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#7「EDO STYLE」~本当の健康食とは~(前編)

日本酒の枠を超え、色とりどりの分野で活躍する「ニホンジン」を訪ね、
日本の輪を広げて行きます。それはまさに「和の輪」。
第7回のゲストは、食文化史研究家・永山久夫さんです。

永山さんは昭和9年生まれ。古代から明治時代までの食の特徴を研究し、食事復元研究の第一人者として知られています。『和食の起源』『日本人は何を食べてきたのか』(青春出版社)、『万葉びとの長寿食』(講談社)、『日本古代食事典』(東洋書林)など著書も多く、古代食や長寿食をテーマに、新聞連載、テレビ、ラジオにレギュラー出演、講演などで今も元気に大活躍です。


永山久夫さん(左)と薄井一樹(右)

有機農業がおいしい理由

薄井 永山さんに、お会いするのは初めてですけれども、私自身が日本酒を造ってまして、長い歴史の中で日本酒も様々に形を変えて現代に至ってますけれども、今日は日本の食文化史を長年研究されている永山さんのお話を是非色々聞きたくてお邪魔した次第です。
 
永山 練馬までご足労かけました。しかし酒造りやってるんだったら、色々試行錯誤もあるだろうし、ご苦労もあるでしょう。酒造りは凄いことです!
 
薄井 最近の日本酒はちょっとケミカルなので、うちは仙禽という日本酒ですけれども、江戸時代に回帰するような、便利じゃなかった時代にあえて回帰するような、そんな日本酒造りをしてるものですから。
 
永山 今、江戸時代とおっしゃってましたよね。そうするとやっぱり米の選び方とか、酒造りに関する昔の統制法とかも色々あったんですけど、そこら辺、難しいでしょう?
 
薄井 そうですね。今の日本酒って、明治以降進化を続けて、造り手に凄く造りやすくなった時代なんですね。あえて江戸時代の作り方をしてみると、全部が全部100%江戸を再現できているわけじゃないけど、凄く手間暇がかかるし大変です。

永山 やっぱりね、そもそも米の作り方自体が違うと思うんですよ。基本的に有機肥料ですから。有機肥料ってのは、ちょっと言葉遣いが悪いですけども人糞が基本なんですよ。人間ってのは色々なもの食べてますから。だから排泄物の中に有機物が沢山含まれているのですよ。
 
薄井 確かに。
 
永山 江戸の町って100万人で栄えてましたから、そこでも充分に肥料を得られるんです。江戸時代、ロンドンの人口およそ70万人、パリで50〜60万人。

薄井 お江戸の人口100万人て凄いことですね。
 
永山 その100万人の排泄物を田んぼへ運んで、一度大きい樽の中に入れて、発酵させてから使うんですよ。それを乾いた田んぼの家にまいて、一冬寝かして、それから耕すんです。

薄井 そうか、それだけでふんだんな有機肥料ですね。我々は「亀ノ尾」というお米を使ってお酒を造ってますが、これもやはり有機農業で作ってます。流石に現代は、人糞でやるってのはちょっと・・・。
 
永山 ともあれ、もっと有機肥料を復旧した方がいいね。そちらは堆肥が中心ですか?
 
薄井 材料は稲わらと落ち葉で。
 
永山 おお、両方ですか。枯れ草は?

薄井 枯れ草も入っています。
 
永山 枯れ草といっても青い草だよ!
 
薄井 青じゃないとダメなんですか?
 
永山 青じゃないとダメだよ。青くないと酵素が含まれてないもん。枯れちゃったらもう酵素がないよ
 
薄井 確かにそりゃそうですね。
 
永山 だから青草をいっぱい入れて。そうすると発酵剤を入れなくても大丈夫ですから。それで少し米ぬかと一緒にまくと酵母が自然に発生して、熱が物凄く出てくる。俺、なんでも知ってるな! なんか自分で喋って感心した(笑)。
 
薄井 凄いですね(笑)。うちのやり方は半年以上前から田んぼに水を張って、そこに天然の微生物、硝酸をずっと溜め込んでおく・・・。普通の農薬を使う場合って、だいたい1ヶ月くらい前にお水を張るじゃないですか。

永山 江戸時代に人糞をまいてから一冬過ごさせるというのは、冬の間に微生物を発生させるため。そうすることで米の微妙な旨さが違ってくるんじゃないかと。私も江戸時代の米を食いたいなと思うんだけど、これはもう不可能だよね。だから、より近づけるために、薄井さんがやってるような面倒くさいプロセスを是非実行してほしいって感じですね。残念ながら他ではそういうプロセスはあまりないと思うから。

薄井 そうですね。だいぶ前からそのお水を張ることによって、微生物がそこに蓄積されていくので。ですから完全に再現はできてないけど、有機農業で育てた「亀ノ尾」は限りなく江戸時代のお米に近いと思いますので。今度、送りますから食べててください。僕も玄米を毎日食べてるんですよ。
 

健康食は面倒臭いプロセスから生まれる

永山 玄米はどういう炊き方をしてますか?

薄井 すみません、炊飯器で炊いています(笑)。

永山 炊飯器で全然いいんだけれども、水張って準備スタンバイするじゃないですか。そこにいるまで大体何分くらい?

薄井 大体浸漬時間は2〜3時間。

永山 できたら一晩ですね。

薄井 あぁそうですね。酒造りは一晩なんですよ。浸漬時間を一晩置かないと、ほぼほぼ玄米ですから水が入っていかないので。ただ、僕が家で食べるのには流石に一晩は浸けている余裕がなくて。

永山 いや、一晩おくとですね、GABAが増えるんですよ。GABAってのはγ(ガンマ)-アミノ酪酸ですね。これは非常に精神安定効果が高いと、それと脳の老化を阻止するんですね。発想力が豊かになる。実は酒造りっていうのは非常に伝統的で踏襲する造り方って言われているんですけども、その代わりに、新しい化学が加わっていくんですよ。そういう発想力ってのは現代でも繋がっているんですよ。γ-アミノ酪酸がないとダメですね、人間の脳に。そういう完璧にするために、玄米食べてると思うんだけども。そういうことを考えるとやっぱり江戸時代のように、長屋のおかみさんだって、それだけするんだから。前の晩日に漬けて朝一番に起きてそれで炊飯する。GABAライスですよね。

薄井 なるほど。寝る前にやっておけば、朝からGABAライス!酒でやってるんだから、普段食べる玄米もGABAライス!

永山 そうです。そうすると、玄米だと発芽しようとします。発芽しようとすると、そこにγ-アミノ酪酸が発生するんですよ。それが非常に健康にいい。そういう生きた状態で作るのと、機械的に米を蒸してしまうのと、やっぱり違うと思うんですね。だから「仙禽」はね、GABAが多いわけで。寝る前に飲むの凄くいいですね。精神が安定するというか。GABAが多いと深く眠るんですよ。

薄井 そうですね。深く眠りにつけると思います。
 
永山 薄井さんがされてるように、より完全に近い状態で江戸式の酒に回帰しようとする造り手が増えてほしい。

薄井 頑張ります。

永山 日本の酒造りは江戸時代の特に後半の文化文政の頃、非常に盛んになってきたでしょう、何故酒造りが盛んになったかっていうとグルメ時代になるんですよ。

薄井 まさにEDOスタイル! この続きは、次回に。江戸時代のグルメ話を楽しみにしています。


仕事場に飾られた永山さん直筆の古代食の絵

※中編に続く

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