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マイ・フェイバリット・ソングス 第29回~羊毛とおはな

(2023年9月改訂版)

千葉はなさん(ボーカル)と市川和則さん(ギター)のアコースティック・デュオ。2017年にこのデュオのことを知って以来ずっと聴き続けています。僕は日本の女性ボーカリストでは千葉はなさんの声が一番好きです。


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『LIVE IN LIVING‘07』(2007年)

「LIVE IN LIVING」と銘打たれているアルバムは、アコースティックギターとボーカルをメインに(曲によってピアノや打楽器も入る)「リビングルームでライブをしているかのような作品」をテーマにしたシリーズ。カバー曲も収録されているのが特徴です。まず、オリジナルでは最初の二曲「手のひら」と「おまもりのうた」が好きです。そして、カバー曲は選曲もギターアレンジも歌声も素晴らしいものばかり。「So Far Away」(キャロル・キング)・「Englishman in New York」(スティング)・「I'll never fall in love again」(バート・バカラック作曲のミュージカルソング)・「Wonderful Christmastime」(ポール・マッカートニー)・「人魚」(NOKKO)の5曲。中でも「So Far Away」と「Englishman in New York」は特に素晴らしいですね。千葉はなさんの声は英語がすごく合う。彼女の英語の発音や歌いまわしが僕は完全にツボです。うっとりと聴き惚れてしまう。


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『こんにちは。』(2008年)

アコギとボーカル中心の「LIVE IN LIVING」シリーズに対して、日本語タイトルのアルバムはバンド編成のアルバムとなります。(とはいってもメインはアコギかピアノで、基本的にはアコースティックですね)さらに全曲オリジナルで日本語詞。ファーストの曲からも「ララルラ ララルラ」「手のひら」「おまもりのうた」の三曲がバンドバージョンにアレンジし直されて収録されています。改めて「手のひら」はいい曲ですね。


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『LIVE IN LIVING‘08』(2008年)

アコギとボーカル中心のシリーズ第二弾。オリジナル5曲とカバー5曲。オリジナルは「白いキャンバス」が好きですね。あと2nd.の「揺れる」がアコギバージョンにアレンジし直されて収録されています。カバーは「雨にぬれても」(B.J.トーマス『明日に向かって撃て』主題歌)・「Superstition」(スティーヴィー・ワンダー)・「My Favorite Things」(『サウンド・オブ・ミュージック』劇中歌)・「Perfect」(フェアーグラウンド・アトラクション)・「カントリー・ロード」(ジョン・デンバー)というラインナップ。特に「My Favorite Things」の千葉はなさんのボーカルは圧巻です。市川さんのギターアレンジも素晴らしい。映画『サウンド・オブ・ミュージック』でジュリー・アンドリュースさんが歌うこの曲大好きなんですよね、。ちなみにこの記事「マイ・フェイバリット・ソングス」はこの曲のタイトルをもじってつけました。


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『LIVE IN LIVING‘09』(2009年)

シリーズ第三弾。オリジナル5曲とカバー5曲。オリジナルの一曲目「キーラの森」は千葉はなさん作曲の美しいピアノ曲。この後のアルバムにも別バージョンで収録されています。カバーは「All You Need Is Love」(ビートルズ)・「Big Yellow Taxi」(ジョニ・ミッチェル)・「デイ・ドリーム・ビリーヴァー」(ザ・タイマーズ)・「Don't Look Back in Anger」(オアシス)・「Rainbow Sleeves」(トム・ウェイツ)。僕は「Don't Look Back in Anger」が特に好きですね。原曲はもちろん名曲だけど、千葉はなさんの歌声によってすごく優しい雰囲気の曲に生まれ変わっています。


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『どっちにしようかな』(2009年)

全13曲オリジナルでバンド編成。旅行をテーマにしたアルバムとのことです。内「白いキャンバス」「おやすみ。」「キーラの森」の3曲は『LIVE IN LIVING‘08』と『’09』収録曲のバンドバージョン。新曲の中では「逢いにゆこう」と「ただいま、おかえり」が特に好きです。ところでどのアルバムもかすかにヒスノイズが聞こえる曲がいくつかあるんだけど、あえてテープに録音しているのかなあ。何かこだわりがありそうですね。


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『LIVE IN LIVING‘10』(2010年)

シリーズ第四弾。オリジナル8曲とカバー4曲。オリジナルは千葉はなさん作曲の「ずっと ずっと ずっと」がメロディも歌声もピアノも素晴らしい。映画の主題歌にもなった「空が白くてさ」もいいですね。あとラストにボーナストラック的に「キーラの森」のアコースティックギターバージョンが収録されています。この曲は3つのアルバムに入っているけれど、個人的には『LIVE IN LIVING‘09』収録のピアノバージョンが一番好きかな。カバーは「Sir Duke」(スティーヴィー・ワンダー)・「Ice Cream Man」(トム・ウェイツ)・「Desperado」(イーグルス)・「少年時代」(井上陽水)。この中では特に「Desperado」の歌声が素晴らしいですね。惚れ惚れします。




『LIVE IN LIVING for GOOD Night』(2011年)

「夜にしっくりくる曲」をテーマにした企画盤で、全曲洋楽のカバー。これまでの『LIVE IN LIVING 』から9曲がチョイスされ、3曲が新録です。新録は「Doop Doo De Doop」(ブロッサム・ディアリ―)・「Freight Train」(エリザベス・コットン)・「Over The Rainbow」(『オズの魔法使い』」劇中歌)。千葉はなさんの歌声は英語詞で本領を発揮する(と僕は思う)ので、まず彼女の歌声を聴いてみようと思ったらこのアルバムから聴いてみてもいいかもしれません。カバー曲のベスト盤的なアルバムなので。ちなみにこのアルバムのみ2023年9月にアナログ化されています。個人的には全アルバムをアナログ化してほしいですね。


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『月見草』(2011年)

全11曲オリジナルのバンド編成。オールオリジリナルのアルバムだとこれが一番好きです。ピアノ中心の曲もバランスよく配されている。特にお気に入りは「ミグラトリー」「間違いと涙の跡」「ふたり日記」。表題曲「月見草」はデビュー前に作られた曲だそうです。「積み木の家」の囁くような歌声も素晴らしいですね。


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『LIVE IN LIVING ’13』(2013年)

シリーズ第六弾。オリジナル7曲とカバー5曲。まずオリジナルですが、僕はこのアルバムに収録された「はだかのピエロ」がきっかけで羊毛とおはなの存在を知りました。WOWOWドラマ『片想い』のエンディングでかかっていたのを聴いて、千葉はなさんの歌声に一瞬で魅了されました。この曲が羊毛とおはなの最高傑作ではないかと思います。聴き返すたびになんて美しいメロディ、なんて美しい歌声だろうと感動します。特にヘッドホンで聴くと彼女の声が脳の中で鳴り響くんですよね。「犬みたいな人」と「うたの手紙~ありがとう」もいい曲です。カバーは「Both Sides Now」(ジョニ・ミッチェル)・「Choo Choo,Ch’boogie」(ルイ・ジョーダン・アンド・ヒズ・ティンパニー・ファイブ)・「Only A Fool」(カラー・ボノフ)・「Hyperballad」(ビョーク)・「切手のないおくりもの」(ペギー葉山・作曲財津和夫)というラインナップ。「Both Sides Now」素晴らしいですね。「Hyperballad」も最高です。こんな難しい曲をなんて完璧に歌いこなすのだろう。僕はこれを聴いて「『Hyperballad』ってこんないい曲だったっけ?」と思い、改めて原曲を聴いて惚れ直した感じです。ラストの「切手のないおくりもの」もこのカバーで聴いて、原曲の良さを再認識した次第です。僕はずっとアンチ・カバー派だったのですが、羊毛とおはなのカバー群はどれも素晴らしい完成度で、今では彼女たちのカバーで聴く方が好きな曲というのもたくさんあるくらいです。このアルバムも隅々まで素晴らしい作品群ですね。そして、これがラストアルバムとなりました。


『LIVE IN LIVING ’13』をリリースしてから約2年後の2015年4月8日、千葉はなさんは36歳という若さで他界しました。僕が羊毛とおはなのを知ったのは2017年なので、その時彼女が既に亡くなっていたことに大きなショックを受けました。また、彼女が乳がんを発症したのは2012年7月とのことなので、『LIVE IN LIVING ’13』は病気を抱えながらレコーディングしていたことになります。それを思うと、涙なしでは聴けません。

できることならもっと早く知って、ライブで彼女の歌声を生で聴きたかった。それが悔やまれてなりません。でも、彼女は素晴らしい作品群を残してくれました。類稀なる歌声は上記のアルバムでたしかに生き続けています。僕はこれからも彼女の歌を聴き続けていきたいと思います。

千葉はなさんが亡くなる直前にファンへ向けて書いたメッセージというのがあります。非常に胸を打たれる文章なので、その全文が掲載されているサイトのリンクを以下に貼っておきます。


これから千葉はなさんの歌声を聴いてみようとされる方には、まず「So Far Away」(『LIVE IN LIVING‘07』収録)と「Desperado」(『LIVE IN LIVING‘10』収録)をオススメします。日本語詞で聴いてみたい方にはやはり「はだかのピエロ」(『LIVE IN LIVING ’13』収録)ですね。

あと、YouTubeにカーペンターズの「I Need to Be in Love」を教会で歌っている貴重な動画がアップされているんですね。これは一般の方が録画されたものなのか、映像も音もあまり良くないのですが、よかったら聴いてみてください。これも既にご病気を抱えているときですが、千葉はなさんの神々しい佇まいと歌声が画面から伝わってきます。僕はこの動画を何度もくり返し観ていますが、泣かずに観終えたことは一度もありません。


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