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生きてるだけで



2023.6.9 金

 大雨。昨日遅かったので起きたら九時半。パートナーの両親がふらっとあそびにきたので仕事を中断して腰越の魚料理屋へ。三人はしらす丼と天ぷらのセット。私はかんぱちの焼いたの。脂がすごかった。午後も仕事。


2023.6.10 土

 一日中物件検索。物件検索はつらい。引っ越したくない。でも固定費をさげたほうがいいよねとパートナーと話している。今の家の更新が来月。湿気にも体がやられている。服が暑い。なぜこんなものが肌にまとわりいているのだろう。そんなことを考え始めるとなにも手につかなくなる。夕方、散歩でかたつむりを見つけた。


2023.6.11 日

 庭のあじさいがうすピンクから紫色に変わった。横浜妙蓮寺の生活綴方さんへ。安達茉莉子さんがお忙しいなかきてくださり、三輪舎の中岡さんや岩手で暮らすはんこ作家のあまのさくやさんをご紹介してくださった。しとしと雨が降ってくる。すぐ近くの公園の緑を眺められるカフェに移動し、安達さんとお茶をした。
 
 安達さんのやわらかな物言いのなかにふと顔をのぞかせるユーモアが素敵だ。それから、安達さんの書く文は森みたい。たくさんの木があって、四方にそっと枝を伸ばしていて、その間から陽が射したり雨が落ちたり、こんな岩陰に小さな花が咲いてたとかあんなところに鳥の巣あったとか、地面のしたにも根っこや菌のネットワークがあって、ゆたかにぶくぶくと、ささやかにひそひそと、それぞれが呼吸しているようで。みえないでいたものが霧のむこうにみえてくるような、こんなにあったんだ、って、そういうところが森みたい。

 歩いて横浜までむかおうとするも雨が本降りになってきた。白楽から東横線にのる。ボンラスパイユから全品一割引のハガキが来ていたので横浜店に寄り、ジャンボしいたけや紫キャベツ、納豆を買う。いつものヴィーガン&グルテンフリーラーメンの店でアボカドの入った新メニューを試す。雨の日はあまりたべものの味がしない。たべなくてもいいということだろう。



2023.6.12 月

 朝リスを二匹見た。一生懸命なにかを齧っている姿が可愛い。天気がぱっと晴れないのでさみしい。クラシック音楽をランダムにかけながら仕事。チャイコフスキーの「String Quartet No. 1, Op. 11: II. Andante Cantabile」が聞こえてきてなつかしくなった。なぜなつかしいのかわからない。でも強烈になつかしい。こんなに細かにじぶんの心を隅々まで言語化してくれているような曲があるものだ、と思う。夜なめくじを見た。


2023.6.13 火

 梅雨の晴れ間。雨あがりの森は思っているよりぬかるむので慎重に歩く。緑内障の定期検診。コンタクトの処方箋も出してもらう。のどのつまり感がやはり気になるので耳鼻科へ。皮膚科も一緒になっているところなのでそちらにも。最近じんましんが多いと話したらやはり抗アレルギー剤やステロイドの名前がでたが、保湿剤だけもらった。耳鼻科でも対処療法の薬があるにはあるといわれたが、鍼灸の先生にもおすすめしてもらった半夏厚朴湯を処方してもらう。過去の経験から西洋医学の薬に対しての恐怖心が抜けていないな、と思う。

2023.6.15 木

 リスがガリガリ梅の実を齧っていた。人間はそうできないのにすごい。人間にとって生の梅の実は毒があるらしい。ちょっとした崖になっている空き地に小さなバナナの木のようなものがあって、親指ほどのちいさなバナナがひと房なっていた。そのうしろから覆いかぶさるように山椒らしき木が生えているのに気づく。

 おとといから夜な夜な家じゅうを整理していてすこし寝不足。引越しのときにすこしでも荷物を少なくしたいからだが、面倒なことも早め早めに取り組みだせば集中できる。いつのまにかもう自分には必要のないものが沢山たまっている。台所、玄関周り、リビングの棚の中、洗面所周りはもう済んだ。あとは倉庫と二階。



2023.6.23 金

 食べることが好きだ。おなじような毎日のなかで食べ物を買うときが今いちばんたのしい。今日は自然食品店で値段を気にしながらも好きなものを買った。ごま豆腐、生ゆば、昆布とちりめんのふりかけ。海鮮のねりもの。米粉のドーナツに抹茶大福。お惣菜のイカのしんじょう。鶏肉も食べたくてひさしぶりに買った。塩と醤油で蒸し焼きにして食べた。甘いものを控えているが、昨日もドーナツを買い久々にスイーツを口にして思った。人生に甘いものは必要だと。これをがまんしつづけることが健康だとは思えない。

 しばらく曇り予報がつづく。晴れた空が恋しい。鍼灸院でのどのことを話したら、それはまちがいなくストレスの発散がうまくできないことなどが原因の咽喉頭異常感症だと、耳鼻科の先生とおなじことを言われた。漢方の世界では梅の種が喉につかえているような感じで飲み込むことも、出すこともできないことを「梅核気(ばいかくき)」と呼ぶんだそう。漢方や中医学の世界の、たとえば梅もだけど身近な生活のものにたとえて名前をつけるの、素敵だなって思う。

2023.6.24 土

 昨夜よなよなパートナーと今後の人生について真剣な話をした。声もかすれてきて途中で眠くなって力尽きたけど話ができたことはよかった。前から気になっていたことで、私の尊敬するところはあるのか?あればどこか?と聞いてみたら、しばらく考えてから「自分の価値観をもっていること」「いやなことはやらないこと」「健康に気を遣っていること」「いつも怒ってるけどたまに笑うと笑顔がいいこと」と言った。あとで「いやなことはやらないこと」は尊敬とはちがうな、と言った。私がパートナーの尊敬するところをあげるなら「ものごとや情報の整理ができる」「なにごとも石橋を叩いて割る」「仕事が丁寧で追求心がある」「親の力になろうとしている」。

 ある友人が「ここ十年は仕事に振り切って生きてきた。めぐちゃんみたいに生活や料理を大事にすることがすごい」と言った。私からしたら、覚悟して仕事に振り切って生きてこられた友人がすごい。そうはできなかったしするつもりも毛頭なかった私は老後二千万問題どころかこの歳でさえひと月先もじぶんがどうしているのか、生活の担保があるのかわからない。そんな身なのに、今こうして生きていることがすごい。ほんとうに、生きているだけですごい。




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