見出し画像

夜空ぜんぶの星が友だちになる

だれだってぐるぐるする

より

「がん患者の中には、あまりにも痛みが強く、
長く続くために
『いっそのこと死んでしまいたい』
 と思う人がいますが、あなたはどうですか?」
 
がん専門の精神科である精神腫瘍科を、
初めて受診した時に尋ねられた。

いや、死にたくない。
酷く痛いけれど、死にたくない。
それでも、ぼくは死んでしまう。
どんなに死にたくなくても、
5年以内に、いや、4年くらいで死んでしまう。
だから、死を受け入れなければならない。

この人は、この精神腫瘍医は、
たくさんのがん患者の話を聴いてきた人だ。
もちろん、人によって事例は異なるだろう。
10人ならば10通りの、死との向き合い方があるだろう。
けれども、3000人のがん患者の話を聴いた
この人ならば、たくさんの事例を知るこの人ならば「残りの時間をどう使うか」について
のアドバイスをくれるかもしれない。

精神腫瘍医は「自分の死生観」を得ることを
勧めてくれた。

「死を意識するからこそ、
人はいかに生きるか
ということを考えるようになります。
生きるということと死ぬことは表裏一体です」

宮沢賢治に戻ろう。

とし子はみんなが死となづける
そのやりかたを通って行き
それからさきどこへ行ったかわからない

そう詠った宮沢賢治は、
行き先について、以下のように記している。

どこまでもながれて行くもの
ああ いとしくおもうものが
そのままどこに行ってしまったか
わからないことが
なんといういいことだろう

ああ、いとしくおもうものが
そのままどこに行ってしまったか
わからないことから
ほんとうのさいわいは
ひとびとにくる

賢治は
遺された者は
妹の死を悼むうちに、
あらゆる人のほんとうのさいわい
を願うことで、
救われようとしたのかもしれない。

同じような言葉を、
ぼくは知っていた。

ぼくの星は小さすぎて
見上げてもわからないだろう。
でもその方がいい。
ぼくの星は、
夜空いっぱいの星のなかの、
どれか一つになる。
そしたら君は、
夜空ぜんぶの星を
見るのが好きになるだろう。
ぜんぶの星が、
君の友だちになるだろう。
   「星の王子さま」 サンテグジュペリ

死んだら何処に行くのかは
わからないほうが
遺された者にとっては
幸いなのかもしれない。
   

さようならの理






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?