部へ移籍した。

ベルギー1部に所属するFC東京出身選手

渡辺剛以外にも、FC東京に縁のある選手がベルギーで活躍している。

  • 坂元達裕(FC東京U-15むさし−前橋育英−東洋大−山形−C大阪)

  • 原大智(イストラ-アラベス-シントトロイデン-アラベス)

渡辺剛の現在地

ベルギー1部の試合映像は、日本国内向けの放映権の一部をDAZNが獲得している。
毎節全試合生放送となっていないが、シント・トロイデンを中心に数試合を放映している模様だ。
そのため、なかなかKVコルトレイクの試合を見ることは出来ない。
同チームに所属するMF田中聡を見たいと思っている湘南サポーターも同様のもどかしさを感じていることだろう。

それでも、この2月は2試合を観戦することが出来た。
一つがシント・トロイデン戦で、一つがズルテ・ワレヘム戦だ。

2月25日現在、シント・トロイデン戦はハイライト視聴、ズルテ・ワレヘム戦は試合全編の視聴が可能となっている。
先発出場の渡辺剛と、60分から途中出場した原大智が同じピッチに立っている姿には胸が熱くなった。

また、ズルテ・ワレヘム戦の前半5分には非常に落ち着いた対応を見せている。是非チェックして欲しい。

2021年12月から2023年2月まで、在籍してから1年と少しが経過した。
下位に沈むチームにおいて、監督交代などポジション争いが流動的な状況にあるものの、今シーズンは多くの出場機会を得ている。
本職がCBの選手であるにも関わらず、ボランチを任されることもあった。

元湘南の田中聡と共にダブルボランチとして中盤の底を支える姿は、JリーグでFC東京に在籍している時は想像が出来なかったことだ。
それだけ渡辺剛自身が監督に信頼されているという証明であるだろうし、日本人選手が器用だと思われている象徴的なエピソードでもあるだろう。

肝心の試合でのプレー内容と言うと、彼の奮闘っぷりがよく伝わるスタッツを発見した。

空中戦勝利数ではリーグ第3位にコルトレイクDF渡辺剛(87回)、第1位にはシント・トロイデンDF橋岡大樹(95回)がランクインしている。【中略】FC東京から2021年冬にコルトレイクへ向かった渡辺は、空中戦の成績に加えてシュートブロック数がリーグ第1位となる24回を記録している。もっとも、これは所属するコルトレイクが14位と下位に沈んでいることも関係しており、それだけチームが多くのシュートを許している証でもある。

https://www.theworldmagazine.jp/20230223/05feature/375598

CBにおいて空中戦勝利数は大きな指標だろう。
昨今はブンデスリーガの最多デュエル勝利数を誇るシュトゥットガルトの遠藤航が話題となっているが、目に見える数字として現れるスタッツのランキングは、その評価の軸となる。

また、シュートブロックの本数は特筆するべき結果だ。
攻撃では個人の仕掛けが主体となっているベルギーリーグにおいて、各国から集った意欲的な選手たちがゴールを目指してくる。
アピールの指標として最も目立つ『ゴール数』を貪欲に欲している選手は多いだろう。その程度は、おそらくだがJリーグよりも遥かに大きいように思う。
荒削りだが可能性に溢れたフォワードが多く、その誰もが成り上がりを狙う。たくさんのシュートを浴びせられるそんな状況で、誰よりも多くのシュートブロックを果たしたことは、守備の選手としてこの上ない実績だろう。

移籍先はどこに。本人の希望は…

欧州のシーズン終了は6月頃。
このまま怪我なくコンスタントに出場し続ければ、1年と半年を欧州リーグで戦い抜いたことになる。

こうした出場実績に基づくプレータイムと、実際に残したスタッツ、そして試合でのプレーなどがどのように評価されるのか。
ドイツやセリエAなど欧州5大リーグから声がかかるのか。

現時点のKVコルトレイクは14位で、降格圏までポイントが4しか差がない。
現実的な目標はチームを残留に導くことであるし、それが下位に苦しむチームの守備の要として評価されるポイントでもある。

残留を果たせるか、それとも降格の憂き目に合うかはこれからの奮闘次第だが、いずれにしても来季のKVコルトレイクが欧州のコンペティションに進出できる可能性は極めて少ない。
そうした状況で、サッカー選手個人が目指すものはやはり移籍である。

渡辺は将来について「コルトレイクを離れることになれば、ドイツの上位チームでプレーしたいです。ドイツのフットボールは僕にとってパーフェクトなものです」と語った。

https://www.dazn.com/ja-JP/news/first-division-a/20230124-jupiler-kortrijk-tsuyoshi-watanabe/1ryb5fiito03l1hkxa6qyt0jos

渡辺剛は2月5日に26歳の誕生日を迎えた。
CBの選手として、これまでの経験から円熟味を増してピークを迎える時期だ。

本人の希望するブンデスリーガへのステップアップに向けて「満を持して」といったところだろう。
現在残している結果と、ベルギーで海外環境に順応している様子、そしてチームでのプレーっぷりから、ここまでの海外挑戦で一定の成功を収めているように思える。

FC東京から羽ばたいていった選手で欧州5大リーグに定着できた選手は少ない。
今シーズンに限れば、リーガ・エスパニョーラのレアル・ソシエダ=ラ・レアルで充実の時を過ごしている久保建英のみに留まる。

過去の話をすると、多くのサッカーファンが周知の通り長友佑都はセリエAのインテルやリーグ・アンのマルセイユで定位置を確保し長年活躍していた。
更に、武藤嘉紀はブンデスリーガのマインツで一定の結果を残しプレミアリーグのニューキャッスルへ移籍したが、そこで活躍することは出来なかった。
それ以降、FC東京出身者がなかなか続くことは出来ていないのが現状だ。

もちろん、5大リーグを除けばそれぞれの選手が奮闘している。
SBの室屋成はドイツ2部のハノーファーで定位置を確保。長期契約にサインしているし、ロシア1部のロストフや神戸を経由してリーガ2部のウエスカに所属する橋本拳人も試合に出続けている。
先述の原大智はリーガ2部のアラベスからベルギー1部のシント・トロイデンに再加入したばかりだ。
中島翔哉はポルトまでステップアップしたが、それ以降は中東へ移籍した後にポルトガルへ戻り、今度はトルコ1部のアンタルヤスポルに行くなど迷走しているが、それはそれで彼らしいとも言える。

他にも、現在はレンタル移籍で田川亨介小川諒也がポルトガル1部へ挑戦している。
田川は2年目のサンタクララでレギュラーポジションを確保できているものの、1得点に終わっている。チームは降格圏に沈んでおりFWとして難しい状況にある。
小川はシーズン開幕当初は出場機会を得ていたものの、早々に監督が解任されたこともあり、それ以降は試合に絡めていない。

2019年のJ1リーグタイトルにおいて優勝争いをしたFC東京からは、当時のレギュラーポジションを担っていた選手たちが大勢羽ばたいていった。
久保、室屋、橋本、小川など本当に多くの選手が海外挑戦をしているが、その中でも久保に続いて5大リーグで活躍できそうな実績を残しているのが、この渡辺剛である。

日本代表の躍進が記憶に新しいカタールW杯では、FC東京に縁のある権田修一、久保建英、長友佑都が夢を見せてくれた。
韓国代表のナ・サンホやキム・ヨングンも同じくだ。

次は、欧州の舞台で活躍する姿が見たい。
久保建英のCL出場は十分に可能性があるので、それに続く選手の登場を期待する。そこに最も近い存在が渡辺であるはずだ。

次の移籍期間でELに出場するチームから声がかかれば十分すぎるほどのステップアップだと言える。
吉田麻也、冨安健洋、板倉滉、伊藤洋輝に続いて欧州5大リーグで定位置を獲得できるCBとなれるか。
攻撃的なポジションと比べて日本人がなかなか定着できないポジションということもあり、否応なしに期待が高まっていく。

これまで代表キャップ「1」

あまり代表に縁がない選手だ。
日本代表でのキャップは、2019年のE1東アジア選手権で香港戦に出場した1試合のみ。
FC東京が2位でシーズンを終えた直後に、橋本拳人や田川亨介らと共に選出されている。

これは自身が愛するチームを毎週末に追いかけ続けていることが原因かもしれないが、個人的には必ずしも日本代表に呼ばれることが全てではないと考えている。
4年に1度のタイミングでピークが合う選手は稀だし、それよりも安定してクラブに貢献し続けている選手へ尊敬の念を強く抱く。
それでも、長友のモチベーションをあそこまで支えるW杯というものの魅力は間違いないものだし、選手にとっては何よりの目標であることだろう。
そして、W杯のメンバーには選ばれずとも、どこかで日本代表に選ばれて国を背負ってピッチに立つことはサッカー選手のゴールの一つかもしれない。

果たして、これからの渡辺剛は日本代表へどんな関わり方をしていくのだろうか。
監督が呼びたいと思える選手になれるのか。それとも、監督が無視できないほどに実績を重ねていくことが出来るだろうか。
ブンデスリーガに移籍してレギュラーポジションを奪取すれば、伊藤洋輝や板倉滉と同じルートを辿ることとなるかもしれない。

2023年8月に35歳を迎える吉田麻也は、流石に3年後の北中米W杯に(新天地のドイツで順応した姿を見ると選ばれてても驚きはないが…)流石に選ばれないかもしれない。

2月に26歳を迎えたばかりの渡辺剛は、2026年6月時点で29歳となる。
もしドイツで3シーズンを過ごし経験を積むことができたら。
安定感のあるファイターとしてロングボールを跳ね返し続け、吉田に代わる日本代表のディフェンスリーダーとなれるか。

先述のスタッツにも現れているが、Jリーグでオルンガにも負けなかった「エアバトラー」としての特徴はベルギー1部で磨きがかかっている。

渡辺剛の到達点がどこにあるのか。
これからの数年間、欧州のフットボールリーグを見る際のポイントとして注目し続けたい。







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