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文次の手紙#09

政次様

拝啓 若葉萌える新緑の候となった事と存じます。お便りありがたく拝見致しました。27日に下士官承諾書を受け取り、早速中隊長宛に差し出しました。
慰問袋も25日ごろ受け取りました。初年兵で最初の慰問袋だったのでみんな大さわぎをして喜びました。入念にカンに詰めてくださったのでみんな立派にして一つも悪くなっているものはありませんでした。何とぞご安心ください。

実は早速手紙を出すはずでしたが、検閲が終わり、さらに警備の移動等で混雑して書く暇がありませんでした。象次郎さんの帰還の時は幸い僕は射撃大会出場のため、後に残っていたので会われました。この手紙のつくころは多分、家に帰りつかれているころでしょう。

検閲も去る16日夕方から始まり、雨上がりのぬかるみを夜通し夜行軍で明方南口山という高い山に登りそこで戦闘教練等実際の戦闘さながらのものすごい検閲で非常に好成績で無事終わりました。

検閲が終わっては教練等もなく勤務等が主で少しは楽になったようです。初年兵も各隊分隊に配属され別れ別れになり、自分の分隊では3名の初年兵が入っています。目下、我々の隊は本隊と離れ淋しい○○駅にいて、○○鉄道等の警備の重任についているそうです。時に土匪【※1(原文まま)】の銃声等もするそうですが、大したことはないでしょう。

僕はまだ前に隊がいたところにのこって、今度師団の射撃大会に中隊の代表として特別射手に選ばれ(中隊より兵2名、下士官2名)目下連隊での集合教育で毎日射撃ばかりしています。来月2日に広東においての大会に出場して、警備地に帰ることになっています。

在自の九州男君とは上陸してすぐに分かれ、我々とは10里くらい離れた○○におるそうですが、その後、一度も会いませんのでどうしているか知りませんが、何かの都合で手紙がおくれていると思います。いずれにしろ心配することはなく元気でやっていることと思います。

検閲は終わりましたがまだ初年兵は全部一つ星でいて、その後、何の沙汰もありません。いずれわかったらすぐお知らせしますが、僕も一生懸命にがんばったために人からは決して負けていない十分な自信があります。その点、何とぞご安心のほど、いずれの快報をお待ちください。
これからはいよいよ警備の重任に着くことになり、益々緊張してあくまで東亜建設のために戦うつもりです。

慰問袋も自分たちには欲しいものばかりでちょうどよかったです。また何か送ってください。「おはぎ」につけものの数々、戦地ではありがたいものです。
今度送ってくださるときは「万年筆」をまた失くしましたので、甚だ勝手ながらすぐ送ってください。母上にもあまりいらぬ心配せぬよう自分のことは気にかけずしてくださるよう言ってください。昭子や昭人さんにも手紙ありがとうとよろしくお伝えの程。

文次より
昭和15年4月29日


【※1(原文まま)】現地の部族

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