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船の漕ぎ手がいなくなって、一人で漕ぐ人がいる状況に遭遇した年明け

沈む船の漕ぎ手が減ると、残った人がいなくなった人の分まで漕ぐ。
船だから浮くことはできるので、誰も乗らなければ進まないだけだろう。
私は今日、そんな状況を目にしてしまった。

3月で打ち切られるが、見習い専門医研修をしている病院の某科に私は今研鑽のためにいる。
もちろん報酬などもらっているわけではない。
ただ、見習いをさせていただいているのだ。
そして、ここでは先輩というか・・・上司が去年末まで2人いた。
だが、2か月ほど前からもう一人の上級医がこなくなってしまったのだ。

理由はわからない。
もう一人の先輩に聞いてもはぐらかされてしまった。
病気か、コロナか、怪我?
それとも長期出張?
海外留学?急に?
まったく見当もつかないので、追及するそぶりもしなかったが、現場を一人で回す上級医を見てぞっとしている。
入浴していないらしく、においがすごい。
いつもエネルギードリンクを飲んでいる。
お菓子やパンを片手でつまみながら、喉に詰まらせかけてむせているのも見た。
日に日に痩せてきている。
目が真っ赤だ。
年末も連日出勤していたらしい。
かたやボスは定時人間。

―――これまで、上級医2人で回していたこの科の医療・・・今は、この先輩1人でやってるのだ。
そして、3月にボスが職を辞するので、もうボス自体が投げやりになっているらしい。
院内で慣習的に立つ鳥後を濁す顕著な場面だ。
―――誤診とかミスとかでたら、責任どうするんだろうな
そんなありふれたことを感じながら、私は今年になっても見かけないボスの姿に苦笑する。
仕事始めから新年の形だけの挨拶もしていないくらい、未だ疎遠なのだ。

とりあえず、今の状況は、二人で漕いでた船でやっとまわっていたのに、一人で漕いでいる医療現場となっている。
そんな中で、私は自己研鑽しにきているということだ。
私自身は戦力外に扱われていたし、来なくなった上級医からは無視され続けていたので、自分なりにもう一人の先輩に聞いて研鑽は積んでいた。
まだまだ難しい部類まで診断できるレベルではないが、この8か月ほどで全体の6-7割は経験を積んできたと思う。
だがもう、今月から唯一、聞ける人があんな一人船漕ぎ状態では聞きづらくなっていて、いよいよ「詰み」だと感じた。

ボスと去った先輩の間で何かあったのかもしれない。
それとも上級医2人の間の何かとか。
だが、去った方の彼は私を人間とも扱わず、存在も無視していたので、今やどうでもいい人になっている。
それにしても・・・残っている一人に過重労働を押し付けて、定時で帰宅するボスというのもなかなかの敗戦状態だと思った。

3月まで、船は進みが悪いが、沈みはしないだろう。
ただ、漕ぎ手の体力が、どうなるのか注視してみたいと思う。
面白がっているのではないが、自分自身も春からの進路さえまだ確定しない状態だから私も面接活動で不在が多くなる。
一人で綱を引いている先輩は、ボスが去った後どうなるんだろう。
多分、もともと有能な人なのだろうし、ここに居続ける状態なのかもしれない。

しかし、今のこの状況・・・終わる医局ってどこもこんなものなんだろうか。

今度こそ、沈む船じゃなくて、進む船の中、集中して取り組める環境で私はいたいなあ・・・そんな風に、しみじみ感じた年始のある日だった。

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