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関友美の連載コラム「日本酒の発展に寄与した吟醸酒の父・三浦仙三郎」(リカーズ7月号)

そうだ。日本酒を飲もう。十六杯目
日本酒の発展に寄与した吟醸酒の父・三浦仙三郎

まだ肌寒い4月。ようやく全国公開した、映画「吟ずる者たち」を観に池袋に行ってきました。「吟醸酒の父」といわれる「三浦仙(せん)三郎(さぶろう)」氏を題材にした、現代と明治期を行き来するヒューマンドラマです。主演が比嘉愛未さん、中村俊介さんと大変豪華で、外観撮影には「富久長」醸造元・今田酒造本店、室内撮影には「龍勢」醸造元・藤井酒造が使われています。

開始5分から涙が止まらず、マスクがぐしょ濡れになりました。世界に誇る日本の文化でありながら、いまや斜陽産業である酒造業。2018年公開の「恋のしずく」もそうだったけれど、酒蔵にスポットライトが当たり、大きなスクリーンで多くの人の目に触れるというだけで胸が熱くなります。本作の現代シーンでは「自分ならどうだろう」と、後継者に想いを馳せることもできます。

仙三郎が酒蔵を買い取った当時、酒造は「神の領分」で杜氏に任せるほかありませんでした。しかし恐ろしい「腐造」が続いてしまいます。火落ち菌が入って異臭が出て、まるで腐ったように飲めない液体になってしまうのです。酒造業は不安定な稼業で、明治末期頃まで銀行も融資をしなかったとのこと。だから腐造が続き季節雇用の杜氏さんが首を吊ったり、倒産したりという話もあるほどです。地域の酒蔵が同様に悩んでいました。そこで仙三郎は周囲の猛反対を押し切り、灘に出向くなど研究を続け、水質の違いが酒に影響することを突き止め、ついには広島県の軟水に適した醸造方法を生み出します。
その後は県内のみならず、求められれば全国に指導して回ったそう。その結果、1907年の第1回全国清酒品評会で、竹原市の「龍勢」が最高位の優等賞第一位に。現在では灘・伏見と並び、広島県(特に西条)は日本の三大銘醸地に数えられています。

今ではごく一般的になった「吟醸造り」。国税庁による定義では、『吟味して醸造することをいい、伝統的に、よりよく精米した白米を低温でゆっくり発酵させ、かすの割合を高くして、特有な芳香を有するように醸造すること。 吟醸酒は、吟醸造り専用の優良酵母、原料米の処理、発酵の管理からびん詰・出荷に至るまでの高度に完成された吟醸造り技術の開発普及により商品化が可能となったもの』と書かれています。

吟醸(ぎんじょう)香(こう)と呼ばれる、華やかで洗練された上品な香りが特徴です。熱い想いを以って常識を覆した仙三郎がいなければ、日本酒の発展自体も遅れたかもしれません。先人の尽力のうえに現在の美味しい日本酒が在る、と痛感します。
ぜひ広島酒と映画をチェックしてみてください。

広島県・酒どころ西条のなかでも、ひときわ大きな賀茂鶴酒造。4つの醸造蔵があり、総杜氏の下に各蔵の杜氏が配置されている。
西条「酒まつり2018」にて二号蔵の椋田茂杜氏とともに。

今月のピックアップ酒蔵

賀茂鶴酒造(広島県)

三浦仙三郎、研究者の橋爪陽とともに軟水醸造の「吟醸酒」を開発したのが、賀茂鶴酒造の当時の当主・木村静彦。高機能の精米機開発にも尽力した。昭和33年には日本で初めて商品として販売された大吟醸酒、金箔入りの「特製ゴールド賀茂鶴」を発売。現在でも変わらず購入可能で、日本を代表する寿司店など数々の有名店でも採用されている。安定した酒質で多くの受賞を重ね、海外でも愛される、清酒を語る上で欠かすことのできない酒蔵だ。

以上

庄司酒店発刊「リカーズ」連載日本酒コラム
関友美の「そうだ。日本酒を飲もう。」7月号より

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