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旅館経営者がオリジナルの絵本をつくる、ホントの理由

こんにちは! 三重県の伊勢神宮にほど近い伊勢志摩国立公園のなかにある旅館「扇芳閣」公式noteへご訪問いただき、誠にありがとうございます。5代目・経営者の谷口優太です。
 
今回は、旅館である扇芳閣が大規模なリブランディングの象徴として手がける、「オリジナル絵本」について書いてみたいと思います。

旅館が絵本をつくることは、日本でも初めてなのではないでしょうか(間違っていたらごめんなさい。仲間がいたら教えてください!)。初めての取り組みを多くの方に知っていただきたく、現在はクラウドファンディングにも挑戦中です。


絵本『オーギーのおやど』クラウドファンディングに挑戦中です!

実際に絵本をつくってみて、地方の旅館ができること、伝えられるメッセージがたくさんあると実感しています。 今回の絵本づくりは、旅館「扇芳閣」にとってもこれまでの歩みや届けたい価値を見つめなおす、本当にいい機会になりました。

そんな絵本づくりのプロセスや、その背景にある旅館ならではの未来への取り組みを、みなさんにもシェアしてみたいと思います。

 

旅館にとって「絵本」はどんな媒体なのか


 
旅館が、なんで「絵本」をつくるの? 疑問に思われる方もいらっしゃると思います。
 
前回のnoteでも触れましたが、私は旅館「扇芳閣」の新たなビジョンとして、「世界中の子育て家族から、最も愛される上質な旅館」を掲げました。

子育て家族の方々を中心に、たくさんの方にアンケートやヒアリングにご協力いただいて、リサーチを進めていくと気づいたことがありました。

それは、旅先では「大人向け」「子ども向け」の体験はそれぞれたくさんありますが、家族が一緒にできる体験は少ない、ということです。

せっかくの家族旅行中に、家族が「一緒に」何かできる時間をつくることができたらいいなと思いました。

どんな時間があるだろうか? と考えているなかで、ふと「絵本」が思い浮かびました。絵本なら、親子をつなぐ大事なアイテムになりえると思いついたのです。

私自身、2021年に父になったことで、小さな子どもに絵本を読み聞かせするようになりました。今も時短で働きながら旅館経営者をしていますが、絵本を読む時間は、子どもと過ごすかけがえのないひとときです。


日常生活では、まだまだママに家事育児の負担が偏りがちな家庭が多いと思いますが、非日常の「旅先」では、パパが育児にかかわるきっかけがつくれたらいいなと思いました。

普段は仕事で夜遅くに帰ることも多いお父さんが、旅館のお部屋で、子どもに絵本を読み聞かせるシーンが浮かんできました。

お部屋で、まず親子が一緒に絵本を読みながら「この旅館には何があるんだろう?」「どんな遊びをしよう」「ここに行ってみようか」という会話が生まれる。そんな親子の時間が絵本で作れるのでは! とひらめいたのです。

館内案内であれば、タブレットを活用して子ども向けに紹介することもできるのではないかと検討したこともありました。ですが、子どもは純粋に「面白い」「可愛い」「楽しいもの」でないと見向きもしてくれません。「遊び場」としての扇芳閣の魅力をわかってもらうためには、ただ情報をまとめるだけでは不十分だと思いました。

子どもは大人をよく見ているので、一方的な情報を与えられるだけでは満足しないだろう、とも感じました。

忙しかったり疲れていたりするとき、私も息子にYouTubeを見せたりすることがありますが、赤ちゃんながらに、私の“体”はその場にあるのに、私の“心”が“どっかに行っている”ことを見抜きます(そうはいっても日常ではむずかしいときもある方が多いと思います)。

子どもと一緒にいるときは、ましてや旅先の「非日常」では、親子の時間を過ごしてもらいたい。それが、どんなおもちゃを買い揃えることよりも大切だと感じました。
 


扇芳閣では積み木としても遊べるアート作品を飾っています

そうした自分の経験と、旅館ならではの体験設計を考えたときに、「やっぱり絵本だ」と決めました。

せっかくなら、オリジナルの絵本が、旅館の大切にしていることや地域の魅力が伝えられる、子どもたちに届ける「旅のしおり」になったらいいなと思いました。

もちろん、絵本ありきで考えたのではなく、リニューアルの構想を進めるうえで、扇芳閣の目指すビジョン「世界中の子育て家族から、最も愛される上質な旅館」の先に、絵本があったらいいなと思った感じです。

扇芳閣のお部屋には、一冊ずつオリジナルの絵本が置いてあります。

ファミリーで、旅館に到着して荷物を置いてくつろいだときや、夜に子どもが寝る前などに、家族で一緒に楽しんでもらえたらうれしいです。


 

旅館がつくる「絵本」はどんな内容なのか

絵本を作ることは決めましたが、どんな絵本にするかは、その時点では決まっていませんでした。

子ども向けの「たびのしおり」はどんな内容になるのだろう?

絵本を読んで、子どもたちには扇芳閣や裏山の森を遊び場と思ってもらいたい。鳥羽湾の海や、旅館の周囲の森には、いろんな生きものが暮らしていて、その生きものの多様性や美しい自然を感じてもらいたい。

絵本自体が、子どもが読んでドキドキ、ワクワクするストーリーなら、それらのメッセージが自然と伝えることができるんじゃないかと思いました。
 
編集の友人たちと絵本プロジェクトを進めるなかで、三重在住の絵本作家のはっとりひろきさんが絵本を描いてくださることになりました。

ご家族で泊まりに来てくださり、鳥羽の自然や裏山の森を感じてくださり、3代目の祖父がDIYした「めだかの学校」も一緒に回りました。


来春完成する「森のアスレチック」の予定地にて。結構な急斜面です。

こうして、はっとりさんはオリジナルの物語を描いてくれました。

しばらくして、初めてラフが届いたときの印象は、「はっとりさん、凄いな...」の一言に尽きました。リニューアルのプロジェクト全体を包み込むような、子どもたちが読んでも楽しめる絵本に仕上げていただきました。

絵本のタイトルは『オーギーのおやど』。森に生きるリスの“オーギー”が主人公の物語です。
 
絵本に登場するキャラクターはオリジナルではあるのですが、全然そうとは思えない。空想の物語とリアルな旅館の舞台が、自然に融合するような物語でした。

旅館のある鳥羽が舞台になっていて、当旅館でもよく見かけるサルやカゴメ、そして子どもの頃によく見た主人公のリスなど、たくさんの生きものが登場します。

物語には、いろんな生きものや多世代のファミリーが登場します。森に“おやど”を作り、いろんな個性を持つお客さんを泊めようと、オーギーは仲間たちと奮闘していきます。


私からすると、自分自身が主人公になって冒険している気になりました。何より、旅館業を通じて自分が作っていきたい世界が絵本の中にありました。
 
物語には、ある生きものがオーギーのおやどに泊まりにくるのですが、大きすぎて、部屋に泊まれなかったエピソードも描かれています。
 
この部分を読みながら、これは絵本だけの話ではないと感じました。

日本国内には旅館やホテルが5万件以上あるにもかかわらず、まだまだ子育て家族も含めて、すべての人にとって快く旅行できる環境、社会は充分整えられていないと教えてもらったような気がします。

そんな気づきも散りばめられた、オーギーの物語。

絵本をきっかけにして、いろんな個性のある子育て家族にも、扇芳閣での宿泊を楽しんでもらって、子どもたちと上質な時間を過ごしてもらいたいと思っています。

来春完成予定の「森のアスレチック」

  
 

「森」を舞台にした、ホントの理由


 
こうして鳥羽の豊かな自然を舞台にした絵本ができあがりましたが、私が森にこだわったのは、私自身がまさに「森に助けられたから」です。
 
小さい頃から、旅館の裏山にある木に登って遊ぶ少年でした。

私は、いまもそうですが小さい頃からぽっちゃりしていて、小学3年生のときには、三重県で一番大きな病院の肥満病棟に入院したほど太っていました(笑)。

ぽっちゃりした体型のおかげで、友だちからは普段よくいじられるキャラでもありました。
 
でも、森での遊びはすごく上手で、山の中ではまるで人が変わったようでした。かけっこは一番速く、木登りも誰よりも速く一番上まで登ることができました。急斜面を物怖じせずに、駆け下りることができたのです。

「秘密基地をここに作ろう!」と友だちに指示を出して、みんなで遊ぶこともよくありました。

いまでも急な斜面をスイスイ降りることができます

森という場所に助けられた。

私はそう確信しています。森のおかげで、人として成長でき、リーダーシップを培うことができ、自己肯定感を持てた。だからこそ、この鳥羽の森を大事にしていきたい。次の世代に自然をつなげていくことにパッションを持つようになったのです。

そんな思いもあって、扇芳閣のリニューアルでは私が遊んでいた裏山に「森のアスレチック」を作りました。子どもたちには、絵本のオーギーのように、自然をフィールドに一人ひとりの冒険を楽しんでもらいたいです。 
 

自然の共存する旅館業のかたち

 
さらに、子どもの頃の原体験だけではなく、旅館経営者として、これからの「自然」と「旅館」の関わりを考えていくことも大切だと思っています。

これまでの旅館は、やはり環境や社会にプラスの影響だけを与えていたわけではない、と思います。むしろ環境負荷をかけていた存在でもあったでしょう。

コロナ禍以前は「オーバーツーリズム」という言葉もあるように、自然環境や社会に負担してもらいながら、その土地を消費するかたちで旅行業が成り立っていたところもあると思います。
 
たくさん温泉を掘ること、ゴミ処理のこと、自然を切り拓いて旅館を作ること......。私たち扇芳閣も含め、これまでの観光業、旅館業は、これらのさまざまな問題に目をつむってきたともいえるでしょう。
 
でも、これからの100年を考えたときに、同じことはできません。

扇芳閣の裏山には、サルが住んでいるので、他人事ではありません。

扇芳閣は、森の整備費用を毎年計上していますが、あらためて周囲にある山、その先にある海をどう整えていくのかも含めて、地域の自然を守るうえで、観光業、旅館業もまた大事なステークホルダーのひとつとしての姿勢が重要になってくるはずです


オリジナルの絵本の物語は、純粋に子どもが読んで楽しめる素晴らしい物語になりましたが、この絵本プロジェクト自体は、そうした観光業の課題や未来への問いも投げかけていると思います。

私は、将来的には裏山の木からできた紙で、絵本を作ってみたいです。

「今、本を買うことはできます。絵本が届くのは、木が育った20年後」

そんな、世代を超えないと、手元に届かない本も作ってみたくないですか?

旅館の世界でも、女将は「子どもだったお客さんが親になって、その子どもと一緒にもう一度訪れてきてくれたら一人前」と表現されることもあります。旅館は、世代を超えて大切にしてくださる方々に支えられています。

世代を超えるものを作ることは、2世代、3世代先を意識する機会にもなり、リアリティをもって自然との共生を考えていくことにもつながります。

いま旅館「扇芳閣」を訪れた子どもたちが大きくなったときも、変わらずに鳥羽の豊かな自然が残っているように、自分ができることを考えていきたい。同じように、日本全国の豊かな自然も残していきたいと思います。

この絵本が、そんな役割を担うきっかけになったらいいなと思います。 

ここまで読んでくださったみなさま、
👇クラウドファンディングの応援もよろしくお願いします!
✨ネクストゴール達成しました。ありがとうございます!✨
》子育て家族に最も愛される旅館」めざして、"子どもと楽しめる絵本"をつくりたい!

 
 
 
 
 
 
 


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