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関根裕治
2019年1月8日 22:09
冬の午後カフェテラスできみは悩みを打ち明けるひとみに涙を浮かべながらためいきをついてそのためいきをぼくはとっさにつかまえる両手の中にとじこめて街の冷気と混ざらぬようにこんなにずしりと重い吐息そのちいさな体のどこにためこんでいたのいまこの手の中すきとおるかなしみの塊がじんじんとうなりをあげているぼくは両の手に力をこめ祈るように指を組みあわせ
2018年11月4日 13:11
きみがよろこんでいるとぼくもよろこびたくなるともに手をとりあってほんとうによかったねえときみがたのしんでいるとぼくもたのしみたくなるともに手をたたきあってえがおではしゃぎながらきみがおこっているとぼくもおこりたくなるともに手をふりあげてちからをあわせたたかおうでもきみがかなしんでいるとぼくはわからなくなるともにかなしんでしまったらふさぎこ
2018年9月30日 18:08
神楽坂にほど近い雑居ビル五階に住む祖母は骨ばった体を煎餅布団に横たえワカルとワカラナイの水際にいた婆チャン 耳元で語りかけても天井を見つめたまま応えない奥の台所からは 介護のひとの薬缶に火をかける音がするエレベエタアのない痩せたビルを日々階段で昇り降りしていた明治の女(ひと)のたくましさも今は少女の可憐さに帰っている俺ダヨ ワカル? ちぢこまった
2018年9月23日 13:20
P.1 あい【愛】 生まれたときには無色だがのちに対象・強度・時間等によりうすもも色からくれない色にかけて無段階で変色する濃度は脈拍に比例するセイシェル島のスコールのように突如として降りつけることもあれば柚子の実のように長年かかって育まれることもあり発生の過程・要因については未だ不明惜しみなく奪ふという意見がある一方惜しみなく与ふという反論もあり
2018年9月15日 18:31
だれかが冗談を言うそこにいるぼく以外のみんなが笑うほんとうに面白くて笑ってる人も合わせて笑ってるだけの人もいるだろうけどぼく以外のみんなが笑うぼくだけが笑わないぼくはほんとうに面白いときにしか笑えないにんげんが未熟すぎて合わせて笑うこともできないそれこそがこの集団にぼくだけ溶け込めずにいる理由なのだろう悪いひとたちではない嫌いなひとたちでもない
2018年9月9日 15:03
寝静まる宿を抜け出して星のない空の下あなたとふたり冬の岸辺を歩く真夜中でも波は眠ることなくよせてはかえしているプランクトンの死骸の匂いが鼻先をかすめる昼間啼いていた海鳥たちはどこへ消えたのだろう彼らには彼らなりの帰るべき宿があるのだろうかぼくらは岩場に腰かけくりかえす波音を聴いたあなたの石鹸の香りがかわいた汐風に溶け闇へと吸い込まれて
2018年9月2日 19:43
わたしの想いは苦すぎてやさしいあなたには強すぎるでしょうからオブラートにくるんでお渡ししますあなたへの想いは粉々でため息ひとつでも散らばってしまうのでオブラートにつつんでお渡ししますコップ一杯のぬるま湯とともにどうぞそのままお飲みくださいあなたの中でゆっくりと薄い膜が溶けだして少しずつでもこの想いが伝わりますように
2018年8月26日 16:37
ビートルズは思った「黄色い声援をあげるばかりでだれも音楽を聴いてくれない」やがて彼らはライブ活動をやめてしまったサッカーボールは思った「暴動やら応援歌やらでだれも僕の回転に興味などない」来世は静かなる地のテニスボールに生まれたいと神さまは思った「お祭りさわぎに興じるばかりでだれが豊作など祈っていよう」その年 雨不足の飢饉がおとずれた桜の木
2018年8月19日 18:16
割れてしまったら中身がこぼれ出し息絶えてしまいそうな卵だったから壊さないように握りつぶさないようにぼくらはそっと掌にのせた孵ってしまったら中身が羽を広げ飛び去ってしまいそうな恋だったから温めないように温まらないようにぼくらは寒空の下を歩いたそれなのにどうしようもなくぼくはあなたをもとめた出会ったときからさよならを孕んでいたのに
2018年8月12日 19:59
古ぼけた鳥かごの中でぼくらはひしめきあう仲間にしか通じない声でこそこそさえずりあいアラ 上品ナ歌ダコト(オ世辞)アナタコソ素敵ナ歌ネ(オ返シ)なんて褒めあいながらご主人さまの手に乗ってぼくらは身をよせあうここにはヒエラルキーがあり先輩より大きな声でうたうことは許されない上手に飼いならされるための暗黙のルールあゝ つまらないこの狭い檻を抜け
2018年8月5日 17:53
悲しい打ち明け話を聞いた帰り道きみの心の痛みはどんな風だろうと考えていたしくしく ちくちくひりひり みしみしうまく想像ができない辛くて重い告白を聞いた夜の寝床きみの心の痛みはどれくらいだろうと考えていたずきずき じんじんきりきり がんがんうまく想像ができないためしに左の胸をぎゅっとつねってみた思ったより痛かったけどこんなもんじゃな
2018年7月29日 16:17
よく晴れた冬の朝にぎやかな街をはなれてあなたと湖に出かけただれもいない湖畔にふたり並んで腰をおろし緑青色の水を見ていたあたりはしんと静まりかえり山々の息吹さえ聴こえないみなもをすべってゆく白鳥たちをおどかさぬようぼくらは声をひそめあったそしてあなたが作ってくれたサンドウィッチを分けあった日がかたむくまでぼくらは波立たぬ水と白鳥の群れをなが
2018年7月22日 19:50
ベランダに出て月を見あげながらあなたの眠りについて考えていますもう休んでいますかまだ起きていますかいつも疲れているあなただからすでに寝息を立てて夢の中にいるといいけれどわたしは変わらず夜更かしでままならぬ夢にイラついたりして夜風にあたろうと出たベランダで今あなたのことを考えていますもしも眠れずにいるならあのオルゴールのネジをそっと巻いてく
2018年7月15日 15:27
甘え上手なあなたに引き寄せられてぼくらは真正面から抱きしめあうこうしていればぼくは窓の夜景を見てあなたは部屋の壁を見て目を合わさずにいられるあなたは嘘をついていてぼくはそれを知っていてぼくが知っているということをおそらくあなたは知らないいまあなたの目に映る壁紙の模様をぼくが知らないように華奢な肩の付け根から♂の匂いがする吐き気をも