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「NO LIMIT, YOUR LIFE」を観て欲しい:仙台はスタートの地

神経難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)の当事者、武藤将胤(むとう まさたね)さんと周囲の方々のドキュメンタリー映画「NO LIMIT, YOUR LIFE」がようやく地元仙台のチネ・ラヴィータにて公開され、1月13日、14日と続けて観に行きました。13日には舞台挨拶も行われ、初めて武藤さんにお目にかかることができました。(サムネイルは東北大学病院・医学系研究科広報室にクレジットがあります)

https://forum-movie.net/sendai/movie/5391

この映画はALSのことを皆さんに知ってほしいという願いによって生まれたものです。監督の毛利哲也さんが、テレビ朝日の報道ステーションのディレクターであった頃から取材した約6年間の軌跡が描かれます。

武藤さんがALSを発症したのは20代後半で、指が震える、ペンが持てなくなるなどの症状が現れてから、ALSであるという診断が付くまでには1年を要しました。映画の中ではALSを患っている方にどのような症状があるのか、どのような治療が為されるのか、どのような日常なのかについて、武藤さんとその伴侶である木綿子(ゆうこ)さんを中心に密着取材した映像で示されます。例えば「気管切開」がなぜ必要なのか、行った場合にはどのようなディメリットが生じるのか、「閉じ込め症候群」とはどのような状態なのか・・・。厳しい現実を突きつけられるのは、胸が締め付けられる気持ちでした。

武藤さんは、そんなALSを患っていたとしても、自分で自分の限界を決めてはいけない、やれることはたくさんある、として、一般社団法人「WITH ALS」を立ち上げ、活動を続けています。ALS患者の先輩であるHIROさんこと藤田正裕さんがすでに「END ALS(ALSを終わらせよう!)」という活動をされていて、武藤さんも独自にさまざまな活動を展開し、映画のタイトルの「NO LIMIT」を実践してみせています。

ロボット研究者の吉藤オリィ(本名吉藤健太朗)さんとのコラボも素敵です。オリィさんはリモートで操作できるOriHimeというロボットや視線入力で意思を伝えるシステムなどを開発し、武藤さんとのコラボでは「分身ロボットカフェDAWN ver.β」というカフェで、脊髄損傷の方やALSの方が働くことができる環境を実践して見せました。

実は、仙台は武藤さんの活動「WITH ALS」のスタートの地なのです。映画の中で、ちょうど10年前の2014年、東北大学病院を受診してALSの確定診断を受ける場面が出てきますが、実は帰りの新幹線の間に考えて、東京駅から木綿子さんに電話で伝えたというエピソードを舞台挨拶で伺いました。

その診断を行った脳神経内科の青木正志先生はまた、診断から4年経った武藤さんに「僕だったらやります」と気管切開を勧めた方でもありました。映画では診断を受けた後の武藤さんと木綿子さんの東北大学病院の待合室での様子が描かれます。表現者である武藤さんにとっては、音声でのコミュニケーションの手段を奪われることは、手足が動かなくなるよりも辛いことだったのです。

13日の舞台挨拶には青木先生もサプライズでご登壇。武藤さんへの手紙を披露され、「お子さんも生まれておめでとう! ご両親も大切にされてください」とのメッセージを伝えられました。また、台本に無かったこととして、毛利監督への感謝についても手紙を読まれました。

映画では「コエステーション」というアプリについても紹介されます。自分の声の音声記録をもとに、合成音声にしてテキストを読み上げることができる仕組みです。舞台挨拶では武藤さんはリアルに、視線入力と合成音声でコミュニケーションされていました。テクノロジーの進歩はALS当事者と周囲の方々にとって、とても大事な未来だと感じました。

この映画が感動的なのは、表現者としても素晴らしい武藤さんや、木綿子さんの「絵力」にもよりますが、音楽の力にもよると思いました。武藤さんがDJやVJに挑戦したり、ミュージックビデオを制作するシーンが折り込まれていることによって、ただALS患者の日常というだけではない奥行きが、映画をより印象的なものにしています。

映画の最後では、これからのテクノロジーの進歩をいかに利用できるかという可能性に触れています。上述のHIROさんは、病状が進行して視線を利用したコミュニケーションも困難となっていくのですが、そのような場合に、例えば脳波から意思を汲み取ることができないか、というようなブレインテックの試みについても紹介されています。ブレインテック・コンソーシアムという活動に関わる私も、そのような未来が来て欲しいと願っています。

映画のポスターの前で武藤さんとツーショット。武藤さんの「眼力(めじから)」が強い!
念願かなって仙台上映が実現した毛利さんとツーショット
武藤さん、青木先生とスリーショット(東北大学病院広報室撮影)

下記が昨年8月の神経科学大会の折に行われたALSのシンポジウムにおける「NO LIMIT, YOUR LIFE」のビデオクリップご紹介についてのポスト(すみません、タイトル間違えてハッシュタグ入れています……)。このときは、国内外のALS研究者に対して映画の告知を行い、仙台誘致に繋がる大きなきっかけでした。

出だしの観客数が多かったためか、18日までの予定であった上映は25日まで延長されました! 次の週末も大丈夫ですので、仙台の皆さん、ぜひ、ご覧になっていただければ幸いです。

【参考資料】
NHKにおけるALS関係記事まとめ


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