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【エッセイ】 チーズの厚み

 箱に入った丸いカマンベールチーズは、六分の一とか弧を描くように切り分けてつまむけれど、箱から出して丸いまんまのカマンベールチーズにかぶりつきながら、パソコン作業をしている人がいる。しかも新幹線のA席で!
 嫌悪感や忌避感はない。なんか微笑ましい。
 時を惜しんで必死に作業をしなきゃならない場合もある。そんなときは、頭脳にも気持ちにもエネルギーが必要で、エキナカのコンビニのバームクーヘンやチョコレートより、ちょっと塩気が効いて、嵩はないけど満足感のあるものの方が気分だったりする。その点、塩気はあるが、おにぎりじゃもの足りない。
 スーパーに並んでいる200gとか350gとかのプロセスチーズを、切らないでそのまま食べたくなることがある。「1cm程度にスライスしてワインと一緒に」なんていうのが真っ当だが、そんな食べ方をしたらどうだろうと思うことがある。そう思ったのはどういうときだったか覚えていないが、疲れているときなのだろう。身体はそのときに必要なものを自然と欲するらしい。

 恥ずかしい話をひとつ。
 お刺身を切らないで食べたらどうだろうと思ったことがある。ギャートルズの原始人が肉の塊に食らいつくようなことをお刺身でしたら、ボリューミーでいいかもしれないと思った。そもそも、切り身にしていない時点で、この塊を「刺身」とは呼べないが、これはおいしくなかった。お刺身(マグロだったと思う)の味がしない。何を口に入れているか分からない。やはり、そのものには、そのものに合った食べ方(調理法)があって、刺身は適度な厚みにして、お醤油をつけて口に入れた方が、口の中で香りや味が広がるんだと理解した。
 そうそう、これは身体が欲してやったわけでない。

 さて、ブロックで食べるチーズは味がするだろうか?

(2024年 1月 8日)

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