#web夏企画 あの夏を幻視する 作品感想(全作品有)

参加させていただいたweb上の企画、
「#web夏企画 あの夏を幻視する」にて公開されている作品たちを読んだ感想をまとめた記事です。

基本的にはTwitterで呟いた感想を自分が見やすいようにした感じですが、note掲載版は字数を気にしていないので、ちょっとニュアンスや書き方が違うかもしれないです。
(時系列的にはnote→ほぼ感想原版+推敲、twitter→原版を1Tweetに収めた版みたいな感じです)

◆Twitter版感想(スレッド形式)


01~05

01 水際に種 / こうあま様
描写の美しい廃墟や植物と、アルバの心情が重なりました。
物語後半になるにつれて植物の種とアルバの精神や心理の状態の回復描写が少しずつ成され、再生を予感させる所が好きです。
個人的に第一印象がミステリアスに思えたマルテは、意外とアルバと似たもの同士なのかも? と思いました。


02 波打ち際によって / 椎名由騎様
「少女の歩幅では遠く感じる海」というところから、主人公はなんとなく少女のなかでも割と幼い年齢の子なのかなと感じました。(個人的には小学校低学年くらいまでの年齢? のイメージ)
ただ近くに行きたいという真っ直ぐな気持ちや、砂浜の熱さ冷たさを素直に感じている様がとてもノスタルジックです。


03 群青の夏、命尽きても / 空き缶様
文系と理系、違う視点を持ちながらもどこか似ている二人でした。
和哉の方は淡々としつつも心が常に少し揺らいでいる(この表現が合っている気がする)、その中に芯の通った想いがあり、悠乃の方は普段は定規で引かれた直線のようでいて、所々感情で揺らぎが入るような感覚。「虚像」の下りを最後にしっかりもってきて、おお、と思いました。三話目のタイトル「島、ひまわり畑、花言葉」が、カメラがまず島を遠めに写して、そこからひまわり畑、その中の一本のひまわり……とズームしていくようで、二人の心情に入っていくような感覚がして好きです。



04 空 / 一青悠様
こういう系統の青色が個人的に好きです。
空の青が深く映る水辺、波紋と少年。水面の中にいる少年がまるで空のなかを泳いでいるような、飛んでいるような感じで涼し気な気分になります。なんとなくアンニュイっぽい感じが好き。(自信がないですが、影は飛行機……? とか考えると、勝手に考察やストーリーが捗ったりします)



05 悪魔の魂 / 館長仮名様
前半と後半で雰囲気がガラッと変わって新鮮でした。
読み返してみると伏線だったり、結末から主人公の状態や少女の意図を考察したくなりますね。
特に後半の展開や言い回しがなんとなくアリス系統のような、童話チックな印象。小瓶の設定とラムネ瓶とのリンクが好き。白猫の方は大丈夫なのか、とても気になります。


06~10

06 あやかし筋と夏の講 / 雲晴夏木様
二人の関係性やキャラクターが好きです。お互いに素直そうな感じが好み。
方言のくだけた感じがまたひとつ文章のスパイスになっていて可愛らしいなあと思いました。中盤の衝撃的なシーン以降は切なさもあり、青春だなあとしみじみ思いました。
その後がとても気になり、続き(来年?)が読みたいなあと思いました。

07 マツヨイグサ / 漣靖様
幻想的な雰囲気が漂うテキストが良いです。静は傷つきやすくて繊細そうな人なのかもしれないと想像しました。憶えていたいのに憶えていられない、記憶に苦悩する主人公の気持ちに共感します。
タイトル「マツヨイグサ」の花言葉「無言の愛情」、「打ち明けられない恋」あたりが二人の性格のニュアンスに合っていそうな気がしました。

08 草茂る / 南風野さきは様
読んでいて、昔旅行で行った、沖縄にある小さな島を思い出しました。
現れた少年がとてもミステリアスでした(やはり人間ではないのでしょうか……?)。ご当地の神様っぽい気がします。
青(碧)の色使いや描写が印象に残っていて、とても好きな文章でした。

09 追憶。 / aoi.様
繊細で可憐なイメージを想起させるリングデザインが素敵です。
「うつくしいものはいつも遠い。」という言葉が好きです。
シリウスの輝きと、写真の宝石の輝きのイメージがぴったり重なる感じがします。
宝石はダイヤモンド?(星座・冬のダイヤモンドより)宝石言葉を意識して読むと、また一段と味わいが増します。

10 夏の死 / 不可村天晴様
最後の文章を読むと、夏が消えたから夏を人々が恐れているのか、夏を人々が恐れているから夏が消えてしまったのか、考えさせられます。(卵が先か鶏が先か、みたいな)
夏はもうこの世界では非日常で異質なもの、理解しがたく恐れられているものなのだなあと思い、寂しくなりました。主人公は姉を通して今の世界の夏という概念の孤立を知り、それと同時に夏に触れたのだと思います。


11~15

11 還る夏 / うらひと様
主人公にとって君と過ごした夏祭りの日は、時が過ぎてもずっと重要な日になっているのでしょうね。
自分自身を年に一度見つめなおすという意味も込めての「還る」なのかな、と思いました。(ふたりの原点?)
主人公にとって君は半身というのが一番近い関係なのかもしれないですね。ふたりの関係はある意味自然で、ある意味特別なんだと思います。


12 筆を折る / そうま様
昼間に映る夜光虫の赤い色が主人公の辛い思いを反映しているように感じました。
青い空と対比されて主人公の内心の痛みがくっきり、はっきり強く打ち出されています。
なんとなく赤が主人公の血液を彷彿とさせるなあと思いました。
反対に青は主人公自身の思い出や、大切にしてきたものというイメージでした。


13 夏のハジメテ。 / かんざわるい様
最後の終わり方に余韻があってとても良かったです。
あなたが女性、キミが男性で読みましたが、あとがきの通り、性別のライン?のようなものが、ふわーっとしているような感じで、他の小説にはない不思議な感覚がして面白かったです。あなたの性格が、さっぱりとしていながらもキミのことを思いやっているのが伝わってきて、良いなあと思いました。


14 だれかの夏空 / ひざのうらはやお様
そうめんがとても美味しそうでした……!
「だれかの夏空」というタイトルがちゃんとテーマとなっていて、主人公の「ぼく」を通して、ぼくの周囲にいる人のそれぞれの夏が描かれていて、「ぼく」の淡々とした周囲の見方が独特の雰囲気を出していて良かったです。群像劇? みたいな雰囲気で楽しめました。上手く言葉にできませんが、遠いのだけれど意外と近くにある夏、みたいなイメージでした。


15 夏。僕は女子高生とペットボトルで繋がった。 / Mu様
話がとても良かったです。貴志の気持ちも、明日美の気持ちの描写も上手くて、物語の転の部分はハラハラしながら感情移入して読みました……!そして最後のオチも良くて、とても優しく、心地良い気持ちになりました。読了してから振り返ってみると、「逢坂貴志」「綾辻明日美」、ふたりの名前がそれぞれを象徴するかのような名前でとても美しいです。ふたりが繋がるのは運命という感じがします。ペットボトルにバスケットボールで応えるのが素敵でした。


16~20

16 甘いビールと苦い夏 / 糸乃小切様
最後まで読んだ後、「甘くて苦くて、普通のビールの数倍は不味い」という文章を見て、主人公の年月を感じました。(大人になったなあ、と。それと、彼の年月も)
砂糖味のビール、飲んだことがないので、どんな味なんだろうなあと思いました。
現実なのか夢なのか、ふわふわとした彼との時間の描写が素敵でした。


17 ミドーの海 / 神儺様
前半と中盤辺りとで物語の印象が変わる作品でした。文体やそこから滲み出る雰囲気が好きです。
前半の文章の途中で現れるちょっとした違和感のようなものが後で理解して一つの線になるようでした。あちこちの情報が主人公の状態とリンクし、印象深かったです。
多くの登場人物の名前がカタカナであることが時の流れを感じさせる気がします。
色んな人の視点から、この世界の今後がどうなってしまうのかが気になる作品でした。


18 行ってしまった夏の話 / せらひかり様
懐かしさ、恋しさ(思い出)をテーマにした作品かなと思いました。
作品の中には「なんてことない」ものがいくつか出てくるのですが、その「なんてことない」ものが、実際はとても大切だったりするのだと思います。思い出を宿したものは、どんなに平凡なものでも愛おしいものになるのだと、改めて思いました。


19 明日もきみに会いに行く / みたか様
ふたりの爽やかな交流が心地よくて、夏らしさを感じました。
「彼の目は真っ直ぐで、嘘をついたことのない赤ん坊のような瞳だった。」という一文が好きで、また、その想像通り、素直さが溢れるような性格をしており、そこが良かったです。僕の方もまた別の素直さを持っているのが、青春という感じがしました。
日常の中に小さな光が、ぽっと灯るような作品でした。


20 あの夏で待っていて / 早藤尚様
主人公の「ぼく」は彼氏らしいところを見せられないことにコンプレックスを抱いているけれども、彼女の「きみ」はきっとそんな不器用な「ぼく」のことが好きなのだなあと感じました。彼女が年上でお姉さんの、落ち着いた、ゆったりした雰囲気が好きです。
読み終わった後、「あの夏で待っていて」というタイトルがとても優しくて可愛らしいと思いました。


21~25

21 祈還 / 鳥鳴コヱス様
主人公が戻ってきたのはお盆だからなのか、現世に未練があったのか、それとも由愛の願いなのか。由愛が切ないなあと思いながら読みました。
祈還(きかん)=帰還のダブルミーニングも結構好きです。「かえろう」や「ゆくひと」も好き。
最終的に主人公と由愛はどういう結末を辿るのか、続きが気になる作品です。


22 トワの夏 / 仲野識様
小説の内容やタイトルから、この小説の内容自体が「トワの夏」という小説内小説(?)なのかもしれないと思いました。タイトルは、ふたりのエピソードから生まれた小説=二人の子供というニュアンスを含んでいるのだと思います。
展示していた小説『うたうむらさき星』と、星(あかり)という名前が運命的で、良いなあと思いました。


23 初恋レモネード / 小倉さつき様
初恋×レモネードは甘酸っぱくて青春っぽくて良いですね!
女の子の初々しそうな表情と可愛らしい表情が素敵です。レモンの羽根が妖精っぽくてファンシーでした。レモンの切り口が綺麗に丁寧に描かれており瑞々しく、ジューシーで美味しそう。
レモネードを久しぶりに飲みたくなってきました!絵に添えられている一言にもキュンとしました。


24 彩りの湖 / ダーハナ様
優しい気持ちになれる作品です。
お姉さんは、自分自身に素直になれないでいる少年に自分の姿を重ねたのだろうなと思いました。好きなものを好きなように描くこと=素直になること。少年にアドバイスすることによって、お姉さん自身も前に進むことができたのかなと思いました。
麦わら帽子は当時の少年のものかな……? とか、色々想像して楽しくなりました!


25 弔いのりんご飴 / 湖上比恋乃様
主人公の「私」があの子を思い出し弔っていく、その静かな雰囲気が素敵でした。
ミズカミくんの漢字がどれなのか、水上や水神など、色々想像したくなります。あの子であるタマキの漢字は環なのかなあとか(完全に憶測ですが)
主人公が来ている浴衣の紫陽花も"水"をイメージさせ、全体的に青色で綺麗な情景のある小説という印象を持ちました。


26~30

26 あの夏、木陰で会う君は / せらひかり様
イラストの雰囲気、特にグラデーションの感じが好きです。
二人の関係が気になって色々想像してしまいました。右側の子は「幽霊」でもあり、「天使」でもあるのかなと思いました。
静かで穏やかな雰囲気でありながら、何かがありそうな二人で、この絵のバックグラウンドというか、ストーリーが見てみたくなる作品でした。


27 ふたりでショパン / s8様
ふたりのやりとりが軽快で心地よく、テンポよく読ませてくれる作品でした。
読み進めていくと、「ふたりでショパン」というタイトルが、表層的な意味だけでなく、ちゃんとしたエピソードがあった所にぐっときました。
軽口を叩き合いながら信頼し合っている、ふたりの絆がとても良かったです!
音楽に関する知識や解説が所々出てきて、とてもしっかりと書かれているので、驚くとともにすごいなあと思いました!


28 Which curry would you like? / ECO様
夏至カレーというものを初めて知りました。
後輩の奈々はどういう経緯で夏至カレーを知ったのか、個人的に興味を持ちました。
放送部の皆、カレーが好きなのだなあと感じ、今回の主要人物(特に菜月さん)のカレー愛はすごいなあと思いました!
色んなカレーの食べ比べ、実際にやってみたくなりますね。
ふたりの仲の良さを言い表すなら「コンビ」というのがふさわしそうで、まさに息の合った会話のやり取りだと思います。


29 夏は20,000メートルの庭 / 佐々木海月様
タイトルの前に文章が入っていて、映画の始まり(?)みたいな構成だと思いました。
長年の友人同士の程よい距離感に共感しました。何となくわかる気がします。静かだけれど確かなふたりの絆を感じる文体が、とても良かったです。
たくさんの希望を持っていた子供時代と現実を知った大人時代の対比が少し切ないですね。
20,000メートルは「海底二万哩」のタイトルオマージュかなあと思いました。


30 彼女と私の再会 / 豊羽縁様
双子みたいに波長の合う、ふたりの再会話。
何気ないキッカケでも、そのことが気になってしまうことは現実でもあるなあと思います。
最初に再会した時のふたりが、久しぶりに会って少しよそよそしいのが、なんとなくリアルだなあと思いました。
碧と真紀がまた昔のように戻れそうな予感がする、ほっとするような終わり方になって良かったと思います。


31~35

31 走馬灯 / 守宮泉様
不思議な感覚のする小説でした。
まるで館が生きているかのようで、織江は館が最後に振り返った記憶(つまり、走馬灯)の中に迷い込んでしまったように感じました。
織江が生きた歳月から導き出される、からっと、淡々とした性格の文体がいい味を出しています。
館がなくなってしまったことに少し寂しさを感じながらも、前向きな織江の最後の言葉が良かったです。


32 ぬましずむ / ツカノアラシ様
「ぬましずむ」タイトルにもなっている、そのシーンの描写が好きです。ひたひた、ひたひたと、静かに迫ってくる雰囲気が良いなあと思います。
「あの夏」、それは過去のことで、もう私は死んでしまっていて、魂だけがさ迷っている状態になってしまっていたのかなあと思いますが、逆に未来の話と仮定しても面白いなと思ったりします。
少年の方は実年齢が少年ではなさそうで、とてもミステリアスな雰囲気でした。


33 空より青い既視感 / 梔子花様
護るべき人がいる、そのことが僕を現実に繋ぎとめる。人の絆の美しさを感じた作品でした。記憶や既視感に拘らないこと=僕の精神的な強さ(過去より強くなった、成長したこと)の証なのかもしれないですね。
登場人物の名前が夏らしさを感じるネーミングで良いです。
井戸のモデル場所? の柿田川公園がとても綺麗で、興味が湧きました。


34 小夜の日記 / 九条ねぎ様
日記を読んでいる内に小夜に感情移入して読んでしまいました。紗夜には申し訳ないと思いつつ、時を超えて想い続けた願いが叶って良かったなあと感動しました。運命的な日に紗夜が生まれてきてくれて、小夜は本当に嬉しかったのだなと思います。
ふたりとも、やっと再会できて良かったね、おめでとう! と言いたくなる最後でした。


35 あの日の色に水は凪ぐ / ワタリマコト様
自然の温かさが居心地の良い作品でした。
公園の噴水が見せてくれたのは、季節の記憶であり、私の記憶であり……文章から視える光景が色鮮やかで美しいです。
温かみのある文体が、読後感を優しく穏やかにさせてくれました。最後の文章もまた新たな光が生まれるラストのようで、素敵でした。


36~40

36 夏の色、0の記憶 ‐XXXX年‐ / 千梨
自分の提出作品。(作者視点感想)
断片的に描きたいことは定まっていましたが、虹という結末にたどり着くまでが難産でした。
ファンタジー+SFっぽさも出したかったけど難しかったですね、SFは最近の課題なのでもっと精進していきたい。(SFというかサイエンス? 科学?)
ご感想やハート等たくさん頂けて感謝です。ありがとうございます!!


37 練習帰りのソフトクリームがいつも楽しみだった / 月並海様
話せない私と話さない彼女の空気が切なかったです。
語り手である私のやるせなさが伝わってきました。
理由を知ってから読むと、「でもきっと今年は一緒にソロが吹けないから」という一言が重いですね……。最後の、私の思いと彼女の思いの違いがもどかしかったです。
彼女は良い子だなあと思いました。


38 花火を映すりんご飴 / 葉月らびこ様
真っ赤なりんご飴のなかに花火が映っていて、夏をぎゅっと詰め込んだようなイメージでとても素敵でした!
説明文も素敵で、実際にこのりんご飴があるような気がしてきます。りんごの赤さと飴の光具合が綺麗で、とても美味しそうです。
花火のグラデーションの感じも綺麗で、色んな夏を映してみたいなあと思いました。


39 天使のいる構図 / 深山瀬怜様
アスターも言及していますが、この町のシステムは一体どうなっているのだろうなあと、そこに興味が湧きました。少年が少年でなくなったとき、どこへ行くのでしょう。
アングレカム、アスター、ネメシア。花の名前ですが、この世界の人たちが祈りを込めてつけた名前なのかなあと思いました。(アスターやネメシアのお母さん、昔の人々)
ふたりは後から生まれる天使でなくなった少年たちの希望になれたのだと思います。


40 カモメのお姉さんと、夏の約束。 / しまこ様
優しく穏やかな文体の物語でした。内容もほんわか、ほっこりという感じです。
カモメのお姉さんは、カモメになりたい「ウミネコ」みたいなイメージで、主人公は祖母の家にやってきた「カモメ」みたいなイメージでした。それで似た者同士なのかなあとも思います。
「君みたいないい子が邪魔なわけない」と、「カモメは優しくなれる方を選ぶから、大丈夫」と、お母さんの彼氏さんが求婚しにくる場面が好きです。


41~45

41 蚊の飛ぶ季節に / 黒歌詞様
ふたりの友情がとてもあたたかく、そして切ないお話でした。
ふたりの会話が、親友同士らしく、お互いに気を許していることが伝わってくるようでした。気の置けない仲なのだなあと。
「いくら大事な存在だったとしても~心の片隅に引っかけておくだけ。」あたりのシーンが前向き半分、切なさ半分、みたいな感覚がして好きです。


42 アオの香り / 来夏様
アオの液体が入った香水、欲しいなあと思いました。
読んでいて、自分も主人公のようにそのアオの香りに包まれて、一緒にマボロシを見ているような気分になります。
アオが見せる記憶は一体誰の記憶なのか……語り手なのか、別の誰かなのか、それとも人類の記憶に刻まれた思い出なのか、想像が膨らみます。
名前をつけると愛着が湧いてしまう、その気持ちがよく分かりました。


43 彼のピアノが奏でる夏の / 伊古野わらび様
芸術系の雰囲気をまとったふたりでした。
音の雰囲気、揺らぎを視覚(嗅覚から立ち上った視覚、みたいな感じ)で表しているのが見事でした。わたしだけにしか分からない、わたしだけの夏。最後の文章の余韻が素敵です。
音が聞こえなくなってしまった代わりに、彼のピアノを匂いで感じるようになったわたしと、わたしのために手話を覚えた彼。お互いの愛が心に沁み込んでいきました。

44 summer in a sense / 天霧朱雀様
「リビングデッド・メディアは、再生されなければ死体と大差ない、て言いたいの?」という言葉がありますが、まさに今、ササラの記録を読み手が再生しているような気分になりました。これを再生しているとき、この世界は今どうなっているのでしょうか、とても気になります。ササラにとって、この記録自体が、夏というワードと紐づけられて、メディアの中に刻まれたのだと感じました。


45 あの夏に彼女がいる / 彼住遠子様
web夏企画、キービジュアルのアナザー的作品とのことで、キービジュアル含めて美味しい作品でした。
タイトルと、イラストに添えられたテキストも踏まえて、「あの夏に彼女がいる(ということは、ここにはいない)」という意味にも思えて、少し切なくなりました。空が綺麗で幻想的です(キービジュアル版の青空も好きです)。
「あの夏」の名残りを見ているかのようでした。


46~50

46 The Summer without, River imp. / 樹真一様
「カッパ」という言葉に「河童」と「合羽」の意味合いがあって、最初の一文には騙されました。(河童だと思っていた)
視覚的な文章力の高さがすごかったです。文章の映像表現力もそうですが、文字に対する視覚効果(分かりやすい所でいうと、「孤独」のシーン)もいくつかの箇所に取り入れてあって新鮮で、こういう表現の仕方もあるなあと、創作者側の視点で見ても面白かったです。


47 最果てを探す / 楠木千佳様
彼らの願う最果てが、果たしてこの世にあるのかどうなのか、考えると切なくなります。
和風ファンタジーの、人と鬼の種を超えた愛。鬼の姫が亡くなっても、彼女を想い続ける男が素敵でした。「死してなお、憎悪を宿した目が男を射抜く。」という描写が生々しいリアリティがあって好きです。
可能性が低くても、いつか彼が『最果て』を見つけられたら良いなあと思います。


48 幻視。かつて、確かにそこに在ったもの。 / 澄乎様
三つの短編による夏の幻視。どれも美しいです。
『蜃気楼』では、きみにわたしは視えていないのかなあと思いました。もし視えていなかったら、想いは同じでも交わらない感じが、なんとも切ないなあと思います。『siesta』では、猫の視点から見た人間の一日がコミカルで可愛らしかったです。『淡い木陰色の君』はまた切なく寂しげな空気感が好きです。ビー玉の描写が素敵でした。


49 あんたはね、あたしたちの孫よ / 春木のん様
時間によって変わるものがあるのと同様に、変わらないものもあるのだということを教えてくれた作品でした。
祖母の家へ帰省中の何気ない出来事を淡々と描写していくのですが、その文体が逆に、どんなことがあっても揺るがない絆のようなものを感じさせてくれました。ほっこりします。
「あんたはね、あたしたちの孫よ」このタイトル(台詞)に集約されるなあと感じました。


50 潮がなければ汐もない。 / ほしのまち様
「嫌だな」という言葉のリフレインがじわじわと心に響いてきて、切なさの余韻が残るような作品だなあと思いました。
潮と汐、朝と夕。それぞれ似通った部分がありながらも異なる存在。そして、対となりうる存在。だからこそ夕にとって朝は眩しく映るのかもしれないです。
夕と同じように朝も、心のなかで別れの予感があったのでしょうか。「元気の足りない顔」という言葉が印象に残りました。


51~55

51 夏について / 一人文芸倶楽部Tower117様
沢山の夏が詰め込まれた夏の宝石箱を見ているかのようでした。
さまざまな形式で描かれているのが興味深く、多彩だなあと思います。
作品によって、夏の視点が違っていて、不穏な灼熱がただようものから、爽やかな夏風が吹く作品まであり、楽しませていただきました。
五行歌の抒情的な雰囲気や短歌の想像が膨らんでいくような感覚が好きです。


52 君が塗りかえて / 春咲雨様
ふたりの関係の距離感が素晴らしかったです。
対称的な趣味(?)を持つふたりですが、馬が合っていて仲が良いことが伝わってきます。
また会話の感じから、ふたりの気遣いのいらない距離感がお互いにとって、とても居心地の良いものだと感じました。こういうさっぱりしているけれどもお互いに繋がっているという関係は憧れます。
夜光虫が現れた辺りからの流れがとても素敵で、お気に入りのシーンです。


53 歌姫の回想 / 鶏林書笈様
朝鮮王朝時代もの、ということで、和とも洋とも違う雰囲気が漂っています。静かな文体が情緒がある感じで素敵です。
調べてみたところ、登場人物は実在する歴史上の人物であるのかなと思いました。
芸に秀でている桂繊。彼女の話し方が堂々としている印象を受け、とてもしっかりとした女性であったのかなあと感じました。


54 ラムネ色のプールサイド / きき様
「僕」の気持ちも、「永山先輩」の気持ちも分かるなあと思いながら読みました。思春期にある自意識の目覚め?みたいな感じです。
また、自分から見た他者のあるべき姿(理想像)的な考え方も、分かるなと思いました。永山葵の「永山先輩」は、彼女の一側面でしかなかったことに今回の体験を通して僕は気がつきます。ふたりの関係が良い方へ向かうことを暗示した、「葵ちゃん」というオチが素敵でした。


55 ラムネ / hamapito様
切ないお話でした。
ラムネを使った主人公の「私」の心情描写が見事でした。まさに「ラムネ」というタイトルがぴったりで、話全体の運び方がラムネの栓を開ける時の作中描写と重なるように感じます。
気持ちをはき出すことによって、最後が「私」にとっての救いのシーンになって良かったなと、ほっとしました。岬くんがこれからの「私」を支えてくれる人の一人になればいいなあと思います。


56~60

56 溶けない記憶とバニラ・アイスクリーム / 黒岡衛星様
まずタイトルが良いなあと思いました。
夏音が不思議な子ですが、彼女の言葉選びがふわっとしていながら、言いたいことが想像できるところが好きです。
スーパーカップにこだわる理由も好きです。
最後の、わたしにとっての夏音のイメージや、終わり方がタイトルにかかわっていて、読後感が印象に残るところが素敵で良い作品でした。


57 空を走るあなた / まつやちかこ様
私とあなたの関係が少しずつ進んでいくところが魅力的でした。
「見とれていた」と正直に答える「私」はとても素直で純粋そうで、また「あなた」の方も優しそうで、良い子たちだなあと思いました。
静かな文体が「私」の性格を表していて、喜怒哀楽がじんわりと染み入るようでした。空を走るあなた、ラストシーンも切ないながら、「私」の気持ちが変化していくことにカタルシスを感じます。


58 うみかぜ / 石燕鴎様
「幻想」の二文字が合う作品です。
日本のどこかにありそうな不思議な昔話のようでした。
「磯崎神社」は大洗磯前神社っぽいなあと思ったり、祀られている神様的に最後のオチは結構納得したりしました(推測ですが)。
朝凪が吹くところからのシーンの動きが目に見えるように鮮やかで素敵です。
海にある鳥居を実際に見てみたいなあと思いました。


59 『葬列は見られない』 / のうみそ様
タイトルの件名で送られた旧友からのメール。
語り手の「自分」が振り返った友人の様子から、不思議な子だったのかなあと感じました。
そして、その件名だけで彼女が死んだことを想像できるくらい、語り手と友人は仲が良かったのだと思います。
最後のシーンで友人の死を自覚した時のふっとした瞬間の余韻が好きです。


60 「おかえりなさい。」 / おへそ様
彼女は、視点になっている人(男の人?)の思い出の中の人なのかなと感じました。
日没のオレンジの感じが懐かしさを想起させます。
「おかえりなさい。」は彼女の言葉かなと思いました。
このふたりがどんな関係であるか、詳細には判りませんが、きっとお互いに良い関係だったのだろうと、絵の雰囲気から感じられます。


61~65

61 朱夏のエンドロール / 冬野瞠様
読んでいくにつれて段々とホラー色が増していく作品でした。
中原中也さんの詩のイメージから始まり、どこにたどり着くのかは分かりませんが、たどり着いた先は死、もしくは死よりも暗いものではないかと思わせられます。
じわじわと精神が削られていきそうな描写がすごいです。女の正体が気になりますが、気づいてしまったらいけないような気にもなります。


62 夏男 / 八重土竜様
自然体な感じがする文体が心地よいです。女が「アイス、アイス」と階段を降りていくシーンが躍動感があり、特に好きです。
夏男は夏を象徴する存在なのでしょうか、普通の人間ではなさそうです。ラストシーンの夏男の存在感が良いです。夏が過ぎても、どこか別の暑い場所で夏を売っていそうだなあと思いました。


63 アイスクリームくらいの愛なら / 冬木ゆふ様
淡々とした文体から、読めば読むほどアイスクリームの味がしてくるような作品でした。
アイスクリームくらいの愛……どれくらいなのだろうと読み進めて行きましたが、深いなあと思いました。語り手の「私」を通して、姉の「私」に対する、深い家族愛が染み出てくるようでした。やはり物語の核になるアイスクリームの回想のシーンがそれぞれ好きです。


64 炎天下の幽霊 / アオ様
詩音と美月が、初対面時にお互いに幽霊だと思っている場面が、後の展開を考えると興味深いなあと思います。お互いに別世界の存在であるということが強調されているような気がします。
自分の現実の肉体とコンタクトが取れないというのは、改めて考えると恐ろしいですね。
出てくる短歌のひとつひとつが魅力的で素敵だなあと思います。


65 しじまにて / 山城よる様
ひまわりを選ぶシーンが色鮮やかで花言葉も相まって素敵です。
「心臓が二つある」という言葉が良いなあと思いました。
海という一つの言葉といえど、彼の海と私の海、それぞれイメージが異なり、読んでいる内に二つが重なってくるような、そんな印象的な感覚がします。
語り手の「私」は今はまだ寂しくて泣いてしまうけれども、彼との子供を産んで、一緒に笑える日が来るようになれば良いなあと思います。


66~70

66 青春アップデート / 秋桜みりや様
個人的にはタイトルと話の展開にギャップがあり、意外性のある作品だなあと思いました。
会計係の彼が皆から嫌われていて、作品内だけだとちょっと可哀想になりましたが、やはりそれだけ普段から嫌な印象を与えていたのかなあとも思いました。(でもお金持ちでなければこんなことにもならなかったかもしれないと思うと悲しい境遇ですね)


67 アクアリウム・アンティーク / 毛野智人様
話の流れや文体が好みの作品です。
「僕の見立ては合っていますね」等と言うシーンは、語り手の「私」が品物を買うと言いだしたのにもかかわらず、男が「私」を選んで店に引き入れたかと錯覚してしまいそうになるような素敵な雰囲気だなあと思います。
そして、「私」と「実也子」の関係への決着のつけ方。美しかったです。古風な雰囲気も相まって、素敵な幻想譚でした。


68 白昼夢のアイスキャンデー / 深夜様
江戸川乱歩「白昼夢」後の、別視点を見ているような気になりました。「白昼夢」では狂人を自覚していた(ように見える)店主が、逆に狂人であったことを否応なしに自覚させられるような展開で(結局最後まで認める素振りはしませんが)、奇妙で怪しげな感覚を受けます。店主によって永久に捕えられたはずの妻が、自らの意志で永久から逃れていく姿は、古風な文体でありながら現代チックでもあるなあと感じました。


69 夏の涯 / 新熾イブ様
最後に明かされる事実にびっくりすると共に、何故このふたりが一緒になれなかったのか納得しました。乙葉には幸せになって欲しかったです。でもある意味このまま結婚するよりは乙葉にとっては良かったのかなあとも思いました(苦肉の策かもしれませんが)。僕は幸せになって欲しかったけれど、彼女にとってはそれは幸せではなかったのですね。読み直すとふたりの仲の良さが余計心に沁みます。


70 青写真を描く / 唯代終様
サクヤとミサキ、創作をするふたりの違いはモチベーションになる部分の違いなのでしょうね。サクヤは創作をすること自体を楽しむ(他者からの評価を気にしない)タイプで、ミサキは作品を評価してもらうことがモチベーションになっている。サクヤとのやりとりから考えると、ミサキは寂しがり屋なのかもしれないなあと感じました。


71~75

71 跡 / 紫伊様
少し宙に浮いたような不思議な雰囲気のする?文体が好きです。
星見草郵便局みたいな不思議な場所が、現実の日常の中にもどこかにあって欲しいなあと思います。登場人物の呼び名がみざる、いわざる、きかざるという印象的な名前と、対する語り手の呼び名は佐藤さん。日本で多い苗字で呼ぶのは、本物の名前で呼ぶとあの世へ呼ばれてしまうのかもしれないです。会いたいのは父だけれど手紙が母から来るのも何か良いですね。


72 スナヅツの底 / 榎坂祥様
物語後の展開が気になる作品です。
落ち着いた文体から流れる滔々としたファンタジックな物語が良いです。
スナヅツの底にあるのは一体何なのでしょうね。読者の観点から見れば「死」の概念を理解しているので、希望がないかのようにも思えるのですが、「死」の概念がなく、祈りを手にした語り手の「僕」には希望があるのでしょう。かつて首長翼竜が、何かを守るためにスナヅツの底へ向かったと信じたいです。守るということ自体が希望があればこその行為だと思います。


73 失われた夏 / 紺堂カヤ様
感覚を失ってしまったら、人間はものに名前をつけることができるのでしょうか?
そんなことを考えさせられた作品です。五感があるからこそ、人間は定義を行うことが出来る。その感覚が失われてしまえば、概念というものが崩れてしまうのかもしれないですね。
和紗は五感を思い込みだと表現します。和紗は現実に存在していたのか……和紗を認識することができなくなった私にはもはや知ることができませんが、知覚できないというのは存在しないということと同義なのかもしれません。


74 恋影レーヴ / 七夕ねむり様
色々な意味で青春で良いなあと思いました。
真宮君のキャラクターが人間味がある感じがして好きです。「叱られた賢い犬」という描写が真宮君がどんな表情をしているのか想像できるなあと思います。
この言葉以外にも、比喩表現が上手で、はっとさせられるような描写が多いなあと感じました(「霧の膜」など)。最後の何か新しい風が吹いたかのような爽やかなシーンが素敵でした。


75 たまゆらの季節を憶う / 詩月すずの様
平安時代の情緒溢れる作品です。
姫君の葵のほろ苦い回想がラストシーンを際立たせていました。
喧嘩別れ?をしてから、男君の文を一切見なかった葵ですが、一体そこには何が書かれていたのでしょうか。とても気になります。
回想シーンから、きっと葵も男君もお互いのことを好きだったのではないかなと思うので、最後のシーンが良かったなあと思いました。


76~80

76 魂の揺りかご / 三上優記様
強い未練を残している場合たどり着く場所。「俺(高里裕斗)」は、一度は自殺をしたものの、再び現世に希望を見出そうとします。同じ死者仲間?である「桐山夏鈴」と「俺」は、お互いの会話を通じて前に進もうとする。辛いことがあると分かっていても前に進める人は強いと思います。それに辛いことがある分だけ、良いこともあるのですよね。
ランタンの中に入って海に揺られていくラストシーンが素敵でした。


77 絶景甘味タイム / ミズキカオル様
色味がポップでファンシーで可愛らしいです。
この絵を見て、そういえば空の上は寒いんだよなあと思いだしました。雲の上はいつも夏気分の女の子が住んでいて、アイスクリームが好物。そんな感じのストーリーを想起させるイラストです。色とりどりの雷や雲も食べてみたら甘くて美味しかったりするのかなあと思い、わくわくさせてくれます。


78 うみべのおうち / 笹波ことみ様
砂漠ジラだったり、月クラゲだったり、星屑ダージリンだったり……物語に出てくる言葉がとても好きです。
「へんてこな家に住んでいた女の子の話」は、まるでもうひとりの「わたし」の話のようにも思えました。
命が巡り、また再生する。夏という希望を見つける物語なんだなあと思いました。夏が再生したようなラストがとても良かったです。


79 遺り香 / HACHI様
切ないお話でした。
センパイの真実を海子は知らなさそうだなあと思いました。きっと病気であることを隠したままいなくなってしまったのではないかなと感じます。
心をすり減らしたまま生きていく「わたし」に、少しでも日常の中に救いがあれば良いなと思います。これから少しずつでも前を向いて歩いていけるようになれることを願います。


80 海月の剣舞 / 鳥ヰヤキ様
ファンタジックな世界観が結構好きで面白い作品でした。『海月の剣舞』というタイトルがまた良いです。
前半は大役を任される少女の不安な心持ち、そして後半は、当日の剣舞の披露と海の精霊様との対話を中心に描かれます。
この海の精霊様が、想像していたよりもなかなか愛嬌があり、剣舞がまるで戦いのように描かれているのも面白かったです。
大役を終えてまた一つ成長し、自分のなかの世界を力強く広げたレーヤが逞しく、そして清々しく映りました。


81~85

81 サンセット・カフェを訪ねて / 彪峰イツカ様
セリフや文章の雰囲気から、洋画っぽいというか、舞台がアメリカ等海外のどこかなイメージでした。
話としては少し暗い内容も含むのですが、文体がからっとしていてするすると読むことができます。会話が流暢で、やはり映画を見ているようだなあと思いました。
ところどころ入れられた伏線や布石が鮮やかに回収され、晴れやかな気分になれるラストが素晴らしいです。


82 拝啓、モラトリアム様 / あじさい様
思春期の絶妙な心情を描いた作品だと思います。
旅行での宿泊先の隣のお姉さんが不思議な魅力に包まれています。ただたまたま旅行先で出会った人でも済ませることができるのですが、ただならない魅力と何かを持っているなあと感じます(特に最後の方)。本当にただのお姉さんだったのでしょうか……?
他人とは違う人生を歩みたいと思いつつもお姉さんの誘いに乗れなかった「俺」、という部分が、「俺」自身の本質をついているような気がします。


83 貝の道 / トウフ様
ぞくっとする系統でありながら、個人的に好みの話。
お姉さんは「その時」が来るまで自分自身が役目であることを知らなかったのかなあ?と思いました。お姉さんの爪の色が「カミ」の目の色と重なります。よそ者の人が、村の人たちと一つのことをする(今回の場合は食事をする?)ことによって内側に入り、受け入れられるようになる。因習のせいで余計よそ者に排他的なのかもしれませんね。
ある意味読者もよそ者であるため、全ては明確に示されません。恐ろしいながらもこの村の実態が気になる、癖になるような作品でした。


84 逝く夏、来ぬ夏。 / 月島あやの様
夏は毎年来ては過ぎて逝くけれども、望んでいる夏は来ない。
切ない夏の中で二人の友情がキラキラと光っている漫画作品だなあと思いました。
例えどの組み合わせでも二人の夏ではなく、三人での夏を願っているところがとても良いなあと思いました。
十和のキャラクターが好きです。お兄ちゃんはどこに行ってしまったのでしょう。りっちゃんが受験勉強をするのは兄のこともあるのかな?と想像させてくれます。


85 on your marks / 草群鶏様
熱血青春で眩しい作品。
チームが一つになって目標に向かって走っていく様がとても生き生きとして輝いています。
個人的にはこういった青春とは縁がなかったのでうらやましいなあと思いました。
ラストの「まだこのメンバーで走っていられる」という言葉が素敵です。この後どんな結果になっても悔いは残さないで欲しいなあと思いましたが、私が願わなくともきっと悔いは残さないだろうなと思わせてくれる光があります。


86~90

86 風鈴のお稲荷さま。 / 蓮魔様
人と妖のほのぼの交流プラス、最後はちょっぴり切ない作品。
訛った方言の会話が可愛らしく、より一層心が温まります。
「それで……」の後、葛葉は何を言おうとしたのでしょうか。聞けなかったことは残念ですが、その気になる読後感みたいなものが素敵です。
大人になっても結花が思い出の風鈴を大事に扱っている様子に、心がきゅんとなります。
葛葉も視えなくなってしまっただけで、本当は結花のことを傍で見守っているのかもしれません。


87 Aちゃんの団扇 / 雲鳴遊乃実様
朧げな記憶を思い出す「僕」。
忍び込んだAちゃんの家で、「僕」はAちゃんとの思い出を揺り起こされます。
思い出の内容も、Aちゃんが男だったか女だったかも、「僕」の中ではぼやけてしまっているのですが、そこが幻想的になっており、却って素敵だなあと思いました。
Aちゃんがどんな子だったのか、「僕」にとってAちゃんがどんな存在だったのか、読み手として想像したくなるような作品でした。


88 封印 / るね様
月だけが白々と輝く夜の海。遥か昔に封印された異界の者がこちらを見ている……こんなシーンを想像しました。
手足を縛られ、お札のようなものを貼られてはいますが、とても効果があるようには思えません(もしくは、効果を失くしてしまったのでしょうか)。
赤い瞳の視線がこちらを射抜き、何か思惑がありそうな表情が、とてもミステリアスで良い作品です。


89 Mirage / 紅藤あらん様
夏と冬。生と死。その対比が鮮やかに光るような作品だと感じます。
ファンタジー系の作風で、暗めで切ないような雰囲気ですが、最後は切ないながらも、温かいものが心に残りました。
双子の彼に会えないのは悲しいことですが、何よりあの冷たい場所に居続けている訳ではないことにほっとしたのと同時に、嬉しかったです。
彼のためにも、ボクにはこれから明るい未来を歩んでいってほしいなあと思います。


90 夕立 / 楠 海様
先輩が貸してくれた詩集は、一体どんな詩集だったのでしょうか?
語り手は詩を読む時を見つけたのだなあと思いました。
文章中に「喫茶店でも電車でも(略)」とあるように、普段の何気ない日常、自分が読みたい、読もうかなと感じた時が読むという行為のベストなのだと思います。
今回の雨宿りを通して、語り手はそれを実感できたのだなあと感じました。


91~95

91 ふたりで、幸福な夏を。 / 丹刀様
マキさんとルカちゃんの関係。ふたりはどのようにして知り合って、同居するに至ったのか、気になります。
ふたりのやりとりはなんだかほのぼのとしていて、現実の辛さを忘れさせてくれるようでした。
何気なく温かい現在の日常とは打って変わった、夢の内容。もう一つの現実だったかもしれないものは、無機質でただ歯車のように機械的な生活。ふたつの日常の可能性の中でマキさんのいる日常を選び取るルカちゃんが良いです。


92 私たちについて / カカロットおじさん様
千佳と「僕」はお互いに何か想っているような節があるのですが、いわゆる恋人的な関係までは行きつかないような、友情どまりで歯痒くもどかしい感覚を憶えます。個人的には一歩進んだ関係になるチャンスを逃してしまった後の話を見ているような気分でした。
蝉を触れなくなってしまったり、好きだった曲の名前を思い出せなかったりと過去の僕との隔たり、そしてそのことに対する寂しさを感じます。


93 檸檬に翼はない / 夜崎梨人様
一見否定的ですが、読むと違うことが分かる良いタイトルです。
ふたりは口には出しませんがお互いに一緒に居たいだけなのだなあと思います。
檸檬に翼はない=自発的な好意であると解釈しました。
この世界で天使(=翼)になるためには人を幸せにしなければならない。それはつまり義務的な行為。人々を幸せにすることは、天使になるという目的のための手段でしかないのです。
対して檸檬(レモネード)は他人に幸せになってもらいたいという純粋な行為に映ります。檸檬に込めた思いがとても素敵です。


94 木陰で休憩 / 櫻井更紗様
フリルのワンピースがかわいいです。髪の毛が短いのですが男の子っぽくなく、むしろ女の子の可愛らしさが引き出されているような気がします。
目の描きこみというか、光具合、つやつやしている感じが好きです。
どこかへお出かけをしに来たのでしょうか? 木漏れ日がキラキラと輝き、彼女を優しく包み込みます。優しいひと時を感じるイラストです。


95 夏を紡ぐ / 蒼木遥か様
「紡夏」という名前で、「夏を紡ぐ」というタイトル回収をするところが良かったなあと思いました。「洋輔」の親友である「夏生」の存在を感じさせる、良い名前ですね。
親友が事故にあいなくなってしまうという展開なのですが、やはり今まで大丈夫だったからといって、今回も安全とは限らないのですよね。事故にあわないための準備・ルールの大切さを教えてくれる作品です。


96~97

96 くらげの煙 / 薄明一座様
独特の雰囲気を持つ作品。個人的にはこの雰囲気が好きです。
くらげと出会う前、語り手の「私」にとって、世界というものは、あきらめと苦痛に満ちていたように思います。
しかし得体のしれない「くらげ」、あるいは【熱帯夜】と出会うことによって心持がほんの少し変化します。
乾き飢えた「私」と奇妙な「くらげ」との絶妙な対話と鮮やかな比喩表現のバランスが巧みでした。


97 まだ夏を見つめてる / 有郷多嘉良様
テキストにある「僕」が想っている夏の視点をみているような気分になるイラスト。
ひまわりとチューリップ?を持った彼女の瞳が僕を捕らえて離さない。
テキストを読むと、見つめてるというよりも見つめざるを得ないような感じもあったりする気がします。
見つめる夏、愛しい夏。一面の青色が美しく、一段と目を引く作品です。


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