時代劇レヴュー・番外編③:大唐帝国のドラマ(1)則天武后(1994年)

私自身は中国史では唐王朝が一番好き、と言うわけでは決してないのだが、これまで見た中国歴史ドラマの中では唐を舞台にした作品が図抜けて多い。

カテゴリーの中にいくつも小カテゴリーを作る形にはなるが、せっかくなので唐を舞台にしたドラマを年代順に紹介してみよう。

まず最初は、1994年に中国で放送されたテレビドラマ「則天武后」(原題は「武則天」)。

この作品、日本ではもう二十年以上前に、NHKのBSで吹き替え版がこっそり放送されていた。

タイトルの通り中国史上唯一の女帝である則天武后の生涯を描いた作品で、全話数は三十三話と、中国のこの手のドラマとしては比較的短い話数である(中国のドラマは日本と違って週二回放送が一般的であるため、日本で言う大河ドラマ的な長編は五十話や六十話くらいが平均的で、中には百話に迫るものもある)。

物語は、則天武后が太宗の寵愛を受けるあたりから始まり、武后の死までをじっくりと描いているが、皇帝に即位するまでの話が中心であり、それ以降ははやや展開が駆け足になる。

有名なエピソードはほぼ網羅しているが、所々で出来事の時系列がおかしい部分や、李昭徳が処刑されるべき所で魏元忠が処刑されるなど、史実と異なる箇所もある。

が、作品自体は良質で、政治家としての則天武后の姿を見事に描ききっていると言えよう。

基本的には武后は冷徹な政治家として描かれるが、激しい権力闘争の中で、やむなく己の夫や息子達とも戦わねばならなかったことに心を悩まし葛藤するシーンもあり、主人公であるので当然ながら、ストーリー全体としては武后に同情的である。

武后嫌いの人からすれば白々しい展開かも知れないが、基本的には『資治通鑑』や『旧唐書』『新唐書』などの史料に明確に記されていること以外で、武后が政敵に対して残忍な振る舞いをするようなシーンはなく(例えば、長男・李弘の死については、毒殺説ではなく急な病死説を採用していた)、その面ではフェアであるように思う。

史実云々は別にしても、本作の最大の見所は、何と言っても武后役の劉暁慶の迫力あふれる芝居である(ちなみに、吹替版では小山茉美が武后役であった)。

彼女自身、画面映えする派手な顔立ちの美女であるから、まさにこれ以上ないはまり役と言って良く、当時四十四歳の彼女が十代から七十代までの武后を演じていたのであるが、どの年代でもそこまで違和感を感じさせなかったのは、やはり役にはまっていたことの証左であろう。

個人的に好きだったのは、武后の側近・上官婉児を演じた茹萍で、知的美人の茹萍ゆえにこれまたはまっていた。

太平公主(武后の長女)役の梁麗も、そこまで美人ではないが(失礼)妙に妖艶で、わがままな姫君を好演していた。

多少史実と異なる所に目をつぶれば、歴史ドラマとしてはなかなかの出来栄えであるし、何よりも則天武后の生涯を知るための映像作品としては最適と言える。

なお、古いものであるが日本向けに字幕版のDVDボックスがリリースされており、現在も中古などで比較的安く入手出来る(反面、古い作品であるためか、レンタル店ではあまり見かけたことがない)。


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