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大学生ならしょうがない?薄い関係で終わった人の話

「私たちの人生って一周まわっちゃってるよね」

 誕生日がたった2日違いの4歳年上のお姉さんは、お茶割りのジョッキを片手にそう言った。ああ、この人分かっている。分かっているタイプだ。久しぶりに驚いた。大抵、僕は自分のことをペラペラ吐き出したりはしないから。

 人との関わりで合う人合わない人というのは、「はじめまして」の挨拶の時に直感でわかってしまう。でも、このお姉さんは、僕が予想した遥か上から、僕を覗いてきた。流石に「おお、やるなぁ」と驚いたのだ。最初は合わないタイプだと予想していたのに、予想は外れた。

「好きがわからないの」
 
適当に入った居酒屋で始まった人違いの定例会議。彼女の悩みは「好きがわからない」という人生一周まわってしまったタイプの人の悩みだった。僕もまた、人生一周まわっているタイプ。この手の相手が言うことは、本心であったり、飾りであったり、まとめて言えば適当に話している。ただ、頷いて聞いてあげることと、時々小さな質問をすること。そして、相手が求めていることを会話の中から察するのだ。ただ話を聞いて欲しいだけの人もいるし、手を引いて欲しい人もいる。

「歩きながら飲もうよ」
 
 お店を出て、帰るにはまだ早すぎるくらいの時間だったと思っていたところ、彼女の方から誘ってきた。駅のロータリーにある小さなファミリーマートで7%のロングのスト缶を買った。

「こーゆーのって、ストロー差して飲むんだよね?」そんな適当な言葉を吐き出して、レジで貰ったストローを缶に刺す。

「今日はなんだか、すごく酔っちゃいそうだね」
 予定通りすぎた。あの時、お互いそう思っていたんだろう。普通ならそのまま行くべき場所に行くが、きっとその先を分かりながらお互い遊んでいた。なんというか、いかにエモい時間を作るのかにこだわっている気持ち悪いタイプ。これが人生一周まわってしまった人たちだ。

 どうせ、ゴールが一つしかないことは知ってるけど、そのゴールに辿り着くまでをお互い操りあっている。そのことが相手にも伝わってるし、相手も僕がそう思っていることを分かっている。でも親友とか友達じゃなくて、出会って2時間と少ししか経ってない人。最高にエモいけど最低に冷たい関係だ。

「私、誘われる時はストレートに誘って欲しいんだよね」

 そう言って、以前会った人の愚痴が始まった。

「まわりくどくてさ〜。誘うなら素直に誘って欲しいんだけどね」

 タバコをふかしながら愚痴る彼女の背後に、満員電車が過ぎていった。それから、こーゆー時は夢を語り合いたいという僕の想いから、お互いの夢を語り合った。偶然、同じ夢だったこともあって、結構盛り上がった。

「あ、あと2分で終電だ」
「あ、行っちゃった」
 そんなテンプレで僕は終電を逃してしまった。でも本当に、この時はわざとじゃない。わざとじゃないけどなんでか叶ってしまっただけ。

「ねー何やってるの〜」
駅近のコインパーキング。日付が変わるぐらいの時間。本当に帰るつもりだったから、ちょっと困った。この街の下調べも、何もしていなかった。

「私、おすすめのお店あるよ」
 そうして僕たちは、2軒目に入った。会話も少し減った気がした。思い返せば、僕は主導権を握られていたのかもしれない。2件目で頼んだ大ジョッキはすぐ無くなった。
「もう出よ?」
「ね、行こ」
 そう言って1時間も経たずに、お店を出た。出てすぐに、誘った。
 彼女は腕を組んできた。彼女はその言葉を待っていたようだった。エモい一日になれば良いと軽く思ってただけなのに。深夜1時。街灯の下を通るたびに2人の影は伸びて縮んでを繰り返した。まるでダンスをしているかのように。限度を超えたアルコールが、頭の中の神経を麻痺させた。



 してやった気でいたのに、してやられたのは僕の方だった。その後2回ほど会って、彼女にはスタンプを送れなくなった。インスタも消えていた。SNSを持って、関係の繋がりを可視化できるこの時代。終わったと思った。僕は、彼女の求めていた姿じゃなかった。全ての偽りには、終わってから気づく。僕と彼女の間にあった見えない壁も、終わってから色がつく。分かった気でいても結局何も分かっていなかった。そんな孤独な時間も、時間が経てばなんだか曲にできそうなくらい良かったと思える。それは自分がそうしたいと願いながら接していたから。本気で幸せになりたいと思っていなかったから。絆創膏を貼るくらいの傷で治るし、夢から覚めたらすぐに受け入れられた。少し濁ったガラスビー玉のような、あの時間は音も立てずに砕けて無くなった。あーこれが大学生なんだろうな。それくらいでいいや。

(終

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