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的外れの少子化対策で迎える 2026年「丙午」(ひのえうま)             

60年ぶりの「丙午」(ひのえうま)で試される日本社会

 2年後の2026年、60年ぶりの「丙午」(ひのえうま)の年がやってきます。
前回1966年の「丙午」は人口ボーナスを謳歌する高度成長期の真っただ中であったにもかかわらず、前年より25%も出生数が減少し、日本社会の前近代性が如実に表れたかたちになりました。出生数の推移を示す下のグラフで明らかなように1966年はその年だけ櫛の歯が1本だけ欠けたように特異な状態を示しています。当時の日本の人々にはそれまで続いてきた迷信を打ち破る力も、またそもそも変えなければという気持ちも無かったのでしょう。
 あれから60年が経過して、2026年の「丙午」を迎える日本社会はいかなる姿を見せるでしょうか?古い考えから脱皮した姿を見せることができるでしょうか?
 SNSやAIなど情報社会の進化、グローバル化の進展による海外慣習と日本社会の慣習との差違がより意識される昨今、結婚や出産に対する意識は60年前とは大きく変わってきています。そしてそのことは肌で実感できるのですが、はたして「丙午」の様な科学的根拠のない迷信は歯牙にもかけないほど日本人の意識は成長できているでしょうか?
2026年は日本人の意識の成熟度を測る上で恰好のバロメーターが提供される年となるでしょう。
 そもそも「丙午」の迷信とはどんなものでしょうか。「干支」とは古代中国起源で日本に伝わったもので、十干(じっかん)と十二支(じゅうにし)の組み合わせで60通りの組み合わせがあります、「丙午」はその60通りの一つで60年に一度めぐってくるものにすぎません。ところが古くから(江戸時代から)「この年に生まれた女性は気が強く、夫を早死にさせる」「丙午の女は男を食い殺してしまう」などという迷信が蔓延り、「丙午」生まれの女性は結婚相手としては避けられたという悪しき風習がありました。
これは江戸時代初期に井原西鶴の「好色五人女」の中の八百屋お七の放火事件の主人公が「丙午」の生まれだったということから迷信が生まれ、歌舞伎や浄瑠璃を通して社会に浸透して行ったと言われています。

毎日新聞より

「丙午」の出生率を下回ったのが少子化危機感の始まりだった

 この「丙午」と現在日本の最大の問題である少子化には繋がりがあります。少子化問題は日本が蝕まれている最大の「病」ですが、「病」だと正式に診断された(日本が少子化社会に入ったと広く意識された)のは平成2年に公表された前年の合計特殊出生率が1.57まで落ち込んだいわゆる「1.57ショック」の時でした。それが「ショック」と呼ばれたのはそれまでの最低が1966年の「丙午」という特殊な年の出生率1.58を下回ったからでした。 
 それ以来「病」を治療するために政府はいろいろな対策を実施してきたのですが、多くは出産·子育てに関する支援が中心で、経済的な支援と負担を軽減することでなんとか子供を産みやすい環境を作ることに腐心してきました。
具体的にはエンゼルプランから新エンゼルプラン、さらに少子化対策基本法、次世代育成支援対策推進法と各家庭が子供を育てやすくする施策から始まって社会全体で子供を育てて行くという考え方に発展して行きます。
 しかしこの数々の政策は実りをもたらしませんでした。その一番の原因は人口のボリュームゾーンである団塊ジュニア世代が出産適齢期に経済的状況により満足に結婚し、子供を産める環境になかったからだと思います。そしてそれは未婚率の急激な上昇(特に男性に顕著)の時期と符合しています。
自分の周りに結婚・出産をしない人々が増えて行く中で、人々の意識も自分の人生設計の中で結婚がほんとうに必要なのかと自問する人も増えてきています。次のグラフには、そのことが如実に表れていると思います。
そうなると少子化の根本原因は出産・育児を取り巻く環境だけにあるのではなく、むしろ「結婚しにくい」、あるいは「結婚したくない」意識にあるのではという考え方が広まってきました。

男女共同参画局より

 生涯未婚率(現在は「50歳時の未婚率「結婚したことがない人の割合」と表現)とは50歳時点で一度も結婚をした事のことのない人の割合を算出したものです。【2023年最新】の公表では生涯未婚率は男性が28.25%、女性が17.85%にまで増加しています。
生涯未婚率の推移をみると少子化対策の的は「出産・育児」ではなく「未婚」ということがよく解ると思います。

的外れの少子化対策に3兆6千億円の愚

 「丙午」の年まで2年を切った現在、「異次元の少子化対策」=『こども・子育て支援加速化プラン』が実施されようとしています。
「異次元の少子化対策」=『こども・子育て支援加速化プラン』に取り組む岸田内閣は、子ども・子育て支援法などの改正案を閣議決定しました。「異次元の少子化対策」のポイントは
➊児童手当などの給付を拡充する。(対象を高校生まで拡大、第3子以降への給付額を倍増、所得制限を撤廃)
➋子ども・子育て支援法などを改正し、生後6カ月~2歳で、保育所や幼稚園などに通っていない「未就園児」親の就労に関係なく子どもを預けられる「こども誰でも通園制度」も始める。
➌妊娠時と出産時に計10万円
相当を支給する「出産・子育て応援交付金」を恒久化する。
➍雇用保険法などを改正し、育児休業給付は両親がともに14日以上取得した場合、最大28日間、休業前の手取りの実質10割に引き上げる。
➎大学などの高等教育にかかる教育費の負担軽減策として、授業料の無償化や奨学金の所得制限の緩和をする。
その他多岐にわたりますが、一言で言ってしまえば、子育てに係る経済的支援の強化、全てのこど も・子育て世帯を対象とする支援の拡充です。的は「出産・育児」に絞られています。そしてその財源として医療保険料と併せて徴収する新たな「支援金制度」の創設が予定されており、今通常国会に提出され審議されています。
 この『こども・子育て支援加速化プラン』を実現するために、政府は2028年度までに3・6兆円の財源が必要と主張して、その一部を医療保険の負担増などで確保しようとしています。しかし少子化対策の的が「出産・育児」ではなく「未婚」であるのが正解とすれば、この3・6兆円は的外れの愚策ということになるかもしれません。もちろん、子育て支援の必要性は否定できないものですが、これを「少子化対策」と謳ってしまうのは方向性を誤るような気がします。
 少子化対策の的が「出産・育児」ではなく「未婚」であるという意見は様々な所で語られています。
国会の議論の中では「少子化の主たる原因というのはその手前の未婚にあるわけでありまして、やはり、ここにタックルしない限りは、なかなかこれは解決には至らないというふうに思います。」という意見も出ており、
またテレビでも「政府の少子化対策は間違った処方せんに基づ税金を使っている気がする」、「今、日本が一番間違えているのは、多分、生んだ人に対して手厚いんです。しかし、出生率を上げるためには生まないとか生みたくないっていう人たちが生みたいとか生んでもいいと思わないとどうにもならないと思うんです。」という意見も出されました。
これらの主張は、いずれも少子化対策の本丸は出生率を上げることではなく、障害未婚率を下げることにあるということに重点が置かれています。
しかし「未婚」への対策はなかなか難しいものがあります。結婚を望む世代への経済的支援で「結婚しにくい」環境は変えられるかもしれません、しかし「結婚したくない」への対策はあるでしょうか?何よりも日本の将来が明るいものと感じられる社会を作り上げることでしか対策はないように思います。

 厚生労働省発表によると、日本の2023年の出生数は約75万8000人(しかも外国人を含めた数字)で8年連続の減少が続いています。前年より4万人強、率にして5.1%の減少です。この「減少トレンド」の中、あと2年程で「丙午」がやってきます。「丙午」が日本の少子化をさらに加速化させる可能性もあります。結果を見守って行きたいと思います。
  私の予想では1966年の「丙午」の時の様に出生数が前年より25%も落ち込むことはないだろうと思います。しかし日本人が培ってきた「変えたくない」保守意識は根強く社会に残っています。頭では迷信と解っていても「あえてそんな年に子供をもうける必要はない」という心情を変えることはなかなか難しいでしょう。統一教会を初め宗教にすがる軛から抜け出せない多くの人を見ていると、「丙午」の迷信も以外に多くの人の心に生き続けているのではないでしょうか。人口減少のトレンドに乗ったまま5~10%程度の「丙午減少」がプラスされるのではないかと予想しています。
そして前回の「丙午」の時の様に翌年は大きくリバウンドすることもなく、出生数の減少の足を早めることになるのではと心配しています。2026年1年間に生まれるこどもの数が60万台に落ち込むことは確実で、最悪の場合は60万人割れという事態になるかも知れません。
日本人が「丙午」の軛から解放されていることを心から祈らずにはおれません。

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