見出し画像

シモキタ・スナップ 第6回:田靡秀樹 さん(BOOKENDS COFFEE SERVICEオーナー)

下北沢駅南口から茶沢通り方面に歩いて3から4分ほど。小劇場やライブハウス、飲食店で賑わう通りの一角の小さなコーヒースタンド「BOOKENDS COFFEE SERVICE」。

この時代に、豆にも淹れ方にもこだわり抜いたおいしいコーヒーが一杯なんと200円。道ゆく人がふと歩みを止めて、コーヒー1杯分だけリラックスして去っていく。そんな街の“止まり木”を下北沢の日常の中に作り出したBOOKENDS COFFEE SERVICEオーナーの田靡秀樹(たなびき ひでき)さんを撮影しました。

画像2

画像2

画像4

画像4

ー 「BOOKENDS COFFEE SERVICE」という名前は、サイモン&ガーファンクルの名盤から。BOOKENDにSがついて、複数形になってるでしょ。本を両側から支えるブックエンドみたいに、人の生活を少しだけ支えられるお店になれたら、と思って名付けました。

お店をオープンしたのは2014年の春なので、今年(2020年)で7年目です。僕はずっと音楽畑で、音楽制作をやってきましたが、プロデューサーやディレクターの仕事って、基本的に人のお世話役じゃないですか。僕ももういい歳になってきたので、自分の責任で自分自身が勝負するっていうことをやってみたくて、昔から思い描いていた、音楽とコーヒーをテーマにしたお店を開くことにしたんです。

ー もともと、下北沢に縁があったわけじゃないんですよ。吉祥寺か、高円寺か、下北沢か…音楽の文化がある場所でやりたいなとは思っていて、吉祥寺はSOMETIMEとかのジャズ喫茶、高円寺は70年代からのフォークの草分けの人たちがいた場所だし、下北沢はみなさんご存知の通り。ですが、僕は下北のことは、実は全くと言っていいほど知らなかったんです。お恥ずかしい話ですが、本多劇場すら知らなかった。

レコード会社と言っても、いわゆるメジャーレーベルのド真ん中にいたので、もちろん(ロフトとかシェルターとか)ライブハウスの名前くらいは聞くけど、基本的には仕事とは縁がなかったんです。今BOOKENDSがあるところって、元々は不動産屋さんだったんですよ。下北で物件探しをはじめて、一番最初に相談した不動産屋さんがこの場所で、ちょうどウチは撤退するからここに来ませんか?と言うので、素直に、じゃここでやらせてもらおう、と決めてしまいました。それで、お店をはじめてからだんだんわかってくるわけですよ。ライブハウスや劇場の真ん中にお店を出したんだというのが。オープンしてはじめてわかったというのが正直なところでした。(苦笑)

開店して7年目ですが、シモキタに飽きることなくシモキタの良さがまだまだ増していく7年目なんですよ。

今でも、仕事が休みでも下北に来ることがあります。

ー 音楽とコーヒーがテーマの店を作りたい、というのは、二十歳の頃からあったんです。音楽業界にいくか、コーヒー屋をやるか、ずっと考えていたくらいで。音楽もお店も、自分でいろいろ作ってみたい、というのが理由でした。

その理由は、僕が二十歳そこそこの頃(70年代)の喫茶店文化というのは、良質な音楽との出会いの場でした。サイフォンコーヒー、高級オーディオ、レコード、FM、タバコ…というのが喫茶店の基本セットで、気に入ったお店に何度も通ってマスターに顔を覚えてもらって。美味しいコーヒーを飲みながら、いい音楽を良質な音で聞く。それで、大人の仲間入りを果たせたような気がしていたんです。

僕にとって喫茶店で過ごす時間はとても大事な時間だったので、そんないい場所というか文化みたいなものを残したい、というのがこの店をやっている一番の理由かもしれません。アナログのジャケットを眺めながら、ちゃんとしたスピーカーで音楽を聞いて、コーヒーを飲んでもらって、音楽の話をして。ここで、レコーディングをしたり、ライブなんかもして。年配のご夫婦がやってきて、ジャケットを見て「懐かしいですね」なんて昔話をすることもあれば、若い連中が、「なんだろうこれ」みたいな顔で不思議そうな顔でみてるので、「昔はさ」って小煩いおじさんになってあれこれ話したり。それが至福の時間なんですよね。


ー ひとつ、僕の中でお店を作ったことによる小さな感動がありまして。1984年のクリスマスの時期にサンフランシスコに滞在していたんですが、ふと思い立って、向こうのFM(ラジオ)の音をカセットに録音し始めたんです。ちょうどマドンナがデビューするとかそんな頃の話です。

そうすると、曲はもちろん、いわゆるトイザラスのクリスマスセールとか、クリスマス関係のCMがいっぱいラジオで流れるんです。当時、アメリカに行っては録音していて、これがカセットにして20本くらいあるんですが、自分の中でお店をやる計画というのはこの頃からあったので、いつか未来に自分のお店が実現したらクリスマス時期には必ずこのカセットテープをかけよう、と思っていて。

2014年の初のクリスマスに、デッキにカセットテープを差し込んでこの音が流れた瞬間、30年越しに自分の中で、バイパスがつながった、というか、自分との約束をようやく守れたな、という、感慨がありました。その場所が下北沢だというのは、まさか、でしたけどね。(笑)

12月には毎年ずっとこのカセットを流しているので、よかったら少し耳を傾けてみてください。


田靡 秀樹

レコード会社でのプロデューサー、ディレクター、FM Nack5お台場サテライトスタジオ マネージャー、プロダクションの音楽事業部長など音楽畑での経歴を経て、2014年4月に下北沢南口にBOOKENDS COFFEE SERVICEをオープン。『音楽とコーヒーさえあれば人生なんとかやって行ける』がモットー。

撮影/原田教正 取材・文・編集/木村俊介(散歩社)


画像5


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?